9月22日 (青)

 今日は一限に遅刻してしまった。早起きが苦手なのに、背伸びをして履修してしまったのだ。理由は簡単。オリエンテーション参加時にある女性に一目惚れしてしまったからだ。彼女の姿を拝むために早起きをしようと誓った・・・はずだった。目覚めた時にはすでに講義が始まっている時間であり、大学に着いた時には講義は後半に入っていた。こっそりと教室に入り、一番後ろの席に着く。講師が一瞬嫌そうにこちらに目をやったが、特に叱責等はしなかった。


 偶然着いたその席は、憧れの彼女の隣ではなくの隣であった。彼は小声で話しかけてきた。


「なんだ、しっかり遅れてきたじゃないか。」

「早起き苦手なんだよ。」

「苦手なら履修しなければよかったじゃないか。単位足りなさそうなのかい?」

「いいだろ別に。純粋にこの講義に興味があったんだよ。」

「ふーん。君が『自己心理学』にねぇ。」


俺たちは学科が違うので必修科目で講義がカブることはないが、いくつかの共通科目では同じ講義になることがあった。同じ講義を取っていてかつ、隣の部屋なんだから、起こしてくれても良いじゃないか。いや、それはさすがに傲慢すぎるな。


 板書を写しながらも、彼女の姿を探す。少し腰を浮かせて教室全体を見渡したもののその姿を見つけることはできなかった。その行動を不審に思ったのか、サトシが俺の肘をペンで突っついた


「おい、誰か探しているのかい?キョロキョロして怪しいぞ。」

「いや、別に。そういえば、君はこんな後ろの席に一人で座っていたみたいだけど、友達がいないってのは本当だったんだな。」

「友達がいないのは否定しないが、本当ならそこにはが座っている予定だったんだ。」

「おぉ、マジか。それは申し訳ない。でも、ここにいないってことはまただね?」

「そう。遅刻だよ。まだLineも来ていないということから想像するに、彼女はまだ寝ているね。遅れてでもちゃんと出席した君の方が立派だよ。」


どうやらサトシの連れの子はまた遅刻しているみたいだ。サトシ曰く、彼女は見た目良し、頭良し、性格良し、だが信じられないほどのロングスリーパーとのことだ。そんな彼女こそ何故一限の講義を履修したのだろうと疑問に思ってしまう。



 講義が終わり、次の講義まで時間があった俺たちは大学の共有スペースに溜まっていた。俺は次の講義の課題を片付けていなかったことに気付き急いで手をつけていた。一方でサトシの方はずっと誰かと電話をしていた。電話を終えた彼はため息をつきながら俺の前に座る。


「はぁ。まったく・・・。」

「例の彼女かい?まさか次の講義にも・・・?」

「そうだ。また遅刻しているんだよ。勘弁してほしいよなまったく。とりあえずまた話し相手になってくれよ。次まで90分もあるのに、暇で仕方ない。」

「ダメだよ。俺は課題を片付けなきゃいけないんだから。」


サトシは退屈そうに頬杖をつき、また大きなため息を吐き出す。そんな彼の背後に忍び寄る影があった。その影は少しずつサトシに近づき、すぐ背後まで寄ったところで彼の目を手で覆う。


「だーれだ?」

「うぉ!なんだ!」


サトシは寮で黒い奴を見つけたとき並みに驚き、思わず立ち上がっていた。そんな古典的ないたずらをする彼女は、早起きが苦手な俺に一限履修を決断させるほどに魅力的なであった。


「おい、寝坊してたんじゃないのかよ!」

「一限に寝坊したのは間違いないけど、そのあとは嘘〜。ちょっとだけびっくりさせようと思ってさ。」

「意味のないことするなよ・・・。さとし、ごめんよ。直接会うのは初めてだよな。こちらは・・・」

「はじめまして、空見 飛鳥です。あなたが噂のさとしくんね。」


ついに対面できたサトシの連れの彼女は、俺が恋した彼女であった。

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