第7話

 だけど、そんなあいつの態度が、いつのころからか変化していったんだ。

 学が無い女なんてダメだな、価値がない、と、嘲るように言う。そのたびにキャンディは、ただ俯いた。


「なんでそんなこと言うんだ!? わかってるだろ? キャンディは、あんたが好きなんだ。もっと優しくしてやったらどうなんだ!?」

 少なくとも、以前くらいには。ある日俺は、ついにそう噛みついた。黙れガキ、と殴られるかと思ったけど、あいつはただ俺をちらりと見、それから遠くに視線を投げながら、呟くように言った。


「…あいつは、頭が弱い」

「え?」

 確かにそうだけど、なぜ、今さらそんなことを?

「だが、生まれつきじゃない。教育や愛情を、きちんと受けてこれなかったせいだ」

 そうかもしれない。俺は黙って耳を傾けた。

「きちんと教育を受ければ、ひとかどの暮らしができるようになるだろう。そういう更生制度がある。彼女は、制度の利用条件を満たしている。知っているな、あれは、いい子だ。足りなかったものを補えたなら、きっと普通の幸せを掴める。いつまでも、俺やこの街に関わっていたらだめなんだ」

 だから突き放すのか。言いたいことはわかるけど、でも、そのせいでキャンディがどんなに傷ついているか、お前、知らないのか!?


「あたしは、あの人に似合わないもん。ブスでバカだし、こんな仕事してるし。

 …ほんとはわかってるの、いいお嫁さんになるなんて到底ムリだってことくらい」


 何度も何度も、キャンディは言った。自分を納得させるように。そして、にっこり笑おうとしては失敗して、大きく目をみはったまま涙を零した。俺は、どうすることもできない。あいつは、本当はあんたのためを想って―言ってしまえば、あいつの計画が台無しになる。俺だって、キャンディに、普通に幸せになってほしい。

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