第13話


 綺麗な黄色のオムレツを頂き、食後の紅茶をクピクピ頂く。


 訓練の始まる時間はまだ先なので、この間に他の能力についても説明する。


「【眠りの能力】、でしたか。1番シンプルな名称ですね」


「シンプルだよ。でもこうかはかなりひろいみたい」


【眠りの能力】に含まれる力、その1。

 睡眠による効果の増大。


 まず、疲労回復。より短時間で、より大きく回復する。魔力もである。


 記憶定着。睡眠によって、人の記憶は整理され定着される。

 1度眠ることで、修行した内容が身に付き忘れなくなる。覚えが良いのはこれの力も有るようだ。

 ただし、適当にやると適当なまま。しっかり身を入れて修行するとその分身に付くのである。努力を裏切らせない能力だ。


 睡眠による、幸福感の増大。

 より心地よく感じる。


 等々。


 睡眠に関する効果を上げることができる。

 僕の成長と共に効果は上がる。


 そして魔法にも効果があり、


 睡眠、眠る、目覚める、夢等に関連する魔法が使えるのだ。


「随分とさまざまな効果を持つみたいですね。


 リース様の指針そのままといったような能力。それも【夢を現実にする能力】によって得たのでしょうか?」


「うん。だけどたいかはゆめエネルギーというよりは、いせかいてんせいによるものだとおもう」


 この世界に転生や転移するときに、能力が手に入ることがある。

 この前、絵本でそんなヨタ話を知った。

 恐らくだけれど、死ぬ間際か死後に【夢を現実にする能力】が発揮したのではないかな。

 なぜこんな力を持っていたかは分からないけれど。


 もしかして前世に何か有ったのだろうか。

 魔法や奇跡は確認されて居なかった筈だけれど、エピソード記憶がないためよく分からない。


 分からないだらけだ。


「ねむりのまほうにかんしては、レイルせんせいにきこうとおもう」


「ええ。それが良いでしょうね。【王将】の能力に関しては何か分かりますか?」


「うーん。すこししかわからない」


 この【王将】の能力は、自分1人で完結する能力ではなく、他者と関わる能力っぽい。

 他者へプラスの魔法をかけることが可能になるけれど、それは副次的な効果っぽくも感じる。


 しかし、現在はよく分からない。

 人によって発現のしかたも異なるようだし。





 そろそろ時間かな。

 レイル先生には、眠りの魔法を使ってみたいと言うだけにする。

 能力についてペラペラ喋るのは危険かもしれないからだ。


 メアには話しても大丈夫だと思うからこそ、信じるからこそ話せるのだ。


「私もリース様のことを信じていますよ。


 さあ、行きましょうか」







 ──────────






「ふむ。眠りの魔法、ですか」


 レイル先生による魔法指南。

 まずは復習から、と魔力を引き出し、練り上げ、的に向かって飛ばす。


 うん。起きてから魔力の精製まではちょくちょくやってたけど、しっかり飛ぶし、僅かに攻撃力もある。

 その成長速度に、レイル先生は感心していた。


「どんな魔法が使いたいか、そしてこれなら使えるという感覚は重要なものです。


 まずは試してみましょうか。やり方は分かりますか?」


「はい。イメージをまりょくにこめます」


「まずは儂にかけてみて下され。


 メア殿、もしも眠ってしまったら、起こして頂けるかな」


「承りました」


 やはりレイル先生は実践派のようだ。


 まずは魔力を引き出し練り上げていく。

 精製された魔力に、イメージを籠めていく。


 眠りのイメージ。


 夜眠るとき、波のようにやってくる眠気。

 心地よく沈むような眠気をイメージして、魔力に籠める。


 その魔力を、レイル先生のムキムキ筋肉に触れて流し込んでいく。

 離れて流し込むより、直接流し込んだ方がロスも少ない。


 今出来る限界まで、魔法を流し込んでみた。


「どうですか?」


「…………ううむ。これは中々に使える魔法になりそうですな」


 眠気を全く感じさせないレイル先生の声音。

 魔法は効いているのだろうか?


「眠気は僅かですが感じますぞ。儂の魔力抵抗を抜けて、効果を発しています」


「まりょくていこう?」


 効いてはいたが、ほんの微弱。

 そりゃ仕方ない。初めて使ったもの。


「魔力抵抗とは、魔法に対する盾のようなものです」


 魔力を持つ者は、それだけで魔力抵抗、魔法防御を持つらしい。

 魔力を高めたり、魔法を使うことで上げることも可能。


 この魔力抵抗だが、害意や悪意のあるものに対してより強く反応するらしい。

 回復魔法や、支援魔法には反応が弱い。


 しかし反応はするため、回復魔法等のプラスの魔法は難易度が高くなるのだ。


 レイル先生の使う、魔法指南の為の魔力操作も、結構大変らしい。

 僕が受け入れる、という意識を持つことで魔力抵抗を下げたので、少し労力は減ったようだが。


「殿下のこの魔法、魔力抵抗を抜きやすい気がしますな。害意が少ないからでしょうかな。


 ただ意思を持つことで振り払うことも出来ますし、魔力を高めることで散らすことが出来るようです」


 イメージが良い睡眠だったからかな。

 では、害意を強めるというか、強制的に眠らせるイメージならどうだろう。


「つぎは、よりわるいねむりのイメージをこめます」


「畏まりました。途中から、抵抗を弱めてみますぞ」


 強制的に眠らせるイメージ。

 ゲームの魔法のイメージに加え、底無し沼? いやどこまでも落ちていく奈落。

 深い深い、無の底へ。


 戻ることのできない、どこまでも深い無意識の海へ引きずり込むイメージを。



 魔法を流し込む。

 しかし、上手く流れていかない。

 塞き止められている感覚。

 それでも流し続けると、途端に流れる…………ッ!


「っと、申し訳ありません殿下。大丈夫ですか?」


「うっ、うん。なんかはじかれた?」


 メアも警戒したようだけど、すぐに戻っていった。


「すみませぬ。抵抗を緩めると、先程とは比べ物にならない眠気を感じました。


 咄嗟に魔法を弾いてしまったようです。


 しかし、抵抗に合う代わりに強い眠気を誘う魔法と、抵抗に合いにくい代わりに弱い眠気を誘う魔法。


 2つも成功しましたな」


 成功はしてるけど、使い物になるかな。


「今はまだまだ弱くとも、上達すれば相当なものになりますぞ。


 魔力弾の時にも言いましたが、悪用しようとすれば簡単に悪用出来ます。


 弱い眠気でも、集中力は割かれますし、振り払う為にも一瞬ですが行動を遅らせることが出来ます。


 殿下、この魔法。儂は上達させることを勧めますぞ」


 おお、高評価だ。

 単純に、【能力把握】等も使った結果、1番使えそうだからと選んだのだけれど。


「てきをたおせるわけじゃないよ?」


「ええ確かに。ですが、倒す役割は他の者でも担えます。


 それに成長すれば、相手を無傷で昏倒させることも出来るでしょう。


 今の貴族たちの風潮では、やれ威力だのやれ範囲だの、倒すことだけに目が向いているようですが、殿下のようにサポート出来る魔法こそ重要なのですがね」


 レイル先生は見るからに火力偏重に思えるのだが、デバフ等に理解が有るのか。


「この魔法、離れた相手にも使えるように修練しましょう。


 何か他に使いたい魔法は有りますかな?」


「ねむりとはぎゃくの、おこすまほうはどうでしょうか?」


「起こす? ううむ。眠りの魔法のように戦闘に役立てるのは難しいでしょうが、役に立たないということはないでしょうな。


 殿下がするかは分かりませぬが、儂らが夜営の際に襲撃があり、一斉に起こす必要が有るとき等に使えるやもしれません。


 1度試してみましょうぞ」


 否定すること無く、利点を探してくれるのは嬉しいな。

 何でも否定することから始める上司もいるし。うっ、無い筈の記憶が…………。



 魔力に、目覚めのイメージを籠める。

 朝日の光等の、始まりのイメージ。

 眠気が飛んでいき、疲れもなく爽快なイメージ。

 イメージを纏め、籠めて、レイル先生に流し込む。


「ほう。これは爽やかな気分に成れますな。少し身体も軽いような。


 これは良い魔法ですな」


 顔を喜びに歪め(怖い)、そう評すレイル先生。


「もうひとつつかっていいですか?」


「もちろんですぞ」


 魔法のイメージで、別のイメージが思い付いたのだが、さっきのには籠めなかった。


 今度は、まずニワトリの鳴き声のイメージを。

 お玉とフライパンのイメージを。

 軍で、みんなが枕にしている丸太みたいのを打ち付けるイメージを。

 籠城している相手を、夜中にでかい音で起こすイメージを。


 強制起床魔法とでも名付けようか。

 先程のはお目覚め魔法。

 眠らせるときには、睡眠誘導魔法と、強制睡眠魔法の2つ作ったから、こちらも2つ。


 イメージを籠めて流し込む。

 やはりこちらは抵抗された。

 緩められた抵抗を越えて、魔法の作用が発揮する。


「ぬおっ!?」


 すぐに弾かれる。


「これは…………、戦闘に役立てるには難しいというのは撤回しますぞ。


 寝覚めの悪かった日をいきなり叩き込まれるとは。


 すみませぬが、先程の穏やかな目覚めの魔法をお願いできますか?」


 想像以上に威力が大きかった。精神的な。


 お目覚め魔法を、より癒しのイメージを強めて流し込む。


「おっ、おお…………。これは良いですな。


 疲れが取れるようです。殿下は回復魔法も使えるやもしれませぬな」


 そそそ、っと寄ってきたメアにも魔法をかけてみる。


「確かに、これは清々しい気分になりますね」


「他の者に試してみるのも必要でしょうかな。


 ここに仕えているもの、魔力抵抗のない平民出の者に手伝ってもらいましょうか。


 手配が終わるまでは、飛ばしてみる方を修練しましょうか」


 と、強制起床魔法のときは鬼のように歪めていたが、今はスッキリとした顔のレイル先生が1度退出していった。


 回復魔法か。

 王族としての責務で、戦い三昧になる可能性もあるという。


 しかし、回復魔法が使えれば引っ込んでられるかもしれない。


 眠りの持つ効能に、回復や癒しはある。

 使えるようになるかもしれないな。


 でもまずは、眠りと起床の魔法をマスターしよう。



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