裏切ったのはどっち?


「まあ、裏切り云々ってのは話は違うだろと思うけどな」


「どういう意味?」


話の流れが変わった。

ちゃんと続けてくれる意思を見せてくれるのはありがたい。

料理人らしく、さいごまで責任持ってくれないと困る。


「取り残された方は裏切られたって思うかもしれない。

逃げただけだって思うかもしれないけどさ」


食事の手が初めて止まった。


「そうでもしないと逃げられない状況自体、おかしいんじゃねえの?」


ドスを利かせた声で言った。

普段と勝手が違うから、どう対応していいか分からない。


「なあ、アイツといろいろと話してきたんだろ?

その辺に関しちゃ、どう思うんだ? 死神さんよ?」


包丁のような鋭い視線を突きつける。アンタはヤクザか何かか。

番長とか変なあだ名が多いと聞いたけれど、確かにその名前は的を射ている。


この人の煽り方は料理人のそれじゃない。

というか、それでよく務まってるな。

外の対応は部下に任せているのだろうか。


「どう思うって言われてもな……けど、受け取り方次第なんじゃないの。

自分で言ってたじゃない、死はただの事実でしかないって」


死はあくまでも死だ。事実でしかない。

救済と思うのは死んだ本人だけであり、裏切りと思うのはその周辺人物たちだ。

そう簡単にイコールで結び付けられる話でもない。


「だから、救世主も裏切り者もいないんだよ。最初から」


自分で言っておいて何だが、割と綺麗にまとまったと思う。

死神だって魂を運ぶだけの存在であり、何かをするわけじゃない。


「家畜は殺されるために生き、人間は生きるために殺す」


食われる前に食っておかないとな。

どうしよう、だんだんサイコパスに見えてきた。

そのうち人肉料理を何食わぬ顔で提供しそうで怖い。


「その理論から考えると、いつか死ぬ自分を大事にするのも決して悪くねえ話だと思うんだがな」


なるほど、そういう方向に行き着くのか。

話がちゃんとまとまってよかった。


「それができたら苦労しないって、あの野郎は言うんだよな……メンドクセー。

なあ、死神さん。アイツの転生先をもっとシンプルな人間にしてくんない?」


そう思った途端にこれかい。この緩急の差は何なんだろう。

あの金髪を初めて尊敬した。


「死神と話したがってる奴がいるって聞いたから、頑張ってきたってのに……。

生命をいじることはできないって何度も言わせないでよ」


「そうか? 死と生は隣り合わせだろ」


「担当外だっつってんだよ。

生を担当する奴はブチ切れると思うよ。

命を何だと思ってるんだって」


「まあ、俺は他殺者だからな。

食事のためなら何だって殺すさ」


まちがってないんだけど、本当にその言い方はどうにかならないのだろうか。

料理人から聞きたくなかったよ、そんな言葉。


「それ以前にさ、無駄に作って消費できずに粗末にしてるお前らがどうにかしろって話じゃねえの?」


「大量生産大量消費は発展につきものだからね、しょうがないね」


「そりゃそうだ」


私たちは肩をすくめて笑いあった。


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