第5話
その日、神城はシャドーピッチングをするために外の練習場に訪れていた。
あたりは真っ暗闇に包まれ、夜らしい静けさに光も眠っていた。
そこに一人、素振りをしている1年生らしき者がいた。
各々が明日の紅白戦に向け体調を整える中、この夜中まで素振りをしているとは。
「よっ」
神城は軽く肩を叩いた。
「ん?」
その男は後ろを振り向いた。
「こんな夜中まで素振りなんて珍しいね。明日は試合だよ」
「試合と言っても紅白戦だろう?」
「まあそうだけど。」
「俺は1年の球ぐらいなら打てる自信はあるんだ...問題は1軍に上がってからなんだよ」
1軍に合流する前提で話すその男。
名は、
中学時代は捕手、現在も捕手希望で練習に励んでいるという。
元より捕手不足だった風上高校にとっては、この上ない1年生だった。
その上、フリーバッティングでは外野に飛ばすパワーを見せつけた。
紅白戦の4番候補とまで謳われる。
(言われみりゃあ...そんな奴居たっけな)
ブルペン以外ほぼ興味なしの神城にとってみれば、打撃練習やノックなどは眼中になかった。ただ投手としてエースになる。それだけが彼の闘志に火を付けていた。
「1軍に上がってからレギュラー取る練習してちゃ遅いからな。誰よりも多く練習いなきゃ意味ないだろ」
田中の振ったバットは空を切った。
――――――――――――――――――――――――――――――――
紅白戦
多くの観客がいる中、試合は始まった。
Aチーム、Bチームに別れた紅白戦。
奇遇にも田中と神城は同じBチームだ。
「いやあ、奇遇だな。頑張ろう」
「おう。春斗、頑張れよ」
そういって田中は神城の背中を叩き、グラウンドに駆けていった」
Aチームの先発は注目株の一年生 姫矢 憐。
対するBチームは、中学時代全国ベスト16
先攻A 後攻B
Bチームの先発、石川は初回から打たせて取るピッチング。
1番、2番、3番と連続で内野ゴロに打ち取り、三者凡退のスタート。
そしてより一層視線が集まるのは姫矢。
まずは1番打者。
ズバンッ!
鋭い音がミットから響いた。
観客からは「おぉ」という声が帰る。
更に130km/h後半の直球を唸らせるのはその的確な制球力。
低めに集めたピッチングで、初回から三振の山を築く。
聞けば、中学時代に敗退した準決勝でも、僅か自責点1の投球だったという。
恐ろしい男を敵に回したな、とBチームの1年生たちは思った。
しかし、Bチーム先発の石川。
126km/hの直球と、チェンジアップ スローカーブと緩急を生かしたピッチングで相手打者を寄せ付けず、投手戦にもつれ込んだ。
3回まで終わり、0-0。Aチームは安打0、対するBチームも出塁は4番田中の右前安打のみ。4回表。
2巡目に入ったAチームの打者達が奮闘。
2番から始まった好打順、2番の山田が四球を選ぶと、続く3番の西澤はセンター前へのヒット。
更に4番嶺井にも四球を与え、なんと無死満塁という大ピンチを迎える。
ここで内野陣がマウンドに集まった。
「大丈夫か」
まず最初に声を掛けたのは田中だった。
「ああ、絶対抑えるよ」
「1点ぐらいならなんとかなる。打たせていこうぜ」
仲間たちの叱咤激励もあってか、続く5番打者はキャッチャーフライ。
そして、6番に投手の姫矢。
第一打席は四球を選んでいる。
「姫矢って中学時代は打撃どうだったんだ?」
「まあ...当たれば飛ぶってやつだったかな?」
「当たれば...か。まあこういうときってその"当たれば"が一番怖いよな」
(こいつには...絶対打たれたくない)
石川は満塁ということもあってか、振りかぶってから投げた。
インハイに128km/hの直球が決まるがボール。
姫矢は、投球フォームと同じく、鋭い眼光を光らせながら立っていた。
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