春風の出会い
「ネコさんたち、こんにちは!」
冬の寒さが和らいできたある日、ご近所さんの塀の上でユキと日向ぼっこしていたら、下から明るい挨拶が飛んできた。
起き上がって確かめてみると、両手を振りながらぴょんぴょん跳ねてアピールしている女の子がいた。背中ではその子が弾むたびにランドセルがカタカタ鳴っている。まだ2年生くらいだろうか。
ぼくは「こんにちは」と返した。もちろん、女の子には「にゃあ」と聞こえているはずだ。それでも返事を貰えて嬉しかったようで、にっこりと笑った。
「おなまえは何ていうのかな?」
人間は時々、そんな質問をしてくる。
隣でユキが答えてあげていたけど、自問自答や独り言に近い問いかけだ。きっと、頭の中であれこれ想像して楽しんでいるんだろうな。……と思っていたら。
「ナオちゃんとユキちゃんていうんだね。かわいい!」
あれ? 首輪に書いてあったのが見えた?
「ねぇ、ネコさんたちはかぞく? どこに住んでるの?」
「あそこのマンションに一緒に住んでるよ」
「わぁ、ちかいね。うちもすぐそこなんだ。少しまえにひっこしてきたの!」
女の子はユキと会話を続けながら目をキラキラさせて喜ぶ。うーん、これはしっかり会話が出来ているよね。
◇◇◇
ミユウと名乗ったその子はしばらく話したあと、「またねー、ばいばーい!」と手を振って行ってしまった。
「久しぶりに会ったなぁ」
ぼくが言うと、ユキも「まだいるんだね」と応えた。
実は、動物と話せる人間は時々いる。特に小さな子どもに多くて、成長するにつれて話せなくなっていくみたい。
だから、小学生のミユウと喋れたことにはビックリしてしまった。
「みんなと話せたらいいのにね」
ユキが言う。確かに、長田家のみんなとの生活に困ることなんてないけど、言葉が通じたら楽しいこともあるかもしれない。
でも、反対にルカやショータに「もっと勉強教えて!」って鼻息荒く迫られたり、タカヤに深刻な相談事を持ちかけられたりして困るようになるかも……?
だったら今のままでいいかなぁ。
「ユキはどんなことを話したいの?」
「ナオのこと」
ぼくのこと? 首をかしげたら、ユキは笑って言った。
「一緒にいられなかった間のナオのことをもっと知りたいし、昔のナオのこともたくさん教えてあげたいな」
写真を見せてもらったことはあるし、ぼくから伝えたこともある。でも、もっと多くの記憶や思い出が家族の胸には詰まっているはずだからと。
……そっか、そうだね。ぼくも、ユキの話をみんなに聞いてもらいたいって思うよ。
「いつか話せるといいね」
「うん」
ミユウが駆けていった方を見ながら
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