真夏のお便り

 空に海、ひまわりや朝顔。家族写真に旅先の風景――。

 長田おさだ家には、毎年夏になると何枚かの暑中見舞いハガキが届く。


 親せきやタカヤの仕事関係がほとんどで、たまにルカとショータの友達から送られてくる時もある。

 夏らしい定番の絵柄にだってバリエーションがあるし、そえられた言葉までが弾んで見えて、眺めるだけで楽しい。


 だから、その日もポストに届いたハガキを見せてもらおうとしたら、いつもとちょっと違っていた。

 リビングのテーブルで1枚ずつ確かめていたショータがぼくに言ったんだ。


「ほら見て、ふたりに暑中見舞いが来てるよ!」


 ユキと顔を見合わせてからそのハガキを覗き込むと、あて名のところにはショータの名前があって、その横には本当に「ナオ様 ユキ様」と書かれていた。


「わぁ、暑中見舞いをもらうの初めて」


 嬉しそうなユキの隣で、ぼくは差出人の方を見てみた。

 そこにはショータの幼馴染みであるユウトの名前と一緒に「コテツ」と書いてある。コテツは少し前に知り合ったばかりの、元気いっぱいの友達だ。


「うん、ぼくも子犬から暑中見舞いをもらったのは生まれて初めてかも」


 前足でポンポン叩いて合図すると、ショータが裏返してくれる。とたん、黄色い花が一面に咲いたみたいに、散りばめられた足形が目に飛び込んできた。


 まるでコテツそのものだ。シッポを振り回しながら跳ねる姿が頭に浮かぶ。

 ハガキの下の方にはユウトらしい字で、「また遊びにきて」とメッセージも書かれていた。


 ◇◇◇


「あぁ、こっちこっち!」


 さっそく、ユキとショータを連れてユウトの家に遊びに行ってみると、お庭の方から声がかかった。バシャバシャという水音も聞こえてくる。

 目を向けてみれば、全身ぐっしょりの子犬が走ってくるところだった。


「ナオ、ユキ―!」


 その勢いにビックリしてぼく達がショータの後ろにさっと隠れると、コテツは体をぶるぶる震わせる。


 はじけ飛んだ水しぶきを思いきり浴びたショータは「わっ!?」と声を上げて腕で顔をかばったけど、足りるはずもない。

 あちゃあ、一瞬でびしょぬれだよ。


「コテツ~っ」


 恨めしそうなショータに、あとからやってきたユウトが「ごめんごめん」と謝りながら乾いたタオルを手渡す。

 なのに、びしょぬれにした本人は気にする様子もなくパタパタとシッポを振って言った。


「あれで遊んでたんだ。入っていく?」


 顔を向けた先にはカラフルなビニールプールとビーチボールが太陽の光を浴びて光っている。なるほど、それでビショビショだったんだ。


 ぼくはちらりとユキを見てから首を振り、「にゃあ」と一声鳴いてショータの足にピタリとくっついた。

 言いたいことはちゃんと伝わって、ショータはタオルで手を拭いてからズボンのポケットからハガキを取り出す。


「はい、お返し。せっかくだからみんなで持ってきた」

「……ははっ!」


 受け取ったユウトは裏を見てすぐに笑顔になる。そこにはピンクと水色の肉球スタンプが所狭ところせましと咲き乱れていた。

 コテツにも「ほぅら、返事がきたぞー」と見せてやる。


「じゃあスイカでも、って、その前にコテツを拭かないと――わわっ、やめろって!」


 言い終わる前にまたもコテツが体を大きく震わせ、盛大に水滴を散らした。

 今度はぼくもユキも、体を拭いていたショータもやっぱり浴びてしまって、みんなで大騒ぎだ。


 ユウト達はコテツを拭こうとするのに、子犬は追いかけっこだと思って逃げ回る。ぼくとユキはしばらくそれを眺めながら、お互いをペロペロと舐めた。


「追いかけっこが終わるころには、乾いているかもしれないね?」


 楽し気なユキに、ぼくも「そうかも」と応えたのだった。

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