第7話

初球、田中が構えた真ん中には行かず、大きく外れボール。

下位打線といえど、初登板というプレッシャーもある。

そして、続く2球目。

2球目もまたど真ん中にどっしりと構えた田中。


少々不信感を抱きながらも、今度は真ん中へ140km/hの直球を投げ込む。

7番打者はそれをカットし、ファールに。


流し打ちされた打球は思いの外飛び、フェンスまで届いた。


(うぉお...すげえ...140km/hは出たぞ...それを流し打ちであそこまで運ぶか...やっぱ真ん中だめだろ...おい、田中)

そう思っていると、田中は外にスライダーを要求してきた。


この7番打者は左だ。スライダーの軌道は右打者から逃げるように曲がるため、左打者にとっては内角をえぐられるような形になる。


それを外に要求するとは―――。


しかしもうこれは田中を信じるしか無いと、神城はスライダーの握りでボールをリリースした。

しかし、その球は逆球となり、120km/h前後のストレートが真ん中に入ってしまう。


7番打者はその棒球をあっさりと打ち返し、ライト前に運んだ。


続く8番打者は、またしてもスライダーがすっぽぬけフォアボール。


これはたまらんと見たのか、田中がマウンドにやってきた。

「俺が要求してるのはスライダーだぞ。棒球は求めてない」

「スライダー...投げてるよ。」

「じゃあなんであんな球が行くんだ」


「...実は...」

「スライダー...中学時代、練習試合でも1~2回しか投げれたこと無い」

ここでまさかのカミングアウトに、田中は数秒硬直した。

多分、息もしてなかったと思う。


「...もう一回言ってみてくれ」

「中学時代、練習試合でも1~2回しか投げれたこと無い」

先ほどと一言一句間違いなく合っている言葉の返しに、田中は察した。


「おい、ストレートしか要求できないだろ」

「大丈夫だ」

「どこからその自信が出てくる...」

「...分からん!けど1年生に140km/h打てるかな?」

「いいや、強豪にスカウトされるレベルの奴らだ。全国でも4番を張ってきたような奴らだぜ」


「...怖い」

「まあ俺も出来る限りはリードする。」

そう言って田中は神城の背中を叩き、ホームまで帰っていった。


無死一二塁で9番打者。

田中は外に直球を要求してきた。

左対左の対決、一般的に言えば神城が有利だ。

1球目、神城のボールはベースを通り過ぎる形でストライク。


続く2球目、高めに外れボール。

そして3球目、真ん中低めのストレートで空振りを奪う。


そして、4球目はインハイに投げ込み、見逃し三振。

135km/hを越えた力強い速球に、9番打者は手が出なかった。

そして上位打線につながる。

1番打者 戸塚は1球で内野フライに打ち取り、二死一二塁。


2番打者、山田を迎え撃つ。

中学時代は3番打者で、堅実な打撃で中学通算打率4割を記録。

本塁打も10本を越えるなど、存在感を発揮していた。

そして、何よりスカウトの目を惹きつけたのは・・・


"直球ストレート打率 .751"


カキーンッ!

金属音がたかだかに響き渡った。

打球はライン際、ギリギリ切れる形となってファール。

しかし140km/h近い速球を、簡単に弾かれてしまったことに、神城はやや呆然としていた。

(なんだ...あの打球...)


ストレートに最も強い打者、山田 vs ストレートしか持ってない投手、神城


まさに矛と盾がぶつかり合う瞬間だった。



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