第20話 交錯する夏の線 11
「じゃあ、また来るよ」
病室に戻って、しばらくしてから灰ヶ崎君はそう言った。
「うん、また来てね」
私はそう言った。
灰ヶ崎君はその言葉を聞くと、こくりと頷き、少し微笑んでから病室を後にした。
今はすっかり、パイプ椅子だけがこの部屋に残っている。
「はぁ」
私はベッドに倒れこみ、自らの失念で思わずため息をついた。
今日で最後にするはずだったのに。
今日でもう終わりにするはずだったのに。
それなのに、私はまた灰ヶ崎君と会う約束をしてしまった。バイバイではなく、また来てねと言ってしまった。
「私は何をやってるんだろう」
思わずに、天井のシミを見て、ぽつりと私は呟く。
「こんなのダメなのに」
わかっていたのに。
けど、そう自分で言い聞かせているくせに、私は灰ヶ崎君に会うことを待ち焦がれていた。だって、ようやく彼の本当の一面を見られたような気がしたから。ようやく、彼のことをよく知れたような気がしたから。
私は立ち上がり、窓辺に景色をやる。無論、そこには灰ヶ崎君は写っていない。
あぁ、そうだ。やっぱり、私は灰ヶ崎君に会いたいんだなぁ、そう思った。会って、何でもいいから話がしたいなぁって思った。
けど、予定調和と言うか、どうやらそれも叶いそうにはなさそうだ。
その晩、私は喀血して、緊急搬送されたからだ。
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