お散歩

 ぼくはナオ。ペット可のマンションで長田おさだ家に飼われているちょっと普通じゃない黒猫だ。


 今は日課の散歩に出ている。

 ただの気分転換ってだけじゃない。ナワバリの見回りという、ネコにとっては大事なお仕事の真っ最中だ。


 ふんふん、変なニオイとかはしていないな。風もそよそよと吹いていて良い気持ちだ。


 ネコには秘密の集会所が幾つかあって、そのうちの一ヶ所である公園の茂みの奥に立ち寄ってみると数匹のネコが居た。


「あ、ナオさん。おはよーございます」


 ぼくよりずっと大きな茶色の毛並みのネコが声をかけてくる。他のネコ達も口々に挨拶をしてくるので、こちらも「おはよ」と返す。


 ま、人間が聞いても「にゃあにゃあ」言い合ってるだけにしか聞こえないだろうね。それより、だ。


「……もっと普通で良いんだよ?」


 ぼくはもう何度口にしたか分からない意見を言った。けれども、ネコ達は『そうはいきません』とユニゾンしてきて、揃って首を横に振る。ついでに尻尾も。

 そうして「ナオさんはナオさんですから」なんて返すのだ。



 今のマンションに一家と越してきたのは、もう十五年以上も前になる。あの時は大騒動だったなぁ……って、そんな話はいいや。


 とにかく、田舎からほんのちょっとだけ都会なこの町に出てきた当初、ぼくは当然周囲の探索を始めたわけだけど。

 困ったことに出会うネコ出会うネコ、みんなして、


『長老さまだ! 長老さまが来た!』


 と言って頭を下げてきたのだ。これには凄くビックリしてしまった。

 ネコには人間よりずっと強い「第六感」みたいなものがあって、それでぼくが普通じゃないことをぎ取ったみたい。


 田舎はみんなフレンドリーだったのに、都会のネコの方が信心深いなんて変なの。小さいからって馬鹿にされたりしないのは助かるけどね……?


 これでも「『長老さま』は恥ずかしいからやめて」とお願いして、なんとかやめて貰ったのだ。その結果が「ナオさん」。

 うーん、みんなよりずっと年上なのは事実だし、我慢するしかないのかな。


 でも、たまに真剣に拝まれてしまうから気を付けないといけない。ぼくは神さまじゃありません。「にゃむにゃむ」と拝みたいネコはお近くの神社へどーぞ!



「お帰りナオ。待ってたぞー」


 そんな感じであちこち見回ってから家に戻ってみると、先に小学校から帰ってきたらしいショータが待ち構えていた。

 言われなくても分かる。ぼくをお風呂に入れる気だね?


 おっと、もしかして家中走り回って逃げるところを想像した? だとしたらお気の毒さま。ぼくは温かいお湯に浸かるのが大好きだ。シャンプーも平気。

 あ、冷たいシャワーだけは別ね。


 そしてショータはぼくをヒョイと抱え上げ、お風呂場へと向かったのだった。


 ……はわ~、今日も良いお湯だな~。



《第1部・終》

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