大掃除と「秘蔵の書」

 華やかなクリスマスが終われば、今年もあと少し。どこの家も新しい年を迎えるための準備に入る。

 長田おさだ家もそれは同じで、一家揃って家中の片付け――大掃除を始めた。


「まずは部屋からだな。終わったらリビングに集合!」


 家長の隆哉たかやが号令を出し、他のみんなも『はーい』と素直に返事をして去っていく。行き先は、夫婦は寝室、ルカとショータは子ども部屋だ。

 ふと、行きかけたママさんが足を止め、こちらに声をかけてきた。


「ホコリを吸い込んじゃうといけないから、ふたりは避難しててね」


 そう言って、ぼくとユキを抱えて脱衣所に向かう。それからすぐに小さなホットカーペットにご飯や水、トイレを持ってきてくれた。

 最後に空気清浄機を置いてスイッチオン。静かな音を立てて機械が動き始める。


「困ったことがあったら呼んでね」

「にゃあ」


 ちょっと狭いけど日あたりは悪くないし、出たくなったらネコ用の扉もあるから大丈夫。ちょっとした秘密基地みたいで面白い。


 すると家のあちこちからガタガタ、ごうごうと音がし始めた。家具を動かしたり、掃除機で吸い取ったりしているみたい。

 子ども部屋からは姉弟のケンカする声も聞こえてくる。


「早く終わるといいね」


 ユキも大掃除が何なのかは知っていて、言いながらカーペットにコロンと寝そべった。ぼくもくっ付きながら「うん」と応える。

 こうしてぬくぬくと眠っていれば、きっとすぐ終わるんじゃないかな?


 ◇◇◇


 部屋の掃除が終わったら、今度は共用スペースだ。子ども達はリビングと玄関、大人は水回りを担当するらしい。

 秘密基地だった脱衣所も掃除しないといけないので、ぼく達は寝室に引っ越した。


「閉じ込めて悪いな。これでも見て、もう少し我慢しててくれ」


 隆哉がベッドの上に出したのは数冊のアルバムだった。その表紙に書かれているタイトルにユキが目を丸くする。


「ひぞうのしょ?」


 そう、そこにはしっかりと「秘蔵の書」と記されていた。まぁ、あんまりアルバムに付ける名前じゃないよね。冒険物語か、ゲームの中みたいだ。


 白ネコが驚いているのが分かったのか、隆哉は悪戯っ子みたいに笑い、さっさと行ってしまった。

 ぼくは「とにかく開いてみたら?」とすすめた。ぼくも見るのは久しぶりだなぁ。


 アルバムの中は長田家の家族写真でいっぱいだった。家で撮ったものもあれば、近所の景色を写したもの、旅行先の光景もある。


 ぱらりと何ページかめくって、ユキが「ナオだ」と呟いた。

 どれもみんな楽しそうな笑顔で、そして全ての写真に真っ黒な子ネコ――ぼくが写りこんでいたからだ。


「これ、ナオのアルバム?」


 ユキの問いに、ぼくは更にパラパラとめくる。新しいページにはユキも登場していた。


「ぼくとユキのアルバムだよ」


 ユキは「あっ」と声をこぼし、それから「嬉しい」と続けた。家族の気持ちに気付いたんだと思う。


 一緒に写りたい。この時間、瞬間を残しておきたい。でも、おおっぴらには出来ない。いつ、何があるか分からないから。

 だから、こっそりしまっておこう。家族だけが見られる場所に……。


「それで、『秘蔵の書』なんだね」

「うん」


 何冊もあるアルバムをめくってはお喋りしていると、時間はあっという間で、気が付けば大掃除はすっかり終わっていた。

 戻ってきたママさんがぼく達に向かってスマホを構え、ぱしゃりと撮影する。


 ほら、また1枚増えたね、ぼく達の思い出が。



 ◇お読み下さってありがとうございました。

 皆さまも、良い年をお迎えください。

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