第3章

第10話「居場所」

優陽が来れなかったのはあの日だけで、また優陽に会うのが日常になっていた。


何日か経ち、優陽ともいろんな話をした。


好きな食べ物や、好きな本などなど優陽に質問した。


優陽は、あれから暗い話ではなく「美海の好きな色は?」とか「美海の好きな音楽は?」などと質問が変わっていった。優陽が私の事を知ってくれるのは嬉しいけれど、優陽の質問が変わった事に違和感を覚えていた。しかし、優陽と話しているとそんな事はどうでも良くなっていた。


そんな楽しい日々は過ぎ、いよいよテスト期間に突入してしまった。今日からテストまで二週間ほどしかない。


優陽と話すのは勿論楽しいし、嬉しいが、優陽の勉強の邪魔になってしまうのではないかと考えていた。


私では、答えを出すことが出来ず、彩にさりげなく声をかけてみた。


「彩」

「ん?どーした?」

「あのさ、彩は勉強する時って一人でやってる?」

「うん」

「もし、いつも電話とかメールとかで話してる人が居たとして、テスト期間だからテスト終わったらまた話そうって彩は言う?」

「うーん、言うかもなー。その人の迷惑にもなりたくないし、勉強に集中出来なくて成績落ちて赤点とか取ってその人と話せないってなるのも嫌だからね」

「だよねー」

「美海は女子だなー」

「何言ってんだか」


呆れていると、彩はまた小悪魔のような笑顔で笑っていた。


私は、学校が終わると直ぐに海に行く。彩も前までは驚いていたけれど今は「またねー」と言って送り出してくれる。彩は勘付いていると思うが、何も聞かずそっとしておいてくれるので気が楽だ。


今日は何故か海に直行していた。優陽は居ないかもしれないが今日は先に待っていたくなったからだ。


海に着くと君は足をブラブラしながら座っていた。


「わ!?早かったね」

「うん。今日は制服のまま来てみた」

「そらも居ないから学校から直行で来た?」

「うん!あたり!」


私が笑いながら答えると、君は微笑んで聞いてきた。


「どうかしたの?」

「あのさ、今日からテストまで一回勉強に集中しない?」

「そうだよね…テスト近いからね…」

「うん」

「じゃあ、一旦中止しよっか」

「うん」

「でも、勉強が嫌になったりしたら息抜きとしてここにおいで?俺はいつでもここにいるから」

「うん、わかった」

「じゃあ、今日はここまでにしよっか」

「そうだね」


私達は立ち上がり、私は家へ向かう道に向かう。その間優陽はいつも手を振ってくれる。


私から優陽が見えなくなった時、君の声がした。


「美海!テスト勉強頑張れ!」

「うん!」


君に負けないくらい大きな声で返事をした。君は私に居場所をくれた。居場所があるから前を向ける。さあ、頑張ろう。

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