エピローグ
僕はいつものノアで約30分走り、数分自力で歩いて目的地にたどり着いた。そこは丘の上で、浅葱色の空と群青の海がきれいに広がっているのが見え、幾千本の桜が咲き誇っていた。
「遅くなってごめんね。お母さん。」
そういいながら大理石でできた物体を拭いた。その大理石には「松本家之墓」と書かれていた。そう、ここは霊園だ。そして今日は母の命日、4月6日であり、7回忌である。洗った花立に墓前花、きれいにした供物台に母が大好きだった豆大福を添えた。そして手を合わせ心の中でささやいた。
「お母さん。僕は少しずつ前を向きながらこの人生を歩んでいます。あの時言った償いは、あなたに届いていますか?これからも前を向いて自分が進むべき道を歩んでいきます。」
自分の思いを母に伝え、立ち上がり横を向くと高谷先生がやってきた。今日は礼服だ。先生が僕に話しかける。
「やあ松本君。」
「お久しぶりです、先生。」
「もう来ていたのか。君のお母さんに思いを伝えられたかい?」
「はい、しっかりと伝えました。」
先生は優しそうな顔をしていた。
「そうかそうか、それはいいことだ。君は本当にいい意味で変わったねえ。」
「そうですか?」
「ああ、そうとも。7年前の君は自分に対して全否定しているような感じだったんだ。しかし今は自分としっかりと向き合い全否定じゃなくなっているんだ。これはとても良いことなんだ。」
「僕は気づいていませんでした。そんなに自分が変わっていたなんて。でも僕は本当にこのままで大丈夫なのでしょうか?」
「うむ、君に足りないところがあるとするならなんだと思う?」
先生が問いかけるとお墓に手を合わせた。僕はその間に考える。
「ええと、僕に足りないものは…。」
そうこうしているうちに先生は手を合わせるのをやめ、僕のほうを向いた。
「どうだ、何か分かったか?」
「やっぱり分からないです。」
「そうか。ではそれが君の足りないところだな。」
「えっ?」
先生は微笑んで歩を進めようとしていた。僕は急いで止める。
「先生教えてください!僕に足りないものは何ですか?」
先生は足を止めた。しかし僕のほうを見ずに話した。
「そういうところが君の足りないところだと言っているではないか。誰かに頼らず自分が考えて感じたことをどのように修正するかこれができるようになればいいだろう。では私はこれで失礼するよ。」
先生は霊園の近くの駐車場へと向かっていった。僕は茫然としていた。いつもなら答えをはっきりと教えてくれるのだが、今日ははっきりとした答えを教えてくれなかった。
「一回、人生見直してみるか。」
そう決めて僕は母に別れを告げた。頑張りなさいと応援するような風が僕の心の中で吹いていた。
手紙 ~春~ 銀孤 @13111512
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