ネコのすごろく

 しとしと、ぱたぱた。外は止めなく雨が降っている。

 今は鮮やかな紫陽花あじさいが大喜びする季節、「梅雨」の真っただ中。ここはマンションの一室だけど、カエルの鳴き声が遠くから絶え間なく聞こえていた。


「あったあった!」


 当然、これでは外へ散歩にも出られない。

 長田家のみんなは室内遊びでもしようと言って家のあちこちを探し回り、押し入れの奥からショータの手によって引っ張り出されたのがすごろくだった。


 うん、少し古ぼけているけど、サイコロもちゃんとあるしまだまだ遊べそう。

 楽しそうな様子を眺めつつ、いつもながら仲の良い一家だなぁとのんびり思っていたら、ルカがにっこり笑ってぼく達に言った。


「ねぇ、ナオとユキもやろうよ!」

『にゃあ?』


 ◇◇◇


 ぱしっ、ころころころ……。

 ぼくが小さいサイコロを両前足で挟んで投げると、四角いそれは軽快に床を転がる。ママさんがぼくの分のこまをそっとつまんだ。


「3ね。いち、にち、さんっと。じゃあ、次はユキの番」

「ニャ~」


 ぱしっ、ころころころ……。

 今度は白い前足がしっかりとサイコロを弾いて転がした。結果は――4。みんな、なかなかの接戦だ。


 ユキは今回がすごろく初体験らしいけど、それなりに楽しんでいるみたいで良かった。勝負の行方ゆくえより、サイコロを転がす方が好きみたいだけどね。

 すごろくが終わったら遊ばせてもらおうかな?


 そんなことを考えていたら、もう少しで上がりそうなところまで駒を進めていたルカがぽつんと呟いた。


「すごろくって色々な種類があるよね。だったら、『ネコのすごろく』ってないのかな?」


 ネコのすごろく?

 ぼくを含め、みんなの視線が自然と集まる。ルカはサイコロをぽいっと投げて、「進むごとにネコと仲よくなれるすごろく」と続けた。


「ほら。お菓子をあげるとか、ネコじゃらしで遊ぶとか。一緒にお昼寝したり、散歩したりして少しずつ仲良くなっていって……あ、ゴールは『ネコ集会に連れていって貰う』ってのはどう?」


 面白そう、と長田家の面々は笑顔でうなづき、じゃあこんなのはどうだろう、あんなのも入れたいよね、などと会話に花を咲かせた。

 中には「お茶をする」だとか、「クイズ番組を見る」なんてのもあって、笑ってしまった。それ、我が家でしか通用しないすごろくだよね。


「よし、じゃあ今度はそれを作ってみんなでやろう。というわけで、いちあがり!」

『ええ~~っ!?』


 見事一位に輝いたタカヤが高らかに勝利を宣言し、他のみんなは会話に気を取られてすっかり忘れていた盤上ばんじょうを見て驚きの声をあげたのだった。

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