9月8日 (青)
ついに夏季休暇も終わり、俺はまた監獄に戻ってきた。建物自体が古く、住み心地は非常に悪い。しかし、賃料は二食付きで月々8千ほどのため、貧乏学生の自分にとってはここに住む以外の選択肢は存在していなかった。
久しぶりに部屋に戻った俺は、荷物を整理しながら明日の講義の準備をする。後期課程は、ほぼほぼ履修する講義を事前に決めていた。筆箱には赤ペンと愛用している万年筆を入れた。インクはペリカンのロイヤルブルー。受験生の頃から使っているものだ。一通り準備を終え、あとは夕食を食べて眠るだけだと思ったその時、隣の部屋から悲鳴が聞こえてきた。
「うああああぁあぁああ!!!」
何事かと思い急いで廊下に出てみると、廊下には腰を抜かしたサトシがいた。彼の視線の先には黒いモノがカサカサと蠢いている。勘弁してくれよ俺だって苦手なんだからと思いながらも、スリッパを片手に勝負を挑む。結局、明確な勝敗は着かなかったものの、相手の敵前逃亡によってことなきを得た。
「あぁ、助かったよ。」
「叫ぶほどに嫌いなんだな。ゴキブ...」
「やめてくれ!名前も聞きたくないんだ・・・。」
「お前なぁ・・・。」
ゆっくりと立ち上がった彼は手についた埃を払うと、何事もなかったように話始めた。
「ところで、部屋まで隣なんてよっぽど強力な運命で繋がってしまっているみたいだな、俺たちは。」
「あぁ、本当に恐ろしいよ。せっかくなら可愛い女の子とが良かったんだけどね。」
「名前まで同じでちょっと気持ち悪いけど、名前で呼んでもいいかな?」
彼は俺が首から下げていたカードタイプの学生証を見てそう言った。
「あぁ、構わないよ。だったら俺もサトシと呼ばせてもらうよ。」
サトシは満足気な顔をして、部屋に戻っていった。彼との意外な共通点は住むところにまであった。彼の言葉を借りるならば、俺たちは『強力な運命で繋がってしまっている』のであろう。異なっているのは苗字と容姿、それに女性とのつながりだ。彼には幼馴染?のような存在がいるが、一方俺には・・・。
悲しくなるからここら辺でやめておこう。
明日に備えて寝ることにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます