第6話

 キャンディには、好きな男がいた。理解しかねることに、そいつは、彼女に仕事を斡旋する「仲介業者」。彼女の稼ぎが、ほぼそいつの収入、つまり、ヒモという名のクズ。だけど彼女曰く、とってもいい人、だと。


「いつも助けてくれるの。おかげで、すごくひどい客にも当たらない。あたしって、運がいいわ、ね?」


 確かに、あいつはキャンディをごく普通に扱った。この街に蔓延はびこる暴力や罵倒も、外の世界のおきれいな連中が時おり気まぐれに寄越す憐れみも、蔑みもない。だからキャンディは、いつかお母さんになる、と語る間に間に、こんなことも言っていた。


「私たちって、小さな家族みたいよねぇ。あんたが息子で私がお母さん、でもって、あの人が、お父さん。だってほら、私たちを守ってくれるし」

 意識的か無意識か、ほんのり頬を染めながら。


 あのクズがいい人、守ってくれる人という言葉には、まあ、一理あるにはあった。レストランの余り物をくれたり(つまりは残飯だけど、高級店のそれだから俺たちにはご馳走だ)、ひどい風邪で熱が引かない俺に薬をくれたり。


「お前が寝込むと、こいつが稼ぎに行かない。迷惑だ、とっとと治せ!」

 という台詞と、思いっ切りの顰め面付きだったけど。いい人よねえ。親切よねえ、キャンディはいつもに増してそう繰り返していた。

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