お花見
体を震わせる冷たい風が和らいできた頃、ショータは小学校を卒業し、ルカもいよいよ受験生になった。
本人は「まだ春だし」と言ってるけど、大丈夫かな?
そんな騒がしさがひと段落したある日、ママさんの両親に誘われて長田一家は近所の土手に歩いて出かけることになった。
「忘れ物ないか?」
まだ少し早い時間。動きやすい格好をした手には敷物や水筒、そしてまだ温もりの残るお弁当の大きな包み。
タカヤの呼びかけに子どもたちは『ばっちり!』と元気よく応えた。
ぼく? ユキと一緒に行くことにしたよ、年に一度の素敵なお花見にね。
「わ~、きれ~!」
土手沿いには立派な桜並木がずっと向こうまで続き、どれもが薄いピンク色の花を満開近くにまで咲かせていた。
ルカが今回もスマホで景色を撮りまくり、みんなも顔を
さわさわと優しい風が吹き抜ける。そのたびに花はハラリと散って、道に少しずつ色を付けていく。まるで冷たくない雪だ。
「いいニオイ」
「うん、良い匂いだね」
ユキと言い合っていると声が聞こえ、おばあさんが「こっちよー」と笑顔で手を振っている。その腕にはまた更に大きくなった気がするぶちネコの姿があった。
マンションよりも土手に家が近いおじいさんたちが、場所取りをしておいてくれたのだ。
すでに広げられている緑の敷物の隣に、一家も青いビニールシートを敷いて、食べ物や飲み物の包みを開く。
中からはママさん特製のサンドイッチがお目見えした。
白いパンの間からはレタスにキュウリにトマト、タマゴなんかが色とりどりにのぞいて、とても美味しそうだ。
おばあちゃんが出してくれたオニギリもある。中身は何かな?
「食べて良い?」
「ちゃんと手を拭いてからね」
我慢できないといったショータに、ママさんがウェットティッシュを手渡す。
それからお茶を注いだ紙コップを配って、ぼくたちにもおやつの煮干しをくれた。
「みゃあぁ!」
リンも久しぶりにみんなに会えて大はぎゃぎだ。
何かにつられて飛び出さないようにリードが付けられていて、その先をおじいさんがしっかり掴んでいる。……また引っかき傷が増えてるね?
「増えたんだな」
おじいさんの隣に座ったタカヤが短く「はい」と応えた。二人はぼくの隣でのんびりと横になったユキを見る。
やがて、おじいさんは「そうか」とだけ言って、脇に置いた濃い色のビンに手を伸ばした。
「……しっかりな」
「はい」
とくとくとく……、透明な液体が小気味よい音と共にコップに注がれる。
そこに桜の花びらが一枚落ち、静かに浮かんだ。
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