第09話 ゼス


 入店から約1時間、パーティーを結成した俺達の話は続いていた。この機に、ゼスからこの世界での理や冒険者の職業を聞く説明会が行われていた。話によると大半の人間は何かしらのスキルを身に付けるという。ただし、家系や個人の能力によって能力に差が生じるらしい。


 例えば、スキルに目覚めると自分でなんとなく判るようだ。どんなスキルで、どの様に扱うかを。『召喚』スキルを身に付けた場合、動物達と契約し印を結ぶ事で契約動物を召喚出来る様になるという。そのままだと職業・召喚士だが、稀に魔物と契約できる者が現れる。それが召喚士の上位職業、魔獣召喚士だ。大抵の職業には下位職業と上位職業が存在するがストライカーとスカウトだけは上位職業が無いらしい。他にもソードマン・上位職業ソードファイター、マジシャン・上位職業ハイウィザード、アコライト・上位職業ビショップ等もあり、派生職業で呪いを解いたりかけたり出来る呪術士や剣技と魔法を扱えるソードマジシャン等も存在するという。差し詰め、俺の職業は素手近接職業のストライカーになるのか?


 「ゼス 地図は持っておらんか? 」

 「あるよ」


 ゼスは腰にぶら下げているバックから地図を取り出しテーブルの上に広げた。その地図は印刷されている。電気はないが印刷技術はある世界のようだ。


 「わしらがいる町はどこじゃあ? 」


 少し、ほろ酔いの風音が質問する。


 「ここだ この国の最北東の都市メイドス 北に行けばダンジョン、西に行けば都市マリル、マリルの側にもダンジョンがあるんだが他のダンジョンと違い地下迷宮になっていて魔物もかなり強いらしい」

 「なるほど… さて どこから手を付けるかのう そうじゃゼス 近くにイノシシが取れる場所はあるかのう? 」

 「イノシシ? 急に飛んだな イノシシなら近くの森や竹林にいるよ この辺かな」


 ゼスはメイドスから南に行った林を指差した。


 風音には、先見性があるのだろう。戦闘力はぶっちゃけ風音1人で十分だし、何も常時戦いをする訳でもない。冒険者になったのだから本当に金に困れば依頼を受ければなんとかなるし、俺達二人に足りないのは絶対的な情報量。スカウトのゼスと行動を共にするだけで大抵の問題は解決出来そうな気がした。


 「よし 今日はお開きじゃ ゼス 宿屋に案内せーい」

 「良かったら家に泊まればいい 部屋は空いてるから好きに使ってくれよ」

 「家族はおらんのか? 」

 「ああ 実家は別にある 気ままな1人暮らしさ」

 「それじゃ、お邪魔するかのう」


 今晩は、ゼスの家に泊まる事にした俺達。ゼスに案内された家は平屋だが部屋数が5つほどある、中々広々として家であった。下の客間にはソファーやテーブルが並び遺跡等で見つけた置物等がガラスケースの中に納められている。


 「俺の部屋は、そこの扉を開けたところだから 好きな部屋を使ってくれ」

 「うむ」

 「ありがとうございます ゼスさん」

 「いや、どうってことないさ 俺も明日から旅の準備をしないとなあ 久々にワクワクしてるんだよ」


 嬉しそうにゼスは言った。今回の旅を本当に楽しみにしているようだ。


 「ゼス 移動手段はどうするんじゃ? 」

 「ポーターを雇うか買うしかないだろうな… 」

 「ポターとはなんじゃ? 」

 「ポーターは荷物持ちって感じかな 馬車を用意して俺達冒険者と荷物を運ぶ事を生業にしてる 各ポーターによって、受注した案件が完了するまでの契約、年間契約、日雇い契約といった感じで様々だよ」

 「面倒臭いのう… 」


 風音は、そう言うと懐から3つの袋を取り出した。


 「その話の内容から… 自動車は売ってなさそうじゃのう」

 「じどうしゃ… 乗り物か? どんなものなんだ? 」

 

 ゼスは首を傾げて自動車を考えていた。

 

 「あー いや、かまわん 馬と馬車 買うといくらする? 」

 「馬だけなら実家に何頭かいるから安く売ってもらえるが 問題は馬車かな」

 「何も新品じゃなくてもよいじゃろ 今回、目的地まで行って帰ってこれるならかまわんのだしのう とりあえず… これだけ預けるから」


 風音はモゾモゾと、各袋の中を調べ一番高そうな金貨5枚を取り出した。ゼスは金貨を見て目を丸くした。


 「かっ…かざねさん! これだけあるなら新品の馬車を買ってもあまるよ! 」

 「足りるか? ならこれで丈夫な馬車を揃えてしばらく使う事にするかのう」

 「了解! 3日ほど時間をくれないか 少しでも安くなるように交渉してみる それじゃあ金貨5枚 こいつは預かっておくよ」

 「うむ 頼んだぞ… ふわぁー… 」


 風音は、小さな口で大きなあくびをすると


 「寝るぞ… 皆も寝ろ」

 「それじゃ部屋に案内するよ」


 ゼスは、ドアを開け空き部屋に風音を案内する。何もない部屋にベットが置かれていた。フラフラした足取りで部屋に入る風音。ベッドを見るなり吸い込まれるように横になる。


 「たくやくんも隣の部屋使ってくれ 用があれば手前の部屋で寝ているから声かけてくれ」

 「何から何まで、ありがとうございます」

 「パーティーメンバーになったんだ 遠慮はしないでくれ なっ! 」


 ゼスは、俺の肩をぽんと叩き自分の部屋に戻った。


 ゼス… 職業スカウト 情報収集を得意とする28歳、身長185前後中肉中背で戦闘力は、まだ未知数。カウボーイハットを被り、ベストにズボンと短ブーツ、黒に統一された衣服を着こなす万年Aランクの中堅冒険者、割とイケメン。

 

 この日、異世界に飛ばされた俺達と共に旅をする仲間となった。

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