赤い三角帽子・後編
予想通り、翌朝を迎えると町は白一色になっていた。
おまけに抜けるような晴天だ。
ぼくはリビングに敷かれたホットカーペットの上でぬくぬくと温まっていたけど、家族はみんなソワソワして落ち着かない様子だった。
年に一度のクリスマスだもんね、仕方ないのかも?
「晴れて良かったぁ」
「また降ってこないうちに買い物に行こうよ」
ルカとショータが口々に言い、大人たちもそうだなぁと同調する。
姉弟は昨日のうちに友だちとのパーティーを終えていて、今日を家族で祝う日にしていた。
準備も着々と進みつつあるみたいだ。
部屋の端っこにはショータの背丈くらいのクリスマスツリーが置かれ、雪を模したフワフワの綿や、綺麗なオーナメントが飾られていた。
そのてっぺんでは大きな星が目に眩しい光を放つ。
料理も昨日のうちにほとんど出来上がっていたから、あとはケーキや足りないものを買いに行くんだろうね。
そして身支度を終えたみんなを見送ろうとした時だった。
ふいにタカヤがぼくに聞いてきたのだ。
「ナオはどうするんだ?」
「にゃ~……、にゃあ」
「よし、じゃあ行こう」
そうだなぁ。せっかくのお誘いだし、行ってもいいよ。たまには家族そろってのお出かけも悪くないからね。
そう返事をすると、タカヤは嬉しそうにぼくをヒョイと抱え上げた。
それからは近くのケーキ屋さんに寄り、みんながスーパーで買い出しをしている間は大きなケーキの見張り番に任命された。
と言っても、青い車の後部座席にママさんと二人でだ。
「ねぇ。ナオはサンタクロースって居ると思う?」
「にゃ?」
「私はいると思うの。……というより、うちのサンタさんはナオかな?」
茶目っ気を含んだ調子で不思議なことを言い、ママさんはくすっとぼくに笑いかけた。
帰り着いたと思ったら、そこはマンションではなくて一軒のお宅だった。
あれ、ここはもしかして?
最後まで思い切る間もなく、「みゃあ~」と声がしてリンがじゃれついてくる。
「みんな、いらっしゃい」
そこはやはりママさんの実家で、出迎えたのは彼女の母親だった。
広い玄関の向こうからは、キッチンに用意されているらしい料理の良い匂いがふんわりと漂ってくる。
この甘い感じはクリームシチューかな? チキンもありそうだ。
「どうだ、びっくりしただろ? 計画は大成功だな」
タカヤが悪戯っぽく笑って、昨日もらったばかりの赤い帽子をポンとかぶせてくる。
そこでぼくは「自宅へ帰る前にちょっと寄った」わけではなさそうだとようやく気付いた。
他のみんなもニコニコしていて、代表してママさんが教えてくれる。
「今日はここでパーティーをするのよ。はい、これはナオとリンへのプレゼント。いつも一緒にいてくれてありがとうね」
そんな言葉とともに差し出された白い箱の中身は、ぼくソックリのネコの顔の形をしたなんとも可愛らしいケーキだった。
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