第9話 キャットファイト!!
俺とシメタロウは、採集クエストの前にマリーナから伝えられた、ギルド協会本部に訪れていた。
ここは、ロークランド連合国家に点在するギルド協会の総本部になる。
ロークランド内で依頼されるクエストなどの依頼用紙は、全てここで一括管理されており、この総本部からロークランド内にある全ての支部に振り分けされる紙の色が青色の通称「青クエ」と、各支部などで独自に受付、配布される白い用紙の「白クエ」とが存在する。
結果などは結局、協会に全て書類提出がされるので、ここにくれば国内における、クエスト依頼の情報や登録ギルドの評価なども手に入れる事ができる。協会には特殊な魔道具が存在しその使用によって情報のやり取りが行われる。その恩恵もあり全域に伝わるには多少の誤差はあるが、ほぼ、その日のうちに知る事ができる。
別の形での依頼も存在し、それらは「赤クエ」と「黄クエ」、「黒クエ」なるものがあるが、それの説明もしておこう。
「黄クエ」と呼ばれる依頼は他国から回ってきてるクエスト依頼書であり、「赤クエ」と呼ばれるものは緊急事態に各冒険者ギルド宛に出される依頼書だ。
あと、国が依頼する場合もあるが、それは黒の紙に白字で記載される為「黒クエ」と呼ばれている。通称「黒クエ」は国が協会に話を通し、指名されたギルドとの仲介をする形を取っている。
急な飛び込みでの仕事についても、協会本部への連絡義務が発生するのが基本だ。
その依頼書の色によって、達成ギルドに与えられる評価ポイントにも関係し、黒>赤>黄>青>白と、そのようにポイント分けされている。
依頼書には、掲示された日付、クエスト評価、推奨ギルドランク、褒賞金額、締切日などが記載されており、その依頼を受ける場合は掲示された依頼書を持ち、冒険者ギルド内部にあるカウンターで、受付嬢に依頼を発行してもらいクエストを行うという感じだ。
クエストを達成したら、同じく受付嬢に報告し、達成報告書を提出して終了という流れだ。
また、ドロップアイテムや戦利品などの買取もこちらでしている。
中には締切日時をオーバーしても、クエストを受けてもらえない依頼書もある。そういう時は所属している各ギルドに、強制分配され担当することになるが、その場合のクエストには協会が定めるギルド評価のボーナスポイントが加算される為、とりあえずお得なのだ。
今回の【
もちろん、緊急クエのような、必要性もないので断ることもできるが、ポイントを稼ぐ必要のある大手ギルドやランク圏内のギリギリに位置するギルドは、積極的に取り組むことになる。
ジェナスは賑わう協会の中央ホールにあるカウンターに顔を出した。そこで目の前にいた受付嬢に声をかける。
受付嬢は、そのギルド協会の顔となるべく、基本的に好印象で綺麗な女性が採用されやすい。
「悪いが、インプレスだ。会長に呼ばれたみたいなんだが、取り次いでもらえるか?」
眼鏡をかけた、そばかすのある赤いロングヘヤーを後ろで束ねている女の子が、声をかけたジェナスに気づき返事をした。
「すいません。生憎、会長は本日誰にも取り次ぐなと、私共キツく言われておりまして、申し訳ございませんが、日を改めてお越し願えますでしょうか?」
「ーーうーん。俺を呼んだのは、その会長のベンシウスのやつなんだが……」
「?」
どうやら、この子は俺のことを知らないみたいだ。ベンシウスからは何も聞いていないのだろう。話の節々で疑問に思ってるような顔付きになるし、多分、今まで見たことがないという事は、新人さんなんだろう。
ーーどうすっかな〜。
別に、ベンシウスのやつに呼ばれたから来ただけで、俺があいつに用がある訳ではないし……と、思っていたら、違う冒険者の受付をしていた、良く見知った顔の受付嬢レインさんが、慌ててこちらに走ってきた。
「これは、おはようございます、ジェナスくん。よく来てくださいました。
ハロンちゃん、向こうのお客様のお相手変わってくださる? こちらは、私が担当するわ」
と笑顔で、ハロンと呼ばれたそばかすの受付嬢とチェンジしようとした。
ハロンは何が何だかわからないような顔をしていたが、急に話に入ってきた先輩の受付嬢の行為が気に入らなかったのか、
「先輩、私が担当しているお客様ですよ。何で変わらなきゃいけないんですか? 横暴です」
と、腰に手を当て、「私、怒ってます」アピールをしながら、俺の前にいるレインさんの身体を押しのけて、自分の身体を入れてきた。
「……うーん、ハロンちゃん、困っていたみたいだから、気を利かせてあげたんだけど……」
レインさんも、まさか気を利かせたつもりが、裏目に出てしまい
「私、何かミスしましたか? ミスしてしまって、先輩がフォローしてくださるって言うのならわかりますが、何にもしていないのであれば、変わりたくありません。
私にとっては今日、2人目のお客様ですから、対応はきちんとしたいです。先輩の横暴ですよ」
どうやら、ハロンは仕事に対しての妥協はしたくない、真面目な女の子のようだ……。
しかし、どうでも良いが、向こうに待たされてる冒険者の人が、じーっとこっち見てるんだけど……。
何か目が「お前のせいだ」と訴えてきてるんだけど…………。
「横暴、横暴ってね! 私はね、困ってるだろうから変わってあげるって言ってるのに、先輩に向かって何ですか!?」
「あー、じゃあ、困ってません! 変わって欲しくないです!!
向こうへ行けですっ。しっ、しっ!!!!」
手で向こうへ行けと……これにはさすがにレインさんもイラっとしたのか、腰に手を当てハロンを上から目線で威嚇し出した。
どうやら周りで見ていた連中もこれはとばかりに面白がって、「ファイト!」、「がんばれ!」と二人を応援する始末。
振り向くと、俺についてきてたシメタロウは、悪い顔をしながら、どうやら手に袋を広げ掛金を集めてやがる。
どうやら、女同士のキャットファイトに発展しそうなこの喧嘩を賭事にするようだ。
ホールの雰囲気が一変する。
もはやこの空間は、25歳受付嬢レインVSそばかす受付嬢ハロンのリングと化した。
俺が原因の喧嘩とも言えるのか?とは思ったが、これはこれで面白い!!
俺はシメタロウのところに行って、どちらに掛けようか悩んだ。
レインさんは25歳、この協会本部ではかなりの古株だ。胸の大きさだけならマリーナに匹敵する。
しかし、この勝負、古参だから巨乳だから勝つとは限らない。
対するハロンという女の子は今日初めて見た。ハキハキと喋る、これから期待の新人だろう。
しかし、「お局様」などの通り名を持つレインさんに、食ってかかる負けん気の強さには感服する。あと、若いようで俺と同い年くらいだろうか?
ここは、新星のハロンに手持ち全部いくか!? 何だか人だかりができている。思ったより盛況なようだ。
と、掛金を掛けたところで動きがあった。レインとハロンが睨み合いながら、お互いの口上が始まった。
いよいよ、そのあとはキャットファイトだ!!!!
「はぁっ、少しくらい若いからって、所詮、それくらいしか取り柄のない小娘が、とっとと荷物まとめて田舎に帰りなさいよ!」
「四捨五入で三十路の先輩には、もう後がないですからね。田舎に帰れない事情があるんですね。
わかります、わかります。三十路なら男の一人でもいないと……必死すぎですよ。
あと、若くてすいませんね!」
「三十路じゃないし、まだ25よ、25っ! 訂正しなさいよ。
仕事も満足にできない分際で、どれだけ私の負担になってると思ってんのよ。
笑ってたら良いって仕事じゃないんだからねっ!」
「お言葉を返すようですが、きちんと仕事をこなしていますよ。言いがかりも大概にしてください、先輩」
「あんたの仕事って……お茶汲み以外なんか出来たかしら? ごめんね。思い出せないわ!?」
「年寄りはヤダなぁ〜。もう、ボケて来たんですか?
何ならいい腕の神官さん紹介しましょうか?
忘却の状態異常、解いでもらったら楽になりますよ。
ああ、年によるものは無理かもしれませんが……。
それと負担って何です? 肩こりですか? 肩こりでしょう。
その無駄に大きな肉を捥いでもらったらどうですか?
男いないし使い道のない女には、必要ないんじゃないでしょう?」
ーーあっと、こりゃ両者ジャブの応酬から、ハロンのワン・ツーが入った。
このワン・ツーにはさすがに我慢の限界か、レインは顔を真っ赤にしながらトーンが1オクターブ上がったような声を絞り出す。
「あったまきたー。もう許さない!」
「私も若さとか、年齢以外にも取り柄くらいありますから、こっちのセリフですよっ」
2人は一定の距離で留まり、睨み合いながら一言が冷たく呟かれた。
「「ぶっ殺す」」
こうして、受付嬢同士によるシメタロウ監修、乙女の闘いの幕は切っておろされた。
ワーワーと大歓声がホールに起こる。朝のクエスト依頼に訪れてた冒険者のほとんどが参加のようだ。
オンナの戦いはいつ見ても凄まじい。
しばらくビンタによる殴り合いを続けていたが、今は両者組み合い、協会で支給されているシャツのボタンが飛び散っている。
レインとハロンはそんな事には気づいてないが、ボタンの取れたシャツを組み合うと男たちの歓喜の声が湧き上がる。レインは下着から今にもはみ出しそうな豊満な胸を曝け出していた。
何人もの男の冒険者は前屈みになりおかしな体勢になった。掌を合わせ「有難う、有難う……」と、感謝を述べる冒険者もいる。
ハロンの方もシャツの隙間から下着に隠された胸が見え隠れしている。
レインと比べると普通と評価した方がいいのか? 普通より若干、小ぶりだ。
だが、こちらの方にも多くの男たちが「おおー」、「みえ……みえ」と血走った目を見開いて視姦している。
何となくではあるが、ハロンを見てるとエリシアを思い出す。断じてない訳じゃない。
あるにはあるんだが……似ている。
お互いシャツを掴み、相手を振り回している。ここからは純粋な力と力の勝負だ。
力は五分と五分、あとは体力の勝負になりそうだ。
忙しいように男たちの視線は、右に行ったり左に行ったり……その度に、前屈みになる奴らが急増するのは、ご愛嬌というものだろう。
さて、そろそろ決め手となるものが欲しい。どうやらハロンは決着を付けるべく大技を狙っているようだ。
ハロンの目線の先にはレインさんのブラが見つめられている。
あいつ、ここでブラを公衆の面前で剥ぎ取り、決めにいくつもりだ。何と恐ろしい技だろう!?
ふっふっふっと、ハロンは不気味な笑いを浮かべてやがる。
こういうところもエリシアに似ている……。
どうして、胸が大きな人に対しては仇を見つけたような反応をするのだろう?
今度、エリシアとハロンを合わせてみるのも面白いかも……。
おちょくってる訳じゃなく、彼女とは良い友達関係になりそうだ。
エリシアは以前、言った。『絶対、負けられない闘いがそこにはある』とっ!
今のハロンも同じだろう。
次の一撃で勝負は決まる。
あれほど煩かったホールの歓声が鳴り止む。
多分、誰もが次の一撃で勝負が決まると感じ取ってるようだ。
目を見開いてこの勝負の結末を逃さないとばかりに、男たちが多数レインの胸元に注視している。
ゴクリと誰かの喉が鳴る音が、静寂の中響き渡るのを合図に両者が動く。
「コラララァァァァーーーーーーーーーーッ!!!! 何の騒ぎだ、お前ら」
静寂を破ったのは汚いおっさんによる、突然の怒鳴り声にホールが揺れる。
どうやらこのギルド協会の会長ベンシウスが、騒ぎを聞きつけ二階から降りてきた。
ようやく通常営業に戻ったホールでは、冒険者と受付嬢が依頼のやり取りが再開されている。
先ほどの大騒ぎが嘘のように至って普通に……。
隅の一角では、この協会の会長であるベンシウスを前に、4人の人間が正座させられていた。
依頼カウンターに並んでいる冒険者の皆さんから、横目に見られながら正座とは恥ずかしい。
受付嬢2名と俺を含む【
まあ、受付嬢はキャットファイトが理由であるが、俺とシメタロウは賭博の容疑で正座させられたらしい。
「レイン、ハロン……今回は許してやるが、厳重注意だぞ。次やったら左遷だ。わかったな」
「「……はぃ……」」
ハロンとレインは力なく俯きながら返事した。
「じゃあ、すぐに仕事に戻れ」
2人は解放された。これより、俺とシメタロウの裁きが始まるようだ。
「で、お前ら。わかってるよな……? 何、受付嬢二人の喧嘩を、賭け事にしちゃってるんだよ」
「あのさ、俺は関係ないだろうがっ! 賭け事はシメがしたんだから……」
「いえ、団長殿。お言葉を返すようですが、小生の画策した賭け事は成立していないんです。
何故かと言うと……多くの方々に喜んで貰おうと小生、頑張りまして……。
大変、心苦しいのですがこの勝負ドローではなく、不成立と言う何とも言い難い結果でして……」
「ん?」
「……正直に申しますっ!! 不成立の場合、掛け金に上乗せの返済になり……。
全て親である当ギルドの一人負け……と申しますか、はいっ」
「んん? ちょっと待て! ギルドって何だ??
じゃあ、ただの返済ではなくて、レインさんに掛けた奴にも、ハロンさんに掛けた奴にも……あと、引き分けドローの奴にも、うちが色つけて返すってことかっ!?」
「決着さえついておれば、このような事態にはならなかったのですが……。
それに団長殿はグッと小生に「いけっ」っとサイン下さいましたではないですか。
だから……ご期待に答えられなく申し訳ございません」
ポカーンと大きな口を開けて、シメタロウを見つめる。こいつ俺と【
まあ、確かに面白い事してると親指はあげたかもしれないが、それがギルド公認での賭博開催サインにされてるとは思わなかった。
ましてや、今朝マリーナにあれ程、怒られたのにこれはマズい。
金はどうする?
ギルド協会にある金庫に資金は入って入る。使ったとして、マリーナが記帳する前に何としても増やさなければ、俺らに朝日は微笑んでくれない。
あっそだ、大事なことを聞いておこう!?
「あのさ、シメ……色はいくらだ?」
「ハイっ団長殿。掛金の1割を皆さんにお返しするという寸法です」
「で、ここが大事だ。俺らはいくらくらい出す事になるんだ?」
「それが、これも不運と申しましょうか、顔見知りの冒険者集団どもが、とんでもない額をかけておりまして。
……いやーどっちに転んでも、儲かると了承してしまいました。面目ないです」
シメタロウは俺の耳元に口を近づけ、怖ろしい金額を言いやがった。思わず陸にあげられた魚のように、口がパクパクしてしまったが仕方がない。
ーーえっ、これ全部うち持ちなの?? 昨日のエリシアの町破壊と違わない金額じゃん!!
これは、1日そこらで無理だ……バレるまで引き延ばすが、マリーナに怒られるのが決定した瞬間だった。
「シメ……お前さ」
「ちょっと団長殿〜、そのような冷たい目はやめて下さいませんか?」
「あー、お前ら、もうそろそろいいか!? まあ、俺から言わせりゃ自業自得だ。
最初の原因はジェナス、お前だっていうしな」
「いやっ、俺はあんたに会いに来ただけだ。
あんたが受付嬢らに、取り次ぎさせなかったから、こんな事態になったんだろが!」
「そうかそうか、それはすまんかった。とりあえず、今度からうちで騒ぎは起こすな。
ジェナス、二階にいくぞ。
……シメタロウはさっきの払い戻しをしてやれ。皆んな【刻印】からのボーナスをお待ちかねだ」
どうやら、正座タイムは終わりのようだ。
こちらの話し合いが終わったのを確認してから、俺らのところにレインさんとハロンさんが、何やら凄い笑顔で二人がやってきた。
目が、笑ってない笑ってない……怖いって。
「あのジェナスさん、わかってるとは思いますけど……賭け事されてたんですよね??」
「……私たちで」
シメタロウはあわあわしているが……。
ーー恐怖で俺もあわあわしてえよ。
二人とも可愛く、手のひらをこちらに出し言った。
「「ファイト・マネー!!」」
シメタロウの周りには多くの人の列が出来上がりつつある。
よくこれだけの人数が賭事に参加したもんだなっと感心してしまう。その並びの先頭集団に見慣れた奴らがいる事に気がついた。
同じS級に認定されているギルドマスターの2人が、こちらに気づきお礼を述べてきた。
「ジェナス、いい儲けになったわ。がははっ」
「ジェナスさん、この度はありがとうございました」
がははと笑いやがったのは、ギルド【野獣の館】ビースト・ホームズの団長、55歳のドミニクという、ドランよりも更にひとまわり大きい屈強なおっさんだ。
もう1人は、「ありがとう」って、ペコっとお辞儀しているのは【炎の矢】フレイム・アローのリーダー、ユリウスという37歳の弓使いの長髪男だ。
「いやいや、こいつらと依頼料のことで揉めてた所に、お前らがいい話持ちかけてくれたから……こりゃ、いいやってな」
「ですね。勝った方が、依頼料の取り分を総取りという私たちの勝負に、今回の賭事を利用させてもらったんですが、いやはや、まさかどちらも勝ちになるとは……。
勝負不成立で【
「あーー。お前らか、シメの言ってた大口の掛金突っ込んだ奴ってのは!!」
俺は思わず突っ込んでしまう。
「昨日から継続してた依頼料に、コイツと俺の、今の手持ちも全部賭けたんだ。こんな事なら協会に預けてる金庫の金も全部かければよかったぜ」
「本当ですね。おかげで、3日分くらいの依頼料金くらいを、只で手に入れる事になりそうですし」
2人は思わぬ臨時収入でホクホク顔だ。
「……アホか、おかげでこっちは、収入なしのえらい大損だよっ」
椅子と机を用意しながら、シメタロウはこちらを申し訳なさそうに見ている。
しかし、依頼料と手持ち全部か……金庫から金を出されなくて良かったと心底思う。もし出されていたら……
今は最悪のシナリオは回避できたと、素直に喜んでおこう。
それよりもこいつら、また喧嘩してたんだな。
グリンガム所属ギルドの中で【刻印】は依頼達成率や評価など、この町で不動の1位のギルドだ。
こいつらは2位と3位、つまりどちらが上かで、いつも合えばやりあってやがる、そんな関係の二人だ。
シメタロウの払い戻しが始まっている。朝から多くの冒険者が集まったものだ。
今度、マリーナに金庫の金が減ってるのがバレる前に気付かれないよう、こいつらから何らかの方法で、今日の分を回収してやるっと思いながら、俺は前を歩くベンシウスを追いかけるように、協会の2階へと向かうのであった。
会長室に通されて、さてっと前置きがあり、ベンシウスが話し始めた。早速、本題のようだ。
「ジェナス。……魔石製造に付いて何か知ってるか?」
「……魔石!? あの魔獣や魔物の体内にあるあの魔石か?」
「それだ。それの製造方法ってやつだ」
「知るわきゃねぇだろ。そんなもん勝手に、大地から湧き出てくるもんじゃないのか?
少なくとも俺はそう習ったぞ」
「ああ、その認識で間違いない。ただな、もしと過程の話だ。
魔石を自由に作れる、製造できるとしたら……お前さんは、どう思う?」
「そんな疑わしいもん、何にも思わないね。目の前で見たもの以外、信じないな。
もし作れるのなら作って見せてみろってんだ」
「確かに、俺も信じちゃいねえよ。
ただ、昨日の賊のアジトにそういった記述があったんだ……魔石製造ってな。魔素を集めて結晶にするらしい技術だ。
もちろん、このロークランドにそういった技術はない」
「ないだろう!? もしできるんなら、魔獣を自然に発生させたり、自由にできる事になるんだぞ」
「……ふむ、自由に発生させる……か、時期外れの魔獣の異常発生が、各国のギルド協会からの報告の中にある。
気のせいならいいんだが、昨日の事もどうも腑に落ちない」
「きな臭いな。もしそうだとして仮にだ。どっかの国のって考えたら、どこだと思うんだ? あんたは」
「さあな、今のところわからん。因みに……お前なら、何処だと思う?」
「俺か……。ここ最近の情勢だが、俺らが耳にできる分だけで判断するなら、ロークランドの近隣で、そういった野心を、表に素直に出してる国は存在しない。
だけど、さっきの魔石製造っていう、魔道具みたいなものが国宝級で本当に存在するのなら、まず考えるのが侵略とか戦争だろう。戦争は起こっていないが、国として動いてるなら怪しい国は一個だけあるんじゃないのか?」
「……ラーゼフォンか!? 確かに南部地方の魔獣暴走の多発とか怪しい流れはあるな」
ラーゼフォンの南にある町は魔獣暴走で壊滅している。その発生を南に位置するケルンという国のせいにして責任追及しているところだ。
(本当にきな臭くなってきた)
そう、ラーゼフォン皇国……かつて、俺が住んでいた、俺を殺そうとした国だった。
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