第22話 色々とあったけど 1
熱にうなされながら夢を見た。
大抵、この時に限って見る夢と言うのは恐怖を具現化したような、シュールレアリスムな夢だ。でも、見た夢はそんなものではなかった。
ただ、光輝いた地に僕は立っていただけだった。そこには何もなかった。ただ、明るくて、輝かしくて。そこには誰もいなかった。ただ、呆然として、両足で立って。
なのに、独りだとは感じなかった。
空をほんの少しだけ仰いだ時、そこには四層の色に分かれた白と青、緑、黒の境界があった。薄い線で空は分かれていて、なんだか違う世界の虹のようだった。
なぜ、この色なんだろう。
でも、そう考える前に、夢から醒めた。おそらく、この夢は二度と見ることがないだろうと。そう思った。
心は曇っているというのに、空は憎たらしいほどに青だ。
僕は自分の微熱を感じながら、203号室に入った。その際には、マスクをつけることを強要された。
病室に入ると、暁は横たわっていた。でも、そこにはいつもの朗らかさや目の力強さはなかった。
暁は僕の姿を見るや否や、どうしてと言わんばかりに目を丸くした。
「言い残していることがあるって聞いたからね」
暁は弱弱しい声帯で、誰からと聞いた。
「君の知り合いは少ないんだから、すぐに見当がつくでしょ」
暁は体を動かさないで、考える仕草をした。多分、それが僕に見せることのできる彼女の最大限の動作なんだと思う。
なるほどね。
暁はそう言うと、ほんの少し微笑した。
「聞いてもいいかな?」
僕は暁に聞く。
暁はどうでもいい話だよと言った。
「いいよ、それでも。むしろ、どうでもいい話が聞きたかった」
そっか。暁は僕の言葉を聞くと、少しだけ首肯しながら、小さな口を開いた。
生きている人を理解することすらとても難しいのに、過ぎ去った人を理解するなんて無理だと思う。それから、人は誰もがエゴだけどね、自分のために生きていけるほど強くないと思うんだ。私には、その言葉の意味が分かんなかったけど、今ならなんとなくわかる。
でも、そんなこと、ほんとはどうでも、どうでも、どうでも、どうでも、どうでもいいの。
だって、こんなセリフは最後に似つかわしくないから。こういうことを言うのは地球でも灰ヶ崎君だけ十分でしょ。
ははは、冗談だよ。うん、冗談。
とにかくね、灰ヶ崎君。今まで、ありがと。
私たちの間には深いドラマも青春もなかったし、まだ知っていないこともいっぱいあるし、とにかくとにかく、なんだこれはって、観客に言わせるぐらいに私たちは何もしていない。きっと、まだ序章だろういうぐらいに何もしてない。
でもね、それが当然だと思うんだ。
だってね。
『私たちは元から違う場所にいたから』
暁は言葉を言い切ると、僕の顔を見た。
その顔はもう誰にも似ていなかった。
僕は暁としばらく目を合わせてから、そのまま203号室を出た。
ドアを開けて、閉まるその空白。そこには暁の微笑みがあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます