代役 7

 翌日の放課後、臆人の部屋に集まったのは自由ヒーロー党の全メンバー(一人を除く)だった。


 狭い六畳に六人の人が集まるとむさ苦しいが、そこは置いておこう。


 五人がテーブルを囲んで座り、立ち上がっている臆人を見やる。彼の目がキラリと光った。


「皆に集まって貰ったのは他でもない。これから俺達のすべき事をここで発表するためだ」


「雰囲気作ってんじゃないわよ。早く話しなさいよ」


「……良いか。これは大切な話だ。皆、心して聞くように。特に明、これはお前にとって最大の難関となるかもしれない」


「……な、何よ?」


 臆人は少し間を開けて溜めた。


「先ず、この自由ヒーロー党のメンバーを公表する。そして、自分を自由ヒーロー党のメンバーと名乗った上で、それぞれの学科で有志者を募って貰いたい」


「有志者?」


「そう。有志者。簡単に言えば、この自由ヒーロー党に入りたい生徒を探して貰う。これが、今から俺達がやるべき事だ。とにかく時間が無いからな。明日から直ぐにでも始めて貰う」


 これには、各々違う反応が伺えた。まぁ、これは予想通りだ。


「先ずは龍王。お前はまずチームのメンバーから当たってくれ。それが一番仲間にし易い。信頼があるからな」


「分かった」


 臆人の視線は右凶と知由乃に移った。


「二人はモブ科の生徒で有志者を募ってくれ。男子を右凶、女子を知由乃が相手にしたり上手くやり繰りしてくれ」


「そう言うと思って反応が良かった男子生徒には予めマーキングしてある。ちょちょいのちょいだ」


「助かる」


「私は仲の良い友達を当たってみます。ヒーラーは数少ないので逆に結束力が固いので」


「分かった」


 そして最後に臆人の視線は明に向いた。その時、明が一瞬ビクッと体を震わせたのが見えたが、何も言うことはない。


「おい明」


「何よ」


「お前は芹香と一緒に虐めてる奴を当たれ。分かったか?」


「な……!? 知由乃ちゃん!!!」


 明の顔が驚きと怒りに塗れた。


「知由乃の事はどうでもいいだろ。もう俺はお前の事実を知ってる。だからこそお前にはそれをやって貰う」


 その瞬間、明は勢いよく立ち上がった。そして、ギラリと臆人に視線を向けた。


 初めてみる明の本気の怒りの目だ。


「ふざけたこと言わないで! そんな事出来る訳無いでしょ! あんた、そんな上から言えばやってくれると思ったんだろうけど大間違いよ! 私はやらない!」


「やりたくないの間違いだろ?」


「くっ……! あんたに何が分かんのよ! 分かった様な口聞かないで!」


「分かってないのはお前の方だ。いじめなんてな、隠してたっていずれバレるもんなんだ」


「は、はぁ!? 嘘つかないでよ! あんたは私の事なんかちゃんと見た事無いくせに! ふざけないで!」


「ふざけてんのはお前だ。俺にはこんなに気持ちをぶつけられるのに、なんでヒロイン科の奴にはしないんだ?」


「苦手なのよ。嫌いなのよ。あんな自分しか見てない奴等なんか」


「なら、お前が見せつけてやればいい」


「……何を?」


「そんな小さな世界で、ちっぽけで小さな一人の人間を虐めて何になると、分からせてやれ」


 臆人は続けた。


「もっと広い世界を見ろ。私を見ろ。私はこんなにも自由に生きてる。それを堂々と主張してやればいい。それを気づかせるのがお前の仕事だ。そんで芹香はそれの手伝いだ」


 臆人は芹香を見た。芹香はニコリと笑った。


「私の事は良いのかな? 私も、明ちゃんをいじめたグループの一人ですよ?」


「だから何だ。そんなの明の問題だ。お前が幾ら明を虐めようとも、俺はお前を受け入れるし、明も受け入れる。それが俺の仕事だ」


「なるほど。でも、言葉と表情が一致してませんね」


 臆人は芹香に腹を立てるつもりは毛頭なかった。だが、気付けば表情にまで出てしまっていたようだ。


「別に。俺はお前を受け入れるが許す訳じゃない。つまりはそういうことだ」


「あらら。リーダーって本当に優しい」


 芹香は口元を覆い隠すように笑っていた。彼女の本当の意図が読めない。


「お前ら親子は似てるな。そういう所。だから俺は苦手なんだよ」


 何を考えているのか分からない。得体が知れない。だからこそ踏み込めない。


「嫌われましたね私。でもそれもまた一興。嫌われ者の自由ヒーロー党のメンバーとして、微力ながら手を貸しますよリーダー」


「それはありがたいね。明もそれで良いな?」


 先程から何も喋らないので、芹香から明に視線を移すと、明は顔を伏せたまま固まっていた。


「何だよどうした? 怖気付いたか?」


「あんたの事なんか……あんたの事なんかぁ……!!」


 何かがゴゴゴゴッと音を立てている。心なしか、部屋も揺れている気がする。


「何だ地震かぁ!? 皆伏せろおぉ!!」


「大っ嫌ぁぁぁい!!!!!」


「うぐほあぁぁぁぁ!!!」


 臆人は明の渾身のアッパーを食らって宙に浮かび、そしてそのまま床に倒れた。


「おいチキィィィン!! 最後に聞かせてくれ。死んだらフライかボイルかポークどれにする?」


「う……フライ……」


「鉄板だぁぁぁぁ!! フライなのに鉄板だったぁ!!」


「「「「…………」」」」


 閑話休題。


「ま、任せなさい臆人」


 明は二人の顔を滅多打ちにした後、手をぱんぱんと軽く叩きながらそう言った。


「あんたの思い通りに動いてやるわよ。だから、もしヘマでも犯してあんただけ退学なんて事になったら許さないわよ!」


 それは不意をついた言葉だった。臆人はほんの一瞬震えた。


「馬鹿にすんな。そんなヘマなんかしねぇよ」


「そ。なら良いけど」


 明は臆人の様子を気にしてないようだった。臆人は心の中でホッと一息ついた。


「で、肝心のあんたはどうするの? ヒーローの生徒に片っ端から声でも掛けてみるつもり?」


「いや。俺は俺なりに当てがある。任せとけ」


「何? あんたまた何か企んでる訳?」


「企んでるって程でもねーよ。とにかく方針は決まった事だし、明日から宜しく。てなわけで解散!」


 こうしてぞろぞろと皆が帰ってる中、龍王だけが動じずに固まっていた。


「どうしたんだよ龍王? 寝てんのか?」


「……お前、もしかしてその当てって」


「心配すんな。上手くやるさ」


「……そうか」


 そう言って龍王は帰って行った。


 もぬけの殻となった部屋を見渡して、臆人は眠りについた。




 ***




 翌日の朝、臆人は職員室にいた。ふぅと溜め息を吐いて、職員室の扉をゆっくりと開ける。


 中には数人の教師が居た。そして数人の教師は不思議そうに臆人を見つめた。


「どうしたんだいこんな朝早くに?」


 一人の教師がそう聞いた。


「少し、教師の方々とお話ししたくてやって来ました。自由ヒーロー党のリーダーとして」


「な、なにぃ!? 君があの!?」


「まぁ、そうですね。入っても宜しいですか?」


「あ、あぁ……おい皆__!」


 教師が慌てた様子で職員室に居た教師達に説明する。すると教師全員驚いた表情で臆人を見つめていた。


 そしてその中の一人、比較的若い教師が此方に近づいて来た。


「君、名前は?」


「金条 臆人です」


「え!? 金条だって!?」


 その若い教師はまたもや驚いた。そして訝しげに臆人の顔を見た。


「まさかあの金条の息子がこんな騒ぎを……というか、何で職員室に?」


「この自由ヒーロー党の有志者を募る為に、俺はここにやって来ました」


 するとその若い教師は驚きを通り越して唖然とした。そして我に返った。


「ば、馬鹿な事を言うな! 一人病人を出してるんだ! 誰がそんな所に!」


 そう来ると、臆人は思っていた。だからこそ、臆人はここに来たのだ。


 ここで兵垂先生が自由ヒーロー党のメンバーになったのだと公表すれば、教師陣を引き込める。


 そうなれば生徒と教師の両方から支持を受け、理事長を退学を取り消す筈だ。


「それは誤解で__」


「おや、金条君。何してるんだいこんな所で? けど、丁度良かった」


 その時、職員室の扉から理事長が顔を出した。スーツを着こなし、どうやら何か会議でも行っていたのだろうか。


 それが何の会議だったのか、それを素早く考えれば臆人に勝機はあったのかもしれない。


 だが、臆人は焦った。どうしてこんなに早く理事長が学校に顔を出すのかと考えてしまった。


 理事長が居ると分が悪い。ここは出直すしかない。臆人の頭の中はどう逃げるかで一杯になった。


 その瞬間だった。


「君と銀願君の処分の日時が決まったよ」


 臆人は固まった。まさか、こんなに早く日時が決定するなんて。


 いや、決定日時は早くても関係ない。問題は退学処分になるのがいつなのかだ。


「いつですか?」


 臆人は恐る恐る聞いた。三日くらいあればチャンスはある。二日ならばギリギリ。一日だと結構厳しい。


 臆人のそんな考えは粉々に打ち砕かれた。


「今日だ」


「……え?」


 それは天をも穿つような無慈悲な言葉だった。臆人の頭が真っ白になった。


「今日__いや、今を持って君達は退学だ。もう授業も受けなくていいし、学校にも居なくていい。まあ、荷物を纏めるくらいの時間ならあげよう」


「な__ちょっと待って下さい! 急過ぎます!」


「先程行われた役員会議で、君達は危険すぎると判断された。一刻も早く学校から追い出せと言われてね。追い出すなら早い方がいい」


「……冬香理事長はあの時即退学を命じませんでした。それは、俺達に情けをくれたからじゃないんですか?」


「誰がそんな事を言ったんだい? 私は会議を通して正式にする為に処分の日時を引き伸ばしただけだ。そこに、そんな情けなどという感情は一切ない」


「そんな……」


 臆人は絶望に打ちひしがれた。こんな事になるなんて思っていなかった。


 まさか、今日で退学なんて。


「金条君。君は甘過ぎる。そして、世の中を舐めているね。そんなんじゃ、上へは辿り着けないよ」


「そ、それは……」


 臆人は声が出なかった。もっと早く来るべきだった。


 そうすれば、教師を味方に付けられたかもしれないのに。


 臆人は唇を噛み締めた。


「君達の負けだ。さぁ早くここから__」


「ま、待って下さい!」


 ガラガラガラと音を立てて職員室の扉が勢いよく開かれた。


 臆人が何事かと後ろを振り向くと、そこには息を切らした兵垂先生の姿がそこにあった。


「兵垂先生……」


「おやおや何しに来たんだい兵垂先生? 病人は大人しく病室で寝てなきゃダメじゃないか」


「病人といっても精神疾患ですからね。日常に異常はありません。それよりも__」


 兵垂先生は冬香理事長に向き直った。走って来たからなのか、額には汗が滲み出ている。


「彼等を退学にさせるのは私は反対です」


 その言葉には、周りにいた教師が目を丸くした。てっきり兵垂先生は彼等を憎んでるかと思ったからだ。


「理由をお聞かせ願おうか?」と、冬香理事長は静かに言った。


 兵垂先生は一瞬怯んだが、拳を握り締めて冬香理事長に向き直った。


「私はあの時、大変なパニックに陥りました。気が動転し、訳が分からなくなりました。自分の許容出来る範囲を上回っていました。それ位、あの時の出来事は大変大きなものでした」


 一区切り置いて、続けた。


「ですが、私は同時に生きる事を彼等から学びました。気付かされたと言って良いかもしれません。私は、同じ時をぐるぐると、まるで輪廻のように廻り続けてました。恐らく、死ぬまでこれは続いた事だと思います」


 兵垂先生は言葉を紡いでいく。


「ですが彼等はそれに歯止めを掛けてくれた。噛み合っていないまま回っていた歯車を止めてくれたのです。私は感謝しているのです。それか今の私の正直な気持ちです」


 この言葉には、冬香理事長も驚いたようで呆然としていた。勿論のこと、教師は蝋のように固まっていた。


 だか、その固まった空気をぶち壊すようにして、兵垂先生は言った。


「それに折角自由ヒーロー党に入ったんですから、私も何か活躍しなくちゃいけません。最年長ですからね私は。この自由ヒーロー党の。はは」


 兵垂先生は空気も読まず笑っていた。少し照れも入ってるのだろう。


「へ、兵垂先生……自由ヒーロー党に本当に入ってるんですか!?」


「えぇ。そうですよね?」


 兵垂先生の視線は臆人に向いた。臆人は自信満々に答えた。


「勿論です」


「そっか。なら僕も入ろうかなぁ」


 この瞬間、場の空気が一変した。否定的ではなく肯定的に。教師は心は流されていった。


「なら皆さんこの紙に署名を__」


「ふ、ふざけた事を抜かすな! お前は今退学になったんだぞ! そんな事をしてももう無駄だ!」


 そう怒鳴りつけて来たのは、年配の教師だった。体をわなわなと震わせて、今にも拳を振り上げそうな勢いだ。


「大体自由ヒーロー党などと宣(のたま)って、やる事はガキのする事だ! そんな物私は反対だ!」


「良いじゃないですか若造先生。兵垂先生も仰られてましたが、本当にここは正しく回り過ぎてますよ。味気ないくらいです」


「そんなものは言い掛かりだ! 問題が何もない。大いに結構な事じゃないか!」


「問題が何もない。この事こそが一番の問題ですよ。ヒーローとしての自覚があり過ぎて、反骨精神が足らなすぎる。僕はそう思います」


「馬鹿か! ヒーローは自覚があってこそ成り立つ職業だ! この世界の象徴だぞ! 反骨精神なんかいるはずがない!」


 この論争には終わりが見えない。臆人はそう思った。


 ヒーローとしての価値観が人それぞれに違うのだ。


「おい金条だったよな? 早くここから去れ! お前はもう部外者だ!」


「そうは行きません」


 臆人は言った。


「俺を引き止めてくれる人がいる限り、俺はここに残ります」


「何を馬鹿な事を__」


「理事長。貴女は先程、役員会議で一刻も早く学校から追い出せと言いましたね」


 臆人はこの年配の教師である若造先生に構う事はやめた。きっと話しても分かって貰えない筈だ。


「あぁ。言ったよ」


「なら、今日じゃなくても良い筈だ」


「けれど、今日じゃなくても良い理由にはならないね。それとも何かい? 今日はダメだという理由でもあるのかい?」


 この問いに対して、臆人は一度深呼吸した。


「俺の血筋でどうにかなりませんか?」


 言いたくない一言を臆人は言った。


 この問い掛けに対して激昂したのは、他でもなく若造先生だった。


「確か君は血筋で処分がおかしいとの理由でこの運動を始めたんじゃないのか!! それを今度は血筋で物を言わせるとは何たる非人道的な__」


「確か八月に昇格試験がありましたよね?」


 臆人は若造先生の言葉を無視して話を続けた。


「その昇格試験で俺は緑のバッジに昇格し、ここを卒業します。もしダメなら退学で構いません」


「なるほど。そういうことか」


 冬香理事長はふむと頷いた。


「要は出来損ないの血筋ならば退学、優秀な血筋ならば輝かしい成績を残して卒業し、ここから居なくなる。どちらにしろ、昇格試験で君はここを去る訳か」


「その通りです。どうですか?」


 これには周りの教師も唖然とした。確かにそれは双方にとってメリットがある。


 血筋をここであっけなく退学にさせては、学校側として痛手だが、卒業すれば問題無い。


 逆にここで卒業出来なければ血筋が良いにも関わらず、手放すには惜しいという程の人間では無かったと断定でき、退学もやぶさかではない。


 臆人としても、ここで簡単に退学になるのなら、足掻いて退学か、あるいは晴れて卒業か。どちらにしろ、臆人にも希望は見えてくる。


 冬香理事長の顔つきが変わった。


「良いだろう。白から緑への昇格は生半可なものじゃないが、やってみると良い。ダメなら即退学だ」


「ありがとうございます」


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


 そこにまた、若造先生が割り込んできた。


「冬香理事長良いんですか!? このまま彼等を野放しにして!! また何をするか分かりませんよ!?」


 威嚇するかのように言葉を荒げる若造先生を冬香理事長は一瞥した後、彼女は言った。


「なら、監視役を付けようじゃないか。そうすれば動きが分かる」


「だ、誰がそれをやるんですか理事長!!」


「最適な教師が一人居るじゃないか。ねぇ、兵垂先生?」


 いきなり職員室中の視線が一度に兵垂先生にも向けられ、彼はたじろいだ。


「わ、私ですか?」


「あぁそうだ。君以上に適任者はいない。兵垂先生は、可能な限り自由ヒーロー党の中に加わり、逐一私に報告するように。それで良いかな若造先生?」


「そ、それは……し、信用出来るんですかねあんな裏切り者の言うことなんか!」


「貴女は一教師として、兵垂先生を信用してないんですか?」


「いえ、そういう訳では……」


「何もかも否定してても何も始まらない。そうは思いませんか?」


「そ、それはそうですが……」


 若造先生は萎むように言葉が小さくなっていった。


 冬香理事長は改めて臆人を見た。


「君も、仮にも兵垂先生は自由ヒーロー党のメンバーなんだ。教師だから、監視役だからと言って情報を隠すようであれば信用を得ないとして退学とする。良いね?」


「分かりました」


 臆人は短く答えた。


「ではもう行きなさい。授業がもうじき始まるからね」


「分かりました。失礼します」


 臆人は特に何かを言うまでもなく、職員室を後にした。


 すると、兵垂先生は恐る恐る此方へやって来た。


「どうしました?」


「理事長。ありがとうございます」


 礼を言われるような事は何もしていない。冬香理事長はそう言いたかった。


 だが、その言葉は出て来なかった。


「本当に良かった。彼等が辞めずに済んで。本当に」


 この時冬香理事長は思った。


 彼は不思議な少年だと。どうしてこうも人を操るのが上手いのか。


 いや、操るとかそういう言葉は考えていないのだ。だからこそ、人の心を揺さぶる力があるのかもしれない。


「私ももう少し若ければ__」


 向こうにいたかもしれない。


 そんな言葉は彼女の心に浮かび、直ぐに消えた。




 ***




 彼は自室の部屋がもう暗くなり始めている事にすら気づいていなかった。


 いや、今でも気付いていないのかもしれない。


 それ位彼は没頭していた。


 どんどんと暗くなっていく部屋で、彼は呟いた。


「もう少し。もう少しで完成だ」


 その顔は狂気に満ちていて__歪曲していた。


 そんな光景を、一人娘は悲しそうに見つめていた。


 どうか。不幸な事が起こりませんように。


 彼女は一人そう願った。

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