第6話 夏と音 1

 小鳥がどこかで囀る朝。

 僕は食卓に出された朝食に手を出しながら、テレビの画面下のテロップに目をやっていた。

『十四歳の少女が自殺』

 報道でこういった類いのニュースを出すのは珍しい。毎年、何千人と自ら命を絶つ者がいるこの国で、年々に死生観が麻痺している人々の目にはもうこの手のニュースは大して肥えがないのだ。

 にもかかわらず、こうして報道しているのは間違いなく、自殺した対象の年齢が十代。さらに、前半であるからだろう。

 機械のような抑制のない声で、ニュースキャスターは文を読み上げる。

 どうやら、少女は遺書を残していなかったらしく、またいじめやトラブルは抱えていなかったらしい。よって、ニュースキャスターは表示されたテロップ通りに自殺だったとは断定して発言はしておらず、警察が事件の可能性を考慮して、調査している模様だと言った。

 画面は変わって、自殺の現場が写される。

 そこには大きなブルーシートが一枚。また、カメラの角度によって、階段、駐輪されたバイクや自転車が写っている。おそらく、少女はマンションから飛び降りたのだろう。いや、落とされた、かもしれないが。

 もののしばらく、現場の報道スタッフがその場の状況を説明すると、また画面は転じて、どこかの個室へと変わった。

そこにはきつねのような目をした顔の長い、心理学者と書かれた老婆が座っており、カメラに向かってどこか見下した表情でいる。

老婆は重そうな口を開き。

『私の推察によりますと、少女の当時の、心境は……』

 僕はそこであほらしくなり、テレビの画面を消した。

 赤の他人の心境など一体、誰が読むことができる?



 僕はすぐさま朝食を食べ終えると、玄関口で靴を履き、リビングに向かって一声かけ、家を出た。

気温の変化などが大差ないこの季節は当然、朝だろうとも外はいつものように暑く、玄関口で散歩している人も犬もぐったりとした様子で歩いている。

 あぁ、暑い。このフレーズは一体、何度使えば良いのだろうか。そろそろ、流行語大賞に出てきてもおかしくないはずだ。

 僕はふらついた足で歩を進めながら、目的地を目指す。

 あれから、僕はまた一度、暁の見舞いに行った。互いに話すことと言えば、他愛もない日常話だけど、距離は徐々に縮まりつつあった。無論、その距離はやがては消滅するのだろうが。  

まぁ、それはどんな人にだって言えることだ。

 ただ、今日、僕は坂井中央病院に向かっていない。

いつもより人が空いた場所へと向かっているのだ。

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