第3話 彼女のために
一月。
高校生議会のために、僕たちは市の議会へと集合していた。
考える内容は、住みよい町にするために出来ること。
今日までに提案する内容をまとめ、あらかじめ議会の方に送っていた。
僕たちはいくつかのグループに分かれて議会の中を案内される。
「なんか緊張するな」
「うん。それに高そうなカーペット」
「金かけとるなぁ」
さすが議会とだけあり見栄えが良く、物の一つ一つに高級感が漂っており、気やすさを感じさせない堅苦しい印象を感じさせた。
廊下も、カーペットのおかげか歩くのが楽だった。
****
「シャッター商店街が多いので、宮崎県の日南市を見習って、もっと新しいことを取り入れていくべきだと思います」
「制服の古着を市が仲介して、フリーマーケットのように売買することを促進するのはどうでしょうか?」
集まった高校生それぞれが、各々の意見を述べていく。
「奨学金援助の見直しや、学生などにボランティアを推奨することも大切です。また、SNSなどで、市の取り組みを発信していくのも大事だと思います」
いよいよ、僕の番になった。
緊張で震える手で資料を持ち、机に取り付けてあるマイクに口を近付ける。
「私は、プラスチック製品の規制、また、街や川のゴミ拾いを促進するのが良いと思います」
僕はカラカラに渇く喉を、唾を呑むフリをして誤魔化し、そのまま言葉を続ける。
「海のゴミの八割は、町から来ています。環境省の資料によると、毎年少なくとも800万トンものプラスチックが海に流れ出てしまっているとのことです。インドネシアの海岸では、6キロ近いプラスチックゴミを体内に溜め込んだマッコウクジラが打ち上げられました。また、海で死んでしまったウミガメ102頭の内臓を調査したところ、すべての個体からマイクロプラスチックをはじめとする合成粒子が800以上見つかったそうです」
「海に面する192の国や地域のうち、海に流出したプラスチックゴミの年間流出量の割合を見ると、日本は全体で30位、先進国では20位の、アメリカに次ぐ2番目の多さであることがわかっています」
「また、川が綺麗になれば、そこが市の観光地になるかもしれませんし、市民がこの町をより誇りに思うかもしれません」
「以上のことから、私は、プラスチック製品の規制や、町や川のゴミ拾いを推奨します」
****
「皆さん、高校生ならではの、有意義な意見をありがとうございました」
みんなの発言をまとめた意見書を、市長に提出した。
僕は、清々しい気持ちだった。
今回、僕たち高校生は市にさまざまな意見を提案した。
だが、僕の提案したプラスチック製品の規制は難しいだろうと思う。
僕たちの市は、火力発電がメインだ。
プラスチック製品も焼却によって電気に変えられる。
だから、そこに二酸化炭素が発生しようが無視するしかないのだ。
二酸化炭素削減率が高くても、全く燃やさない時と比べれば、温暖化を促進しているというのに。
「今日はお疲れ様」
市議会議員の一人が、僕に高校生議会の話をしてくれたクラスメイトに話しかけた。
「お疲れ様です」
ニコニコと胡散臭い笑みを浮かべた小太りのおじさんだった。
「そういえば、君のお父さんって〇〇会社で働いてる? 同じ苗字の人がいたんだけど」
「いえ、人違いです......」
クラスメイトは、困ったような表情でそう言った。
「それならいいんだけど。もしかしたらそうかな、って思ってね。......今日はありがとう」
「はい、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
その市議会議員の人と目が合ったので、僕もぺこりとお辞儀をして礼を言う。
それから、僕は議会を後にした。
****
「はぁ〜......」
「溜息ばっかり吐いてたら、運気が下がるよ」
いつもの橋で。
僕は橋に上半身を預け、ぶらぶらと両手を動かしていた。
そんな僕を彼女が心配そうに覗き込む。
「どうしたの?」
彼女にそれ以上そんな顔をさせたくなくて、僕はにへら、と頬を緩めて微笑んだ。
「いやー、なんか疲れたなぁ、って思って! この冬いろいろ出し切ったから」
川の清掃はまだである。
近所の人かボランティアの人が刈り取ってくれたのか、土手に生えていた雑草は短くなって、少しだけ清潔感が出ていた。
「そう。無理しないようにね」
「わかっとるよ。......あ!」
僕は橋を駆けて土手に回り、河川敷まで一気に下りた。
そして、そこに落ちていた数本のペットボトルを拾う。
中に水が入っていたので、もちろん全部出してから彼女の隣に持って帰る。
そして、いざという時のために持っていたコンビニのレジ袋にそのペットボトルを入れ、自転車の前カゴに放り込んだ。
他にもポリ袋やタバコなどのゴミがあったが、ペットボトルだけ拾ったのには訳がある。
「ふふ、ゴミ拾いに目覚めたの?」
彼女は柔らかい笑みを浮かべ、僕の行為に好意を示した。
「ちょっとね。見直した?」
「うん。えらいわ」
彼女の直球の褒め言葉に顔が赤くなり、思わず視線を逸らしてしまう。
「じ、じゃあ、もう行くよ。また明日!」
僕は自転車のサドルに飛び乗って、羽が生えたかのような調子で漕ぎ出した。
彼女がくすりと笑った声が、背中から聞こえてきた。
「いってらっしゃい」
****
学校で。
拾ったペットボトルをトイレの手洗い場で洗浄し、自販機の横に備え付けてあるゴミ箱に捨てた。
前に、学校で買ったペットボトルや缶以外は捨てないでね、と言われた気がしたが、バレなければ問題はないだろう。
と、スーパーで買うよりは高く、一般の自販機で買うよりは安い値段の飲み物たちを眺める。
「お菓子の自販機も置いたらええのに」
生徒会に案を出そう、と考え、僕は教室へと戻っていった。
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