第11話


 お風呂に入ってさっぱりとし、

 カボチャを使ったホクホクの煮物に舌鼓を打ち、

 夜の眠りにつく前に、魔力操作の修行をしながら考える。


 どんな魔法が欲しいか。

 僕にはどんな適性が、才能があるか。

 思考が渦を巻くほどに、魔力は解けていく。


「リース様。宜しいでしょうか」


 集中力が途切れたことを受信したのか、メアが真剣な目で僕を見ている。


「お話したいことがあるのです」


「うん。聞くよ」


 メアの抱える事情とやらを。

 話したいというなら聞く。興味も有るし。


「リース様。私は、出来損ないなのですよ」


 どこか悲しげで、諦観の滲む声音と共に話は始まった。




 ──────────





 魔力の強さ、多さは遺伝する。

 親の魔力が強ければ、子も強くなる。それが魔法のルールではあるが、例外も多々ある。


 本来、魔力が無きに等しい平民から貴族よりも強力な魔法使いが生まれることがある。


 逆に、親が貴族同士であり魔力が強くとも、子供の魔力が弱いことがある。


 極めて大雑把に分類するのなら、


 王族級:魔力たくさん使い放題。めっちゃ強力。

 準王族級:王族より数段劣るが、それでも強い。王家の力は受け継いでないことが多い。


 上位貴族級:かなり魔力が多い。垂れ流しな程ではないが、ある程度気にせずに使える。

 下位貴族級:まあまあの魔力。多少節約しながら魔力を使える。そこまで強くはないが、平民とは比べ物にならない。


 上位平民級:平民よりも魔力が多い。何回か弱い魔法(王族目線)が使える。魔物も弱いやつなら倒せる。

 平民級:ほぼ魔力を使えない。使える者も、ちょっと使えるくらい(それでも使える者は一目置かれる)


 となる。タチク家のように魔力量を把握できる者が昔、分類したそうだ。多少でも分かりやすくなるように。



 僕の場合は王族級であるそうだ。

 王族の中でも魔力の強かった父親(乱心中)と、下級貴族の母親(傾国クラス)との子供のため、準王族級になる可能性も充分に有ったのだが、転生時ダイスロールは良い目を出してくれたようだ。


 しかし、悪い目が出る者も居る。


「私の魔力は、下位貴族級よりも低く、上位平民級よりも多い程度にしかないのです」


 メアは王家に仕えるメイドだ。

 しかも、現在は王子の専属にすらなっている(皆避けてはいたが)。

 元々の出自が良い者でないと、王家に仕えることは叶わない。


「両親は共に上位貴族、それも戦闘を生業とし、名を轟かせる家で有りながら」


 上位貴族同士の子供であれば、上下に振れたとしても上位貴族級になるはず。どれだけ低くとも下位貴族級よりは多い。


 にも関わらず、メアの魔力は低かった。


 もしかすると、特異な能力を持っていたから、魔力が低かった、みたいなこともあるのだろうか。


「それも有るかもしれません。家の者は、私の能力を知ると喜びと共に隔意を覚えていました。


 しかし、魔力の弱さを、余りにも弱い力を知ると隔意がより強くなりました」


 メアはその受信能力を生かして色々と試したのだという。

 元々、極めて微弱ながら魔力を使う受信能力を制御するために、必死に努力したため、魔力操作の技術はかなり高いらしい。


 また、魔法はイメージ力が影響する。

 他者の魔法を使う際の感覚や、イメージを受信し参考にすることで、メアはその実力を一足飛びに伸ばしていった。



 …………あくまでも、魔力が低いものの尺度で。



 魔力が少ないため、訓練出来る時間も少ない。

 元が弱いために、どれだけ練り上げても威力は頭打ち。


 受信能力を生かし、相手の不意を打っても難しい。

 魔力を帯びた貴族の身体に、生半可な攻撃は通らない。


 家の人達の中にも、メアの境遇を知り助けてくれた人が居た。

 様々な方法を試したが、そもそも魔法の才能すら乏しいことが判明し、受信能力で補えるレベルではなかった。


 平民に混じり暮らす分には充分すぎるものでは有るのだが、貴族の価値観が身に付いているメアにとってその選択肢はなかった。


 親切な人の伝手を借り、家からは勘当されては居るものの、メイドとして身を立てることは出来たそうだ。


 しかし、メア自身の出自は周りにも知られている。

 悪意のあるものを見付けるセンサーにはなるが、その受信能力を毛嫌いするものも多く、打ち解けられる訳じゃなかったそうだ。


 そんな中で出会ったのが、幸せそうに、否幸せに眠る、自分と同じ嫌われものの赤子だったらしい。


 その赤子の世話を、心が読めるならしやすいだろうということで担当することが多く、自らも進んで担当したいと思い始めた。


 一緒に居るだけで幸せになれる存在を見つけたメアは、やや依存にも似た感情で一身にメイド業に邁進した。


 そのうち、何だか前世持ちっぽいし、どうなるんだろう、でも私は決して離れることはない、と決意しつつ真の意味での目覚めを待っていたらしい。


 そして前世に目覚めたその王子は、記憶を継続しながらも穏やかで、自分を受け入れてくれたのだそうな。


 …………うん、改めて言われるとこそばゆいな。

 だけれど、嬉しいとも感じる。

 メアの弱さ、魔力的な意味ではなく、心的な弱さを知り、そして強さも知れた。


「これからも、私はリース様のお側に居ても良いですか?」


「もちろん」


 むしろ、僕が逃がさないとも。

 いつの間にか、ぎゅっと抱き締めあっていた(ほぼ抱っこされているけれど)。

 より強く、ぎゅっと抱き付く。


「メア、おねがいがあるんだ」


「なんでしょう。なんなりと」


「このままいっしょにねようよ」


 この心地よさのままに眠れたら、とても幸せだと思うんだ。


「…………良いですよ。一緒に眠りましょうか」


 やや葛藤していたようだけれど、ぎゅっと抱き締め返され、承諾してくれた。






 本格的な眠気が訪れるまで、色んな話をしていた。これがピロートークってやつだろうか。


 ゆっくりと水位が上がる水面のように、眠気が強くなってきた。


 うとうとしながら、もう一度メアに抱き付く。


「おやすみ、メア」


「お休みなさいませ、リース様」


 頭の中では、ぐるぐると今日あったことが渦巻いている。

 魔力のこと、魔法のこと。

 使いたい魔法、適性のある魔法。

 そしてメアのこと。


 色んなことを考えながら、それらは水泡のように消えていく。


 残った夢は、なんだろうか…………。










( ˘ω˘)スヤァ









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