朝の日課

 ぼくはナオ。

 とある一家に飼われている、ちょっと普通じゃないネコだ。


 そんなぼくの朝は早い。まだ薄暗いうちに、リビングにあるふかふかの猫ちぐらから抜け出すと、まずは家の中を見回るのが日課だ。

 ……よし、リビングは異常なさそう。


 それから一番近いところにある扉を開けて、夫婦の寝室にお邪魔する。

 一家の主であるタカヤとママさんが眠っているベッドの上にピョンと飛び乗り、ママさんの顔の近くで小さく「にゃ」と鳴いた。


「……おはよう、ナオ。いつもありがと」


 ぱちりと目蓋まぶたが開いて、大きな瞳がぼくを捉える。

 ママさんとは毎朝競争しているのだけど、今日はぼくの勝ちだった。ちょっと嬉しい。


 ママさんが自慢のセミロングの茶髪をくしで整え始めたのを確認してから、タカヤに目を移す。

 昨日も仕事で夜遅く帰ってきたせいか、まだ完全に夢の中だ。寝かせておこう。


 さて、お次は子ども部屋だ。

 大きめの部屋の真ん中をカーテンで仕切って、中二のルカと小六のショータとで使っている。

 あ、またショータは靴下を脱ぎ散らかしているな。鼻先に置いてやろうっと。


 そのうちにママさんがキッチンで朝食の準備をする音が聞こえ始め、家族を起こす声が響くのだった。



「おはよう、ナオ」


 ルカはママさんに似て寝覚めが良い。

 毎日、部活の朝練習があるらしく、テーブルに着くやいなや慌ただしくトーストやサラダを口に詰め込み、オレンジジュースを飲んだらもう出発だ。

 いってらっしゃい。


「わっ、なんで顔の前に靴下があるの!? ……ナオだなー!」

「何言ってるの。ちゃんと洗い物カゴに入れておかないからでしょ」


 怒るショータをすかさずママさんがいさめてくれる。

 そーだそーだ、イタズラじゃなくて親切です!


 そんなこんなでショータと、ようやく起きてきたタカヤをママさんがバタバタと学校と会社とへ送り出せば、ようやくホッと一息つける時間になる。


「ナオ、出来たわよー」

「にゃあ」


 朝食を片付けたテーブルの上にはママさんが飲む紅茶と、ぼくの猫用ミルクと煮干し、それから新聞が載せられている。

 そう、ぼく達はお茶友だちなのだ。


「ねぇ、ここ見て」


 そう言って、ママさんは新聞のあるページを広げて見せてくる。


 ネコ相手のただの「ごっこ」じゃない。この一家――長田おさだ家に嫁いだママさんも、ぼくが普通のネコじゃないことを知っていて、文字が読めることも承知しているのだ。


 なになに? ……ふぅん、そんなことがあったのか。「にゃむにゃむ」言いながら目を通していると、ママさんはそっと手を伸ばして背中を撫でてくる。


 普段はそこまでベタベタしないけど、朝のティータイムはトクベツだった。なにしろ煮干しがあるからね。


「今日ももう少ししたら仕事に行くけど、ナオはお散歩かな?」


 ママさんは近所のスーパーでレジ打ちのパートをしている。

 そうだね、ぼくもナワバリを見回りにいかないとね。「にゃあ」と返事をしてから、お皿に残ったミルクをペロペロと舐めるのだった。

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