第2部 夏のおはなし
夏祭り
ぼくはナオ。
とあるマンションで
小柄な体は、ピンと立った耳からシッポの先まで真っ黒で、瞳は緑。
ぼくを見た人は大抵、「可愛い仔猫」って笑顔になる。小さいって言われるのはちょっと悔しいけど、事実だから仕方ないね。
でもぼくは子どもじゃない。別に強がりじゃなくて、本当に何年も何年も生きているんだ。
それこそ、みんなが生まれるずーっと前からね。
これはごく普通の家で過ごしている、普通じゃないネコの、ひと夏のお話。
◇◇◇
「早くはやく!」
夕闇が遠ざかり、本格的に夜が訪れる時刻。
パンパンと空気が弾ける音が遠くの方から聞こえて、ショータが家族を
「それじゃあナオ、行ってくるよ。部屋は暗くしておくからね」
「にゃ」
髪を結い、金魚柄の可愛らしい浴衣を着たルカが声をかけてくるので、ぼくも窓際から短く返事をした。
今日は近所の神社で夏祭りが行われる日。さっきの音は始まりの合図だ。
家族はリビングの電気を消してから手に手にうちわを持ち、慌ただしく出かけていった。
いってらっしゃい。
お祭りが何なのかは、ネコであるぼくも良く知っている。
昔に何度も行った田舎のお祭りは面白かったなぁ。
フワッフワの雲みたいなわたあめ、ソースの匂いが香ばしいたこ焼きに焼きそば、赤い色が鮮やかなリンゴ
他にも、明るい
ここのお祭りは
最近はポテトやクレープを売る屋台も珍しくないし、電球型のジュースなんてものも流行っているみたいでビックリだ。
今回はなんだろう? とっても楽しみだな。
そのうち、どーんどーんと大きな音がして、河原の方が明るくなった。
――花火だ!
ぼくは窓際の特等席から、ガラスの向こうに咲く赤や青や黄色の
全身を揺さぶるような大きな音は苦手でも、夏だけに見られるキレイな色は大好きなのだ。
ちょっと
「ただいまぁ」
「ナオーどこー? 面白いものがあったよ」
「にゃあ」
そのうちに、お祭りを満喫して帰ってきた家族が電気をつけながらぼくを呼び、「見てみて、こんなの売ってたよ!」と見せてくれたのは、なんと真ん丸なピザのマルゲリータだった。
今年の夏祭りの思い出はこれで決まりだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます