第12話


「スゥ…………スゥ…………」


 人が眠っている。

 それは僕、リースではない。



 メイド服を着用し、ヘッドドレスはどこか暢気に垂れている。

 眠る彼女は、メアでもない。


 綺麗というよりは可愛い系、ついでにどこか惚けたような感じ(言うまでもなく失礼)。

 彼女は僕の住む離宮で働いている下位メイドの1人である。


「見事に眠っていますな」


 壁の一面が外に面した、魔法指南用の部屋。

 ここにいるのは、僕とメア、そして指南役のレイル先生である。


「殿下の魔法、相手を眠りに誘う魔法ですが、これは中々に強力な魔法になりそうですな」


 どこか感心した様子で、しかし怖い顔を歪めているレイル先生。


「たった1日の修行の次の日に、しっかりと効果のある魔法を発動されるとは。


 殿下の才、そして努力はかなりのものですな」


 才能だけでなく、努力も褒めてくれるのは嬉しいです。

 半ばチート染みた経緯も有るけれど(ズルい能力的な意味で)。


 なぜ眠りの魔法を発動できたのか、そしてなぜ眠りの魔法を選んだのか、それは今日の目覚めの瞬間まで遡らなければならない…………。


 なお、その間お惚けメイドは眠りこけたままである。






 ──────────








 とても心地よい寝付きから、目が覚めると違和感が2つ。


 1つは、物足りなさ。

 時間と共に冴えてくる頭と感覚が、その正体に気付いた。


「メアがいない」


 しっかりと抱き付いて寝ていたはずなのに、そこにメアが居なかった。


「お呼びになりましたか? リース様」


 しかし視線の先にはしっかりと居た。

 良かった、昨日のは夢じゃなかった。


「先に目覚めましたので、支度を整えていました」


 メアは優しく微笑みかけて、僕の頭を撫でてくれる。

 手のひらから幸せが伝わってくるかのようだ。



 さて、感じた違和はもう1つ。

 これは体外ではなく、内面にある。

 完全に目覚めた思考で、内面に集中していく。


 …………


 ……………………


 …………………………………………


「なん…………だと…………?」


「どうなさいました?」


 意識を集中させていた間、黙って頭を撫で続けてくれていたメアが、少し不安げに覗き込んでくる。


 受信できなかったのかな?


「ええ。上手く読み取れませんでした。こんなことは今まで無かったのですが…………」


 なるほど、この能力を使っているときの思考は読めないのかな。


「能力、ですか?」


「うん」


 名付けるとしたら、【能力把握】の能力だろうか?


「はい…………?」


 自分がどんな能力を持っているのかを知ることの出来る能力。


 それが僕の目覚めた新しい能力のようだ。


「えぇ…………?」


 ポカンとしているメアの表情。レアだな。

 何時もは凜としているけれど、可愛い成分が強くなっている。


「ええと、目覚めたとか色々と気になることは有りますが、朝の支度をしましょうか。


 説明はして、くれるのですよね?」


「もちろん」


 メアに隠す必要性もないし。





 ──────────




 着替えなどを済ませ、朝食待ちの間、ミルクを飲みつつメアへ、僕の分かったことを伝える。

 拙い口頭説明より、脳内説明で伝わるのは有りがたい。

 だけれど滑舌も育たなく気もするので、口頭説明も併用します。


「まず、ぼくにはおおまかに3つののうりょくがあるみたい」


 1つ目、【王将】の能力。


「アルザ王家の王族が持つとされる能力ですね?」


「うん」


 2つ目、【夢を現実にする能力】。

 僕はこの能力をこう評した。


「…………? 随分と抽象的な能力ですね」


「それくらいちゅうしょうてきなのうりょくだとおもうんだ」


 3つ目、【眠りの能力】。


「やけにシンプルですね?」


「いちばんわかりやすいのうりょくだとおもう」


 そしてなぜ能力が分かるのか、その発端となった能力、【能力把握】。


 この能力を獲得した経緯も、【能力把握】によって何となく分かった。


【夢を現実にする能力】が要因である。


 この能力には、欲しいと思った力を獲得する、という機能が有る。


 まぁ、ぶっ壊れ程ではないがチートである。


「ちーと? 不正…………ではなくズルいのですか? 確かに羨ましい能力ですが、それはリース様の持った能力です。


 ズルいも何もないと思うのですけれど」


 そう思えるメアが凄いだけだよ。

 特に、昨日の話で、そんな経験した上で言えるのが。


「ありがとうございます。ですが、リース様だから、そう思えるだけですよ。


 他の誰かが持っていたら、きっと嫉妬に狂いますよ」


「くるうの?」


「狂います」


 想像できないや。


 話を戻そう。


 僕は昨日、自分がどんな適正を持っているか知りたいと思っていた。

 他にも色々と考えたり思ってたのだけれど、この思いが、夢が、現実となったらしい。


【能力把握】の力により、その能力を知ることが出来た。

 かつて勇者が持っていたとされる鑑定程ではないが、かなりの能力ではないだろうか。


「しかしリース様、それほどまでの能力。


 何の対価も無く得られるものなのですか?」


「もちろん、ひつようだよ」


 対価は必要だ。等価交換の法則という訳ではないけれど、夢を現実にするためには、その分エネルギーが必要となる。


 ではそのエネルギーとは、何か。

 それも【能力把握】により何となく分かった。


「あの、なぜ先程から何となく分かった。なのでしょうか?」


「それはね、何となく、としか分からないからだよ」


 この能力はこれこれこういう能力です、と説明される能力ではなく、なんかこんな能力持ってるっぽい? と言うのが分かるだけなのだ。

 検索エンジンの使い方を軽く教えてもらっただけの状態。

 どう調べれば良いかすら調べるところから。

 実は地図機能も付いてたり、写真の加工も出来るのかもしれないが、まだそれも分からないのだ。


 まあさっき使えるようになった能力だし。

 どこまでもイージーモードとはいかないようだ。

 それでも難易度ルナティックより余程マシだけど。人生かかってますし。




 おっと、対価の話に戻ろう。


 そのエネルギーとは、夢だ。

 質の良い睡眠を得ることで溜まるエネルギーとも言い換えられるもの。

 それを通貨として、【夢を現実にする】ことが可能となるっぽい。


 僕の人生の指針と被ってるし、溜めることそのものは難しくはないだろう。


 問題は、得るものに比例して、対価も大きいこと。

 いや逆かな、払う対価が大きいほどに、得られるものは大きい。


「どれだけ払ったかや、今どれだけ溜まっているかは分かるのですか?」


「うん。わかるよ」


【能力把握】だけではなく、【眠りの能力】による部分も大きいみたいだけれど。



 現在溜まっている夢エネルギーは…………0。


【能力把握】の対価には、僕がリースとして生きた過去3年分のエネルギーを全ツッパしたのである。


「ぜ、全部ですか!?」


 驚いた表情のメア。ヘッドドレスも揺れている。


 でも自分の能力を客観的に知れる、というのはそれだけ大きく、また重いことなのだろうと僕は思う。


 それに、今回のこれは、知らない内に溜まってた貯金が勝手に全額(自分のために)使われてた、って感じでそこまで気にすることでも…………いや気になるか。


「気にすることだと思いますよ? その【夢を現実にする能力】は、制御できないのですか?」


「できなくはない」


 今は把握出来たし、ある程度操作できる…………気がする。


 ただなぁ。この能力、意識的に使うより、無意識に使った方が効率良さそう何だよなぁ。

 変に意識して使うと、対価が高くなったり、得られる能力の質が落ちそう。


 夢の純度みたいなのも重要な気がする。


 とはいえ、


「ためればいいだけのことだよ」


 これから、質の良い睡眠を得ることは、生きていく上での指針でもある。

 副産物として夢エネルギーが溜まり、何かに使える、というだけのこと。

 だけのことというには大きすぎるが、溜めれば良いのである。


「メアも、きょうりょくしてくれるんでしょ?」


「勿論です。おっと、話は一旦ここまでで、朝食に致しましょうか」


 ひらりと、ヘッドドレスが揺れた。

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