第2章 春季大会

第9話

早くも春の大会が始まり、球場入りするベンチ入りの選手たち。

そこにただ一人、一年生がいた。

背番号20を背に付けた男の名は、「姫矢 憐」。


田中がベンチ入りするかと直前まで囁かれていたが、やはり投手陣の負担を軽減するためと、姫矢がこのベンチ入りメンバーには選ばれた。


そして、一回戦――――――


先発は2年生の藤堂 将人。

相手が弱小校ということもあってか、3回まで走者を出さない完璧な投球。

打線も初回から繋がり、2回までに6得点を奪う。

4番で主将キャプテンの鈴木 涼真そうまを中心としたクリーンアップは今夏も非常に強力と、プロのスカウトの目を引いている。


終盤は控え選手を多く投入し、アピールチャンスもあった。

そして、5回の表。

背番号20を背負った男がマウンドにあがる。


それが1年生と分かった時、スタンドはざわめきの一色に包まれた。

強豪校のベンチ入りメンバーに、入りたての1年を入れるとは―――


そして、その投球に誰もが言葉を失った。


姫矢はゆらーりと構え、打者の打ち気を逸らす。

それから一変、鋭いフォームから繰り出された1球目。

直球が低めに外れるも空振りを誘い、1ストライク。

球場のスコアボードに記された球速は「136km/h」

更に2球目、フォークボールが鋭く曲がりまたも空振り。


そして3球目、舐めて掛かるかのようにど真ん中へ直球。

打者は思わぬ絶好球も、その球速に空振りの三振。

記された球速は、「139km/h」。


観客がざわめいた。

強豪校のエースが140km/h台を出すのはわかる。

しかし中学を出たばかりの1年生が140km/h近い球を連発するのだ。


続く打者に投じた球は全てストレート。

135km/h

133km/h

138km/h

136km/h


次々と計測されていく速球に、球場のざわめきは止まらない。


そして・・・


球場のざわめきはピークを迎えた。

最終打者の最後のボール。

己の力を見せつけるかのように投じた一球は、140km/hを記録した。


―――――――――――――――――――――――――――――――


「で、それを持ってしてフォークボールはあの落差だ。恐ろしい1年生だな...」

「ああ、どこまで化けるか分からんぞ」

帰る観客たちは口々にそう言っていた。

その会話は、風上高校の選手たちにも聞こえていた。


終わってみれば11-0の5回コールド。

相手高校の出塁はポテンヒットのみ。


草薙を温存しながらも快勝。

夏の甲子園へ向けて、まずは春の大会を落とすわけには行かない。


―――――――――――――――――――――――――――――――


フリーバッティングで快音を鳴らす3年生に混ざる田中。

他に負けない鋭いスイングで、フェンス直撃を連発。

風上高校の正捕手はまだ競争中ではあるが、この争いに1年生である田中が加わったことにより、より熱が増した。


風上高校の3番を務める、右翼手ライト上水流かみずる 勇斗ゆうと。(3年生)

2年夏からレギュラーに定着し、新チームになったときには6番から3番へ。

打率.362 本塁打5と、アベレージヒッターとして活躍している。


主将で4番、一塁手ファースト鈴木すずき 涼真りょうま。(3年生)

1年生から存在感を発揮し、内野全てを守れる守備力に、長打もある打撃が持ち味。

1年夏は7~9番の下位打線として度々出場、2年春からは5番として定着。

新チームとなり、主将で四番を任されるようになった。

打率.398 本塁打41、プロも一目置く存在である。


最後は5番打者、三塁手サード水谷みずたに ひかる。(3年生)

レギュラーとして定着したのは2年夏。長打は有るが打率が悪いのがアダだった。

しかし打率もここ最近では安定し始め、3割の大台に乗ってきている。

打率.303 本塁打26、鈴木の影に隠れた立役者でもある。



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