《閑話》ネコへの恩返し
※長田家の「ママさん」こと、
私は昔から「不思議なこと」が好きで、その時も民俗学の本が並んだ棚を眺めていた。
ふと、目にとまった本を取ろうと手を伸ばしたら――誰かの大きな手とコツンとぶつかってしまった。
『あ』
驚きの声が重なり、自然と視線が重なる。そこには背の高い男子学生がキョトンとした顔で立っていた。
きっと私も似たような表情をしていたことだろう。
だって、取ろうとしたのは昔話や民話、伝説などについてまとめられた本で、その大学にはそういったものを研究対象とする学部などなかったのだから。
でも、そこでは単に顔を合わせただけだ。
本は譲り合った末に私が先に借りることになったけれど、彼のためにも早めに読み終えて返却した。それだけの出来事に過ぎなかった。
『あ』
相手を意識するようになったのは、同じ棚の前で再び
同じ場所で、同じような顔をして。声まで重なったのがおかしくて、私は思わずクスッと笑ってしまった。
相手もつられてはにかんだ。優しい笑顔だった。
以来、私達は時々そこで会うようになった。
二度くらいなら同じ学校の学生なのだし、そういう偶然もあるだろう。けれど三度、四度ともなればそのジャンルが好きに違いない。
「少し話さない?」
「え?」
自分にとってはごく自然な流れだった。
図書館のそばにあるカフェスペースへその男子学生を――
ごくごく当然の成り行きだった。
「うわぁ、可愛い~!」
真っ黒い子ネコがこちらをじっと見つめてくる画像なんて反則だろう。
あとになって、隆哉がナオに必死に頼み込んで撮らせてもらった貴重な一枚だと知り、大笑いすることになるのだけれど。
◆◆◆◇◇◇
ソファの上で寄り添う白黒の子ネコ達は今日もとっても仲良しだ。
「ナオ、ユキ。一枚撮らせてもらっていい?」
こちらを気にしている様子だったので、その画像を見せて「ありがとうね」と
私は常日頃からナオとユキに感謝や愛情を伝えるようにしていた。
二匹のような存在にとって、人からの「想い」がご飯と同じくらい大切な栄養だと信じているから。
だから、もう一度「ありがとう」と繰り返してから、その黒い鼻先にちょんと触れた。
「精一杯、恩返ししちゃうからね。子ネコのキューピットさん?」
撮れたばかりのベストショットを眺めながら、夫に見せたらさぞ悔しがるだろうなと思い付いて笑ってしまった。
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