里帰り・前編

 8月も半ばを迎え、今年もお盆がやってきた。

 ぼく達は一家揃って、車で数時間の距離にあるタカヤの実家へと帰省することにした。

 ぼくにとっても実家みたいなものかな?


「こんにちはー!」

「良くきたねぇ!」


 昔ながらの日本家屋の玄関をくぐると、満面の笑みを浮かべた白髪頭のおばあちゃん――ミコが出迎えてくれる。

 会うのは半年ぶりくらいだけど、全然変わってないね。って、ひとのことは言えないか。


「二人ともまた大きくなったね」

「そうかな?」

「僕は背が伸びたよ!」


 孫のルカとショータに声をかけ、車の運転に疲れたらしいタカヤ、ではなくその嫁のユイカと笑顔で挨拶を交わす。


 そして最後に、懐かしの我が家の匂いをスンスンとぐぼくに向かって、「ナオもお帰りね」と言ってくれた。

 うん、やっぱりここがぼくの実家だね。


 

 畳の部屋に入れば、ふすまも開け放たれて広々としていた。


 奥にでんと鎮座した仏壇では線香が白い筋を上へと伸ばし、落ち着く香りを場に満たす。

 その匂いに誘われ、手前に置かれた座布団にちょこんと座った。


「にゃあ」


 みんな、ただいま。帰ってきたよ。


 すると線香の煙がゆらゆらと揺れ、ぼくを歓迎してくれる。背中もほんのり温かく感じた。


「あら、ご先祖様ももうお帰りになっているみたいね」


 後ろから見ていたミコが言い、ぼくの代わりに鐘をリーンと鳴らす。どこまでも響いていくような澄んだ音色だった。


 あとは、この家に住んでいる長男一家や、普段は散り散りになっている親戚がどやどやと居間に集まってきて食事会が始まる。

 みんな、先祖の墓参りは理由の半分で、もう半分はぼくに会うためだ。


「ナオ、元気にしとったかぁ」


 ベタベタされるのは好きではないし、久しぶりだからって愛想を振りまく気もない。

 縁側に座って庭を眺めたまま、尻尾だけをパタパタさせて返事をすると、わっと場がいた。

 ま、喜んでるなら良いか。


 ワイワイという騒ぎをぼんやり聞いている間にも夜は忍び寄ってくる。


 セミとカエルが鳴くのを交代する頃に、ぼくも「挨拶」に回るとしようっと。

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