第9話「喫驚」

 今日は、本を持たずに学校に登校している。いつもは見ない景色を見ていたら、バスに遅れそうになり少し焦ってバス停まで走った。


ギリギリ乗車し、乱れた息を落ち着かせる。バスの中でも景色を見ていた。移り変わる景色は見ていて飽きず、いつまでも眺めていたくなった。

 

 学校に着き、荷物を横に掛ける。


「美海!おはよー」

「おはよ、彩目の下に隈出来てるよ?」

「え?なんでだろ」

「寝てないの?」

「ううん、八時間寝たけど」

「健康過ぎないか?」

「美海は、四時間くらいでしょ?」

「いや、今日は五時間」

「おー、美海にしては偉い」

「はいはい、ほらチャイム鳴るよ」

「は〜い」


私も、一時間目の授業準備をしていない事に気がつき急いで準備をする。


 ホームルームが終わり、一時間目まで暇だなと考えながら上に伸びをしていると、後ろから背中を突かれているのことに気がついた。


伸びた勢いで後ろを振り返ってしまい、相手は目をまん丸にしていた。突っついていた相手は勿論優陽だ。


私は後ろに優陽がいる事をすっかり忘れていた。学校では喋らない様に見ないふりをしていたのだった。そうしなければ、私は優陽を目で追ってしまうから。


後悔している私に優陽は何も言わずに紙を差し出してきた。私はそれを受け取り、読もうとしたが先生が来たため一度筆箱の中に入れて授業を受けた。


次の授業の合間に筆箱から優陽からもらった紙を広げる。


『今日、行けないと思う』


と一言だけ書かれていた。優陽らしい、とても綺麗な字だった。前にノートの名前を見た時も私の丸っこい字とは違い、流麗な字だった。私もメモ帳の裏を使い返事を返す。


『了解!』


と書き、となりに笑っている絵文字を足しておいた。今度はゆっくりと後ろを振り返る。優陽は下を向き、何かを書いていた。優陽の肩を少し揺する。すると優陽は喫驚した。


「ごめん」

「だ、大丈夫。驚いただけだから」


私は紙を渡し、前を向いた。優陽を驚かせてしまった時、優陽の体が少し震えていたが、深く考えはしなかった。


 家に帰り、いつもなら直ぐにそらの散歩に出かけるが今日は気分が乗らず、本を手に取った。少し読んでから、そらの散歩に出かけよう。私は本の世界に引き込まれていった。


 気がついた時には、十八時を回っていた。少し遅くなったがそらの散歩に出かける。


いつもならこの時間には家に帰っているが、今日は遅く出たため日が半分ほど地平線に隠れていた。

いつも優陽がいる場所を通る。優陽がいない浜辺は寂寥感が漂っていた。私は静かにその浜辺を後にした。

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