大切な人への返信

復啓

 花の盛りもいつしか過ぎて行く春を惜しむ季節となりました。天の世界でいかがお過ごしでしょうか。

 僕はあなたに伝えなければならないことがあったので手紙を送ることにしました。

 一つは、なぜ春というものは清々しく美しいのかという答えのことです。もともとこれは高谷先生に対する質問だったそうですが、代わりに答えることになりました。許してください。僕が思う春が清々しく美しいわけは、春という存在が儚くて尊いものであるからです。それぞれの四季にはこの時代を生きる人たちを魅了する何かを持っていると思うんです。その中でも春は夏、秋、冬とは違い、幻想的なイメージを膨らませるものを持っているんです。しかし、それはただ美しいのではなくどこか純粋さがあることで清々しさも兼ね備えているのです。その事例といえるのがあなたが考えていたもう一つの春の情景でしょう。植物が芽を出すということは純粋無垢の生命が生まれることであり、天へ天へと伸びていくのも未来へ向かって真っ直ぐ我が道を進んでいるわけであります。このような純粋さなどが重なったことで、春が清々しく美しい存在になっているんだと思います。

 もう一つは、あなたへの謝罪です。僕が高校生の時、あなたに多大な迷惑をかけていたのを覚えていますか。未成年なのにタバコを吸ってしまったり、48パーセントのアルコールが入った酒を飲んだり、タイマンをしたり、挙句の果てに高校を退学するという今考えるとただただ最低な人でした。そして両親にまで迷惑をかけていたのにも関わらず家出して、何年も音信不通のままにしてこの日を迎えてしまいました。本当にごめんなさい。本当は少しでも早くあなたに直接謝りたかったんです。でももうあなたは僕がいる世界にはいないのですよね。会えたとしても僕が今いるこの世界から消えない限り無理でしょう。だからこの手紙を送ろうと決意したのです。この手紙があなたに届くか僕は分かりません。それでもあなたに伝えるとするなら、僕はあなたが考えた春の情景のような純粋さと自信で、胸を張って生きるよう努めていきます。

 最後になりますが、こんなみじめな僕を最後まで大切にしてくれて本当にありがとう。またいつか会いましょう。

                                    敬具

  4月12日

                                  松本智春

 松本桜様

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