8月5日 (青)

 電車を使い一番近くの街まで出てきた俺は、何となく人の流れに身を任せて歩いてみる。特に予定があるわけでは無いが、ずっと安宿に篭っているわけにもいかない。改札を抜けると、見上げ切れないほどの高層ビルが連続的に立ち並ぶ光景が広がっていた。人の数も多く、さらに暑さも相まってクラっと一瞬意識が飛びかける。


 避難のために入店した小さな喫茶店にて、俺は意外な再開を果たした。窓際の席に『デッサン』で出会った青年が退屈そうに座っていたのである。俺は隣のテーブルの席に座る。そしてわざとらしく咳払いをする。


「ん?おや、君はあの時の。」

「あの、あの時のお金、今は持っていて、だから、」


緊張によって、カタコトで話してしまった。自分のあがり症にはうんざりしてしまう。


「お金?あぁ、いいよ。話相手が欲しかった俺から申し出たんだから。そうだ、もし時間があるんだったら、また話し相手になってよ。連れがまた遅刻しているもんで。」

「喜んで!」


俺は彼のテーブルに席を移し、再び話相手になる。


「そういえば、連れっていうのはもしかして彼女?」

「あはは。違うよ。女性なのは正解だけど、彼女じゃ無いよ。」

「そうなんだ。よく二人で遊んでいるの?」

「そうだね。お互いに交友関係が狭くてね。付き合いも長いし、自然と二人で過ごす時間は長くなっているかもしれないね。」


その女性と彼は中学生の頃からの付き合いらしく、同じ大学を受験し一緒に上京をしてきたとのことだ。そこまでの付き合いで、彼女じゃ無いというのは・・・。何だか不思議な関係のようであった。


「ところで、君はどこの大学に通っているんだい?」

「xxx大学だよ。」

「あぁ、通りで行動範囲が同じなわけだ。」


どうやら俺たちは同じ大学に通っているようだ。学部は異なっていたが、同じ大学で二度も別の喫茶店で出会うとなると、ちょっとした運命的なものを感じぜざるをえない。俺たちには他にも意外な共通点いくつかあった。せっかくなら可愛い女の子との方が嬉しかったなあ。


 しばらく話し込んだ後に、結局彼は連れの彼女にドタキャンをされてしまった事が発覚し、彼女についての愚痴を聞いてあげることになった。


 話し終えた俺達は、別れ際にお互いのLINEのIDを交換した。そこに表示されていた名前を確認し、また新たに発見した意外な共通点に驚いた。


「Satoshi・・・。なんだ、名前も同じだったのか。」

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