あなたがくれた色

 早朝。まだ太陽にさらされて熱くなる前の道をユキとトテトテ歩く。

 すれ違うのは汗を流しながらランニングをする人、犬の散歩をしている人、ぼく達みたいなネコもいる。夏の朝は結構にぎやかだね。


「あ、あった」


 ユキが声をあげて走り出す。

 その先には鉢植えに入ったアサガオの花が上に伸びたツルにそってポンポンと咲いていた。ここのは赤っぽい花が多いかな。ほんのりと漂うのは夏の朝の匂いだ。


「きれい」

「うん、立派だね」


 今日はこれで3つ目。

 暑くなって朝に散歩をするようになってから、ぼく達はこうして「アサガオ探し」をしている。ユキもぼくも花が好きだし、アサガオにはいろんな色があって面白いからだ。


 前に気になって家にある植物図鑑で調べてみたら、アサガオもアジサイみたいに植わっている場所の土によって色が変わると書いてあった。とってもフシギだ。


「ユキは何色のアサガオが好き?」

「赤かな。だって、ナオがくれた色だから」

「ぼくが?」


 色をあげるってどういう意味だろう?

 意味がわからなくて首を傾げたら、ユキはくすくすと楽しそうに笑っただけで、「次のアサガオを探しに行こう」と再び歩き出してしまった。


 ◇◇◇


 その日の家族の夕ご飯はオムライスだった。

 ぼく達は食べないけど、たくさんの材料が小さく刻まれてフライパンの中で混ぜ合わされるところが楽しくて、少し離れたテーブルから観察することにしている。


 人参、玉ねぎ、ピーマンといった定番の具材に、ひまわり柄のエプロンを着たママさんが冷蔵庫の残りものをかき集めて入れていく。今回はソーセージやちくわを入れるみたいだ。


「食感がそれぞれ違うし、賞味期限の近い食べ物も減らせて一石二鳥なのよね」


 ママさんが呟きながら、ジャッジャッジャと手早く炒めていく。その音が増すにつれ、具材が焼ける匂いが立ちのぼり始めた。


「よいしょ、っと」


 そこにご飯とケチャップを加えたらお皿に移して、焼いた卵をふんわりと乗せればタンポポオムライスの完成。匂いにつられて集まってきた家族がハートや星型など、好き勝手にケチャップで絵をかけば食事の開始だ。


『いただきまーす!』


 その一家団らんの様子を見ながら、ユキが「オムライス、きれいだな」と言った。黄色と赤の組み合わせが好きみたい。

 すると朝の会話を思い出したのか、続けて理由を教えてくれた。


「初めて赤い花を見た時は本当にきれいだなって思った。『ナオと一緒にいたい』って神さまにお願いして、今の自分になれたから見ることができるようになった色だから」


 だからナオのおかげだし、好きなんだ、と。

 ぼくはハッとした。そうだ、普通のネコは赤を知らないんだ。ぼく自身にはずっとずっと昔に起きた「変化」だったから、すっかり忘れてしまっていた。


「うーん、それはやっぱり神さまのおかげじゃない?」

「もちろん感謝してるよ」


 でも、ナオのくれたものだって思いたいんだ。ユキはそう言ってから「明日もアサガオ、探しに行こうね」と続けた。


 ――うん、赤いのが見つかるといいよね。

 ぼくも赤が大好きになりそうな予感がした。

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