10月27日 (青)

 勝負の当日。俺はこの日まで何度もあの二人の仲の良い姿を見せつけられた。共有スペースで話す二人、ファミレスで夕食を過ごす二人、寮の前まで迎えにくる彼女。何がどう転んでも俺と彼女が一緒になることはないだろう。しかし、何もせずに後悔するくらいなら、当たって砕けてしまおう。俺はもしかすると1%くらいは可能性があるかもしれないと思っていた。


 無事に屋上清掃のバイトにも受かった俺とサトシは今晩の作戦の打ち合わせを、俺の部屋で行なっていた。


「この寮の受付は決まって21時40分頃に一度席を外すんだ。その隙を狙って、飛鳥を忍び込ませよう。俺はその間に屋上までの梯子を降ろしておくよ。なるべく飛鳥を止まらせることなく屋上まで運びたい。」

「誰かに発見されるリスクを減らしたいんだな。それには俺も賛成だ。」

「よし。せっかくのイベントだからな。絶対に成功させよう。」


サトシは神妙な面持ちでそう言った。


「急に真面目な顔してどうしたんだ?」

「俺、飛鳥と付き合いだけは長いんだ。」

「...だからなんだよ急に。」

「前に話した時に、彼女とはまだ付き合ってはいないって言ったろ?それは俺が彼女からの告白を保留しているからなんだ。なんとなく妹みたいな感じだと思っていたから、しっかり受け止められていなかったんだ。だけど、俺は、飛鳥のことが・・・」

「待ってくれ、それを俺に言ってどうするんだよ。俺は空見さんじゃないぞ?」

「あ、あぁ、それもそうだね。ごめん。」


まさかの告白を聞いてしまった。なんだかんだ言っても二人はただの親友で、異性としての付き合いは今後も無いのだろうと勝手に思い込んでいた。しかし、実際は彼女の方が既にサトシに好意を持っていて、それにサトシも応えようとしているようだ。俺はあろうことかその舞台を用意しようとしているのだ。

俺の負けは既に確定してしまった。



 21時42分。サトシの情報通り、受付が席を外した。その隙を見て俺は空見さんを迎え入れる。彼女は声を出さずに口だけを動かし「ありがとう」と言った。どうしようもない気持ちが湧き出てくるのを感じた。


 早歩きで最上階の屋上に続く階段へ進む。3mほどありそうな長さの古い梯子は既に降りていたため、先に彼女に登ってもらった。俺が続こうとしたとき、背後から気配を感じ振り返る。そこにはモップやバケツといった掃除用具を抱えたサトシの姿があった。


「掃除器具を忘れていたよ。一応、屋上掃除って話なんだから持っていかなきゃな。先に登ってコレを運ぶのを手伝ってくれるか?」


俺はそれを承諾し、梯子を登った。そしてサトシからモップやバケツを受け取った。全器具の受け渡しが終わったところで続いてサトシが登ってくる。最後の段に手をかけたところで、彼の発言が一瞬、脳裏を過ぎった。


---だけど、俺は、飛鳥のことが・・・


気づけば俺は屋上に上半身を乗り出した彼の肩を強く押していた。彼は驚いた表情をしていた。そしてすぐに鈍い落下音が響いた。


恐る恐る下を覗くと、そこには頭部から血を流した の姿があった。



 彼は病院に運ばれ、今もまだ病院で眠っている。一命は取り止めたものの、いつ目覚めるのかはわからず、仮に目覚めたとしても記憶障害等の後遺症を発症するかもしれないとのことであった。

空見さんは涙を流し、彼の側を離れなかった。





 私、外海 聡は自身の嫉妬のために大事な友人を傷つけてしまいました。殺人だと言われても否定できません。そして、私は当然生きて罪を償うべきなのでしょう。

しかし、私は弱い人間です。自分の罪にこれ以上耐えることができないみたいです。




さようなら。

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