第10話


「…………できた」


 レイル先生から魔法の指南を受け早幾星霜。

 魔力を自分の力で引き出すことに成功した。


 そう、どれだけ時間が経ったものか。

 レイル先生に魔法をかけてもらい、魔力の感覚を覚え自分で再現するまで。


 出来たのは魔力を引き出すことだけ。操作は覚束ない。

 しかし、着実に一歩を進めることができた。










「素晴らしいですな。1度休憩しただけで、感覚を掴むことに成功するとは…………。


 儂の教えてきた者や、他の者の話を聞いたことが有りますが、その中でもトップクラスの習得の早さですな」


 そう、指南を受け始めてから数時間ほどで習得したのだ──ッ!


「時間を空けると、普通なら感覚が遠くなり、掴み直すところから始めるのですが…………。


 殿下の場合は、1度お眠りになることでリフレッシュされた方が良いのかもしれませんな」


 首を傾げながらも、そう結論を出すレイル先生。

 そう言えば、前世よりも記憶力が良いかもしれない。

 読んだ絵本や、他の本の内容を細部まで思い出せる。


 子供だからだろうか、それともリースという存在は記憶力が良いのだろうか。

 良いに越したことはないけれどね。


「では、また魔法を掛けさせて頂きます。今回は魔力を引き出すことは殿下が、維持し練り上げるのは儂が行います」


 またお互い向かい合わせで手を握り、意識を集中させて身体か精神か魂か、何かしらの奥底から魔力を引き出していく。


 かなり集中しないと引き出せない。

 集中状態を維持しないと、魔力を引き出し続けることが出来ない。

 慣れれば無意識に引き出すことも可能になるらしい。

 自転車の乗り方みたいなものだろうか。


 おっと集中集中。


 引き出した魔力だが、今の僕ではこれをどうにか出来ない。

 僅かに引っ掛かる感触のようなものは有るのだが、殆どが霧散するか奥底へ還ってしまう。


 その魔力が、霧散しないように留まり、練り上げられ上質なものになっていく。


 この感覚を掴むのだ。


 補助輪無しの自転車を、後ろから押さえてもらいながら漕いでいく。

 そんなイメージをしていると、ふと魔力が留まらなくなる。

 自分の力で留める。


 しかし、消えていく。

 後ろの支えが無くなり、ふらふらと自転車は揺れている。


 ダメだ。上手く出来ない。

 倒れかかる自転車は、また力強い力で支えられる。


 また魔力が留まり練り上げられていく。

 この感覚に寄り添うように、自分の力も加えて留めていく。


 …………


 ……………………


 …………………………………………


「ぷはぁ」


 魔力を引き出すことも出来なくなってきちゃった。


「また休憩に致しましょう。訓練の再開は昼食後、少し休んでからとしましょうか」


 レイル先生の指南は、まず3日付きっきりで指南。

 その後1週間ほど空けて、再度3日程指南。

 といったスケジュールらしい。


 レイル先生はずっと見ていられなくてすみません、と言っていたが来てくれるだけでありがたいものだ。

 なので、昼の間は魔法の指南に当ててもらうように頼んである。

 子供なので休憩多めだし、寝てしまうけれど。


 しかし、寝ることでより早く魔法を習得できるなら気合いを入れて寝るとしよう。


 訓練の疲労による眠気とその睡眠は、また一味違う心地よさがある。







( ˘ω˘)スヤァ







 ──────────






 昼食を終え、魔法指南の基礎の習得を再開。

 ちょいちょい休憩と睡眠、おやつ(メアが譲らなかった)を挟みつつ、修行は進んでいった。


 やはり僕は眠ることで記憶が整理され定着するのか、眠る度にSTEPを上げることができた。

 だからと言って、起きている間手を抜く訳じゃない。

 何となくだけれど、しっかりと気合い入れて集中して頑張ったからこそ、睡眠で定着していると思うのだ。


 魔力の感覚を掴む。

 魔力を引き出す。

 引き出した魔力を霧散しないように維持する。

 維持している魔力を操る。

 魔力を練り上げて、使いやすい形に加工する。


 そして、魔力を放出する。



 少し日が傾いてきた。

 壁の一面、外に面していて、弓道場を少し思わせる。

 今弓道場のイメージが強くなったのは、的が設置され、僕が何かを撃つように構えているからだ。


「体内にある魔力を外に出す。これが出来れば基礎は修めたことになります」


 そして、体外に放出した魔力を維持する。

 維持したまま、移動させ対象にぶつける。

 これは魔法を使う上で必要になる。


 体内に作用する魔法も有るが、体外に放出する魔法が使えることに越したことはないらしい。


「このようにして、放ちます」


 可視化された魔力が、的に向けたゴツい手のひらに集まり、球状に形成。


 魔力の球はややゆっくりと飛んでいき、脆く作られた土の的を破壊する。


「…………」


 僕は両の手のひらを的に向け、魔力を集めて球状に形成していく。

 しかし、ここからが中々進めない。


「メア殿。貴女も手本を見せられてはどうか」


 今まで控えているのみで、行うのはサポートのみだったメアに、レイル先生が水を向ける。


「しかし、私では手本にはあまりならないと思いますが」


「貴女の事情は耳にしている。実に下らないことをな。


 メア殿の技術はとても高いだろう。儂には分かるし、それが伝わっているのだろう?


 今は儂がいる。それに殿下はメア殿のことをとても信じているようだ。


 貴女が手本を見せることは、殿下にも良い影響を与えると儂は思う」


 ん? そういやメアには直接聞いていなかったけれど、色々と込み入った事情が有るみたいだ。

 メアは僕の味方である。それが心から分かった。だからわざわざ聞く気もなくなっていたんだけれど…………。


 それはメアが話してくれるまで待てば良いか。

 この思考も伝わっているだろう。

 投げ槍なのではなく、メアのことを信じているからこその、棚上げだ。


 あとメアのかっこいいとこ見てみたい。


「…………仕方ありませんね」


 ボコッ、っと新たに生み出された的に向けて、メアが人差し指、中指のみを伸ばし的に向けている。

 どうみても銃の構えだ。


 可視化された魔力が指先に集まり、球状に…………否、細い弾丸状に形成。


 撃つ動作により、指は天を向き、魔力の弾丸は的へと飛んでいく。


 ど真ん中を貫いた。


「ふう…………。どうでしたか? 殿下。

 参考になれば幸いですが」


 かなり集中力を使ったのか、やや疲れた様子を見せているメア。


「ありがとう。やってみる」


 とりあえず形から真似して見ようか。


 小さなショタボディだが、比して長めに感じる腕を伸ばし、右手を銃のように、左手を支えに。


 魔力を引き出し、練り上げ、指先に。


 意識によるトリガーを…………撃つ!


 …………届かない。


 しかし、


「さっきより、ちょっとさきまでとんだ」


 より強くイメージする。

 魔力にイメージを籠める。

 魔力よ集まれ。魔力よ固まれ。魔力よ球となれ。


 魔力よ、メアがやったように飛び、的を壊せ。


 …………撃つ!


 まだ届かない。だけれど距離はより長く。

 より強く、より鮮明にイメージを。


「もう一度行いましょう」


 メアは僕の後ろに来て、抱えるように屈んでいるのかな?

 長くしなやかな腕を、指を伸ばし、指先は的を指す。


 先程よりも鮮明に可視化された魔力は、指先で弾丸となる。

 放たれた弾丸は的へと一直線に進み的を破壊する。


 強烈なイメージがここにある。


 そのイメージを、引き出した魔力へと籠めて、…………撃つ!


 放たれた魔力の球は修復された的へと飛んでいく。

 途中で霧散しないよう、強いイメージを籠められた球は弱まりながらも的へ到達。


 表面をわずかに弾けさせ、消えた。


「でき……た」


「出来ましたね! 殿下!」


「うむ。素晴らしいですぞ、殿下。たった1日でここまで出来るようになるとは…………」


 ふー、出来たは良いけど集中力が途切れちゃった。


「本日はここまでにしましょうか。しかし最後に幾つか言っておきましょう」


 メアから渡されたお茶で喉を潤しつつ、一息つく。


 今までよりも真剣な目をしたレイル先生が、僕の顔を覗き込んでくる。

 威圧感たっぷりで怖いですよ、夕方なのもあって、陰が濃くなってきて更に怖いですよ。


「殿下、殿下は魔法の基礎を身に付けました。精進すればより様々な魔法が使えるようになるでしょう。


 しかし、魔法を悪いことに、人を傷付けることに使ってはなりませんぞ」


 なるほど、これは大切なことだ。


「今の殿下の魔力では、脆い的を少し壊す程度です。


 しかし、例えば高いところで作業して居る人にぶつければ落ちるかもしれません。


 刃物を扱っている人にぶつけることで、取り扱いを誤らせて傷付けることになるかもしれません。


 決して、いたずらに使おうとなさらないで下さい」


「…………はい。わかりました」


 真剣な顔をしているレイル先生に対し、精一杯の真剣さで返す。


「…………よろしい。少し脅かしすぎましたな。


 さてここからは楽しい話にしましょうか。

 殿下はどんな魔法が使いたいですかな?」


「どんな?」


 魔法を扱うものとして必要なシリアスシーンを終えると、ややにっこり(怖いが)としながら、レイル先生は聞いてきた。


「人によって得意な魔法は異なりますが、どんな魔法を使ってみたいか、というのは重要なことなのです。


 それと同じくらい重要なのが、自分がどんな魔法を得意とするのかを知ることです」


「とくいとする」


「儂でしたら、血族の受け継ぐ操作の魔法を。

 それと組み合わせた、土を操り騎士とする魔法を得意としております。


 それだけでなく」


 レイル先生が腕を上げ、力こぶを作る。

 すると、ムキムキの身体を覆うように、光沢のある土のガントレットが生成された。


「大地の甲冑。そして」


 ガントレットの指を開き、何かを握る動作をしたかと思うと、長柄の武器がその手に握られていた。


 ポールアックスというものだろうか。


「大地の剛斧と呼んでおります。儂が魔法を覚える際に望んだのは、民草を守るための強き力。


 その望みと、儂の得意とした魔法を組み合わせたものが大地の騎士団なのです。


 しかし、儂は民草を癒す魔法をも望んでいました。


 ですが、儂にはそちらの魔法の才はなかった。


 元々、他者へ魔法を掛けるのは難しいことなのですがね」


「そうなの?」


 どこか悲しげな雰囲気を漂わせるムキムキの老人。

 武人として名高いレイル先生だが、癒すものとしてはメアからは聞いていない。


「単に戦ったり、倒すだけなら良いのですがね。


 癒したり、解毒したり、良くする方向に魔法を使うのは難易度が高いのです。


 自分を回復する分には良いのですが、他者へ、というのが難しいのです。


 どうもこれは魔法のルールのようです。

 例外は多々ありますがね」


 そんなルールがあるのか。

 前世のゲームでは、僧侶や回復魔法といったものは必須であり、多かったけれど、この世界ではレア度が高いのか。


「れいがい…………、タチクけのそうさまほう?」


「その通りです。儂らの扱うこの魔法は、その1つと言えるでしょう。


 そして殿下にも備わっていると思います。


 オーレスト王国のアルザ王家にも、初代が持つ魔法が受け継がれているのです」


 なんと、そんなものがあったのか。

 しかし、それは王族全員が備わるものなのか?

 血で受け継ぐけど、全員じゃないオチとかも有るのだろうか。


「殿下、アルザ王家の力は大なり小なり、王族であれば使えたそうですよ。


 王族級の魔力が必要だとも聞いたことが有りますが」


「殿下の魔力は王族級は確実に有ります。さすれば使えるでしょう。


 王家の魔法と言われる、【王将】の魔法を」


 僕の考えを受信したメアが説明し、他者の魔力を操作する産物として魔力量を把握できるレイル先生が補足をする。


 王将? 餃子でも焼くのかな。


「王将の魔法は、それぞれ発現の仕方が異なるそうですが、全て他者へ魔法を使うそうです。


 初代の魔法は、王将の軍勢、というものであったそうです」


 配下の軍勢を魔法により強化し、またその数だけ自らをも強化する、正に王たる将の魔法。


 その軍勢はあらゆる外敵を蹴散らし、傘下に修めた者達を守ったという。


「すごいんだね」


 本来なら難しい他者への魔法を使えるかもしれない、王将の魔法。


 僕の使いたい魔法。

 それはより良い眠りを得る。その指針に沿った魔法になるだろう。


 となると、僕の得意とする魔法、か。


「確かめ方は、様々な魔法を試してみて、出来るか出来ないか、出来るようになるまでどれくらいの時間がかかるか。


 魔法を使ってみたとして、どれだけの力を発揮するか。


 分かるまで時間が掛かるものです」


 ぱっとわかる訳じゃないんだね。


「過去に召喚された勇者は、鑑定という他者の才能や能力を見る能力を持っていたようですが、現在同じような力を持った者や、アイテムの再現は成功してませんね」


 鑑定か、分かりやすいチート能力というやつかな。

 ステータスも出なかったしなぁ。


「おっと、日も暮れますな。


 今日はこれで終了といたします。

 しっかりとお休み下さい。


 また、殿下が使いたいと思う魔法、どんな魔法が得意であるかを少しで良いから考えておくのも良いですぞ。


 それは失礼いたします」




 こうして、長い修行1日目が終了した。

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