第2話  面倒事の予感

帰りにエレベーターを待っていると不意に「あの」と声をかけられた。

振り返ると後輩の女の子、名前は、えっと、田口さんだったかな。

「お疲れ様。帰り?」

「あ、はい。あ、あの、今日この後、時間ありますか?相談したいことがあるというか、なので、ご飯、どうでしょうか?」

「あー、ごめんね。明日から帰省するんだ。だから準備しなきゃいけなくて。帰ってきてからでもいいかな?」

「あ、はい。大丈夫です。あの、待ってます。」


彼女がそう言い終わった頃、エレベーターが到着した。扉が開くと中には別フロアで働いている同期の新木さんが乗っていた。

俺はエレベーターに乗って新木さんに挨拶をする。振り返ると田口さんは一向に乗ってこない。

「お疲れ様です。」

そう言って田口さんは頭を下げた。もう帰りって言ってたけど、まだ帰らないのか。よくわからないが、

「うん、お先に。」

そう言って扉を閉める。

エレベーターが動き出して少ししたころ、新木さんが口を開いた。

「あの子、田口さんだっけ?どうかしたの?」

「ああ、何か相談したいことがあるんだって。でも俺は明日から帰省するから、また今度ねって。」

「ふーん。もう少し優しくしてあげればいいのに。あなた、あの子のことどう思ってるの?」

「どうって、別に。ちゃんと仕事してるし、いい子だよ。」

「そういうことじゃなくてさ。ほんとにわかんないの?」

「何が。」

「あなたのことどう思ってるのか。」

「・・・だとしたら余計に優しくなんてしたら駄目だろ。」

エレベーターが1階に着いた。新木さんは「ま、面倒ごとにはしないでよね。」と言って先に降りて行った。




エレベーターを見送った田口の元に何人かの女の子が寄ってくる。

「どうだった?」

「ダメだった。明日から実家に帰るんだって。」

「あー、そういえば井之口さん毎年そうだったかも。」

「結構長く休みとってるんだよね?」

「そうなの?もう家族はいないって言ってたような気がするけど。」

「地元が好きなんじゃない?」

「井之口さんの実家ってどこか知ってる?」

「どこだったかな、えーっと、確か・・・・・・。」

「え?そうなの?あたし親戚がそのあたりに住んでたって聞いたことある。小っちゃい頃お姉ちゃんと何回か遊びに行ってたらしいんだ。」

「そうなんだ、もしかしたら近いかもね。井之口さん地元好きだったらその話題で盛り上がれるんじゃない?」

「あたしあんまり覚えてないんだよね、小っちゃかったし。もしかしたら近いのかも。あたしは全然覚えてないけど、今度お姉ちゃんに聞いてみようかな。」





新木さんと別れて一人帰路に着く。

面倒ごとにはしないでよね、か。新木さんも手厳しいな。

とはいえ一先ず今は目の前の事、明日からの帰省は長期の滞在になるのだから準備も大変だ。服の準備と多少の生活必需品の用意。それと家の冷蔵庫の中身とゴミ出しなどを考えなければならない。そんな苦労をしてまでも俺はこの帰省を毎年楽しみにしている。

でもそろそろ。答えを出すべきなんだと、そう思っている。

もうずっと前から。

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