代役 6

 その日、臆人は猛烈に疲れていた。疲労困憊も良いところだ。


 病院から帰った後、取り敢えず早く部屋に戻ってだらりとしたかった。


 何も考えずただぼーっとしたかった。


 だが、神はそれを許してはくれなかった。


 部屋に戻ると、何故か扉が開いていた。鍵は閉めたような閉めてないような、覚えていない。


 そして扉を開けた時、玄関に靴が幾つも散乱しているのを見て、誰かがいる事を悟った。


「あ、お帰りなさい臆人さん」


 すると、目の前に知由乃が当然のように立っていた。


「ご飯にします?お風呂にします? それとも__」


「いや、先ずはここにいる意味を教えてくれ」


「まあ、そうなりますよね」


「…………」


 何だか釈然としなかった。


「あ、臆人! あんた放課後何してたのよ!」


 そして部屋の奥から出て来たのは明だった。


 彼女もまた、当然のようにそこにいた。


「ていうかあんた、何か顔がげっそりしてるわね? どうしたの?」


「取り敢えず二人はそこに直れ! 何で勝手に俺の部屋に入ってんだ!」


「それより、あんたにお客さんよ?」


「それよりってお前……うん? お客さん?」


「そ。お客さん。あのビラを見た人よ。ま、煮るなり焼くなり好きにしなさい」


「いや言い方な!」


 そうツッコミを入れた後、臆人は今一度気合を入れた。


 ここに来たということは、新たなるメンバーの誕生だ。


「俺に休息は無いってか」


 臆人は一人そう呟いて、部屋の中へと入っていった。


 リビングに着くと、出迎えたのはピンク色の髪の女性だった。


 ふんわりと肩に掛かった髪は、そのまま胸の方に伸びている。少しカールが掛かったその髪は、少し大人っぽさを漂わせている。


 けれど彼女の顔は幼げだが綺麗だった。形が整っている。整い過ぎて少し中性的に見えるくらいだ。


 彼女は机の奥に正座で佇んでいた。少し緊張しているようだった。


 彼女は臆人を見ると即座に立ち上がった__と思ったら机の角に膝をぶつけた。


「いったぁぁ! しかも足痺れてるぅ!」


 彼女は二つの痛みを同時に抱えて悶えていた。


「あ、あの……」


「すいません……座って良いですか?」


「どうぞ」


 彼女は膝を曲げて座ろうとして、また机に膝をぶつけた。


「え〜おほん! 私、小林 芹香(こばやし せりか)と申します!」


「はぁ……俺の名前は__」


「金条 臆人さんですよね。知ってます。父から話は伺っていますので」


「そうですか……うん? 父?」


 その瞬間、何だか臆人の脳内に嫌な信号が発せられた。第六感というやつだ。


「私の父はここで教師をやっています。確か、ヒーロー科のヒーロー学を教えている筈です」


「ヒーロー学……小林……」


 そこに繋がる人物を臆人は一人しか知らない。


 恐る恐る臆人は聞いた。


「もしかして……その父親の名前って小林 昭人だったりする?」


「はい。ご名答です」


 その瞬間、臆人の脳内に稲妻が迸った。そして、数々のあの記憶が思い起こされる。


「な、なるほど……うん、そっか……あの先生の……なるほどね……うん、そっか、うん……」


「だ、大丈夫ですか!?」


「いや、まあ君には関係ない……のか分からないけど、君に罪は無いよ」


「君じゃなくて芹香です。さんもいりませんよ。もしかして、金条さんは父の事が苦手ですか?」


「あぁごめん。じゃあ芹香。君の父親の事は……正直言うと苦手だ。因みに……その小林先生は何て?」


「ふざけた野郎だと言ってました!」


「臆面もないな!? というかよくそう言われてここに来たな!?」


 まあ、あの先生が臆人の事を嫌ってるのは明白だったので、驚きはしない。寧ろ納得だ。


「まぁあの人は仕方ないです。見てる世界が違いますから」


「そ、そっか。もしかして芹香って父親の事……」


「大嫌いです! 死んで欲しいですね!」


「またも臆面もない! だけどここまで来るといっそ清々しいね!」


「お褒めに預かり光栄ですリーダー!」


「いや、リーダーじゃねぇよ! いや、リーダーか俺は! でもその呼び方恥ずかしいからやめて!」


「でも、金条さんよりも呼びやすいのでリーダーが良いです。ダメですか……?」


 すると芹香はいきなりシュンとした顔で俯き、チラリと上を向いた。上目遣いである。


「いや、ダメとは言わないけど……」


「ではリーダー早速本題に入りましょう!」


「そ、そうだな」


 臆人は芹香をどう扱って良いか分からずしどろもどろする。


「完全に弄んでるわね」


「臆人さんに色気使ってますね。許せません。でも弄ばれてる臆人さん見るのは面白いのでやっぱり許します」


「ちょっと!? そこフォローがおかしいよ!?」


 臆人はしてやられた感満載のまま、話を聞くことにした。まあ、話の内容は分かってはいるが。


「入りたいのか? 自由ヒーロー党に?」


「是非とも入れて下さい!」


 快活にそう応じるセリカだが、臆人の不安は拭いきれない。


「出来れば理由を聞いても良いかな?」


「もちろんです!」


 本来なら諸手を挙げてメンバーへと迎え入れる所だが、教師の娘となっては何を企んでるのか分からない。


 それに、臆人としても何でこの自由ヒーロー党に入りたいのか聞かないまま、直ぐにメンバー入りさせるというのも気が引ける。


 一体どんな理由が飛び出て来るのか、臆人は緊張しながら彼女の言葉を待った。


「私はもっと自由に生きたいんです」


 芹香が言い放った声のトーンは二段階くらい落ちていた。まあ、それで普通になったくらいだが。


 けれど、そこはもうどうでも良かった。臆人はその一言で芹香に興味を持ったのだから。


「私は小さい頃からヒロインになる為だけに育てられました。そのために勉強し、そのために小さい頃から武術をやらされました。正に英才教育と言っていいかもしれません。私の生きる意味は、ヒロインとなり、ヒーローと共に生きること。そのために、少しですが顔も弄りました」


「……え?」


 臆人は最後の言葉の意味を一瞬理解する事が出来なかった。


 顔を弄った。その意味くらい臆人にも分かってる。


 でも、この言葉はとても重いものだ。この世界でそれは口にしてはいけない言葉だ。


 そんな事を簡単に芹香が告白した事に、臆人は酷く動揺した。


「逆に少しで良かったです。言い方が悪いかもしれませんが、もしブスだったらもっと大掛かりな手術になってたと思います。これは素直に神に感謝ですね」


「ちょ! ちょっと待て! 一旦落ち着こう!」


 臆人は部屋を隅から隅まで見渡した。特に異常はない。その後全ての扉を閉めた。


 そして臆人は顔を顰めて言った。


「おい芹香! もう少し小さな声で話せ! もし隣の部屋の生徒に偶然にでも聞かれたらアウトだ! 分かったか!」


「は、はい……でも、さっきの嘘ですし?」


 その瞬間、臆人はズッコケそうになった。


「嘘かよ! ま、まぁそれならそれで安心だが……というか嘘でもそういう事言って広まったらどうすんだ! お前ヒロインとしての地位を失うかもしれないんだぞ!」


 芹香はそんな取り乱した臆人を呆然と眺めて、やがて破顔した。


「何がおかしいんだよ!?」


「いや、リーダーにそんな事言う資格無いですよ! リーダー面白い! 流石!」


「いや、それほどでも……って褒めてないか」


「あははははは!」


 何だか芹香はツボに入ってしまったのか、体を倒して腹を抱えて笑っていた。


 それを臆人は釈然としない様子で見つめている。


「いやぁ楽しいですねリーダー!」


 目尻に溜まった涙を拭いながら、芹香は体を起こした。


「いや、こっちはただ心配しただけなんだが。本当に、その……弄ったりしてないんだな?」


 恐る恐る聞くと、芹香は目線を逸らした。


「秘密。女の子は秘密を持っていた方が可愛く見えるんだよリーダー」


「さ、さいですか……」


 いつの間にか芹香は敬語では無くなっていた。


 臆人は芹香の緊張がほぐれた事を喜びつつも、喜び切れない自分に溜め息を吐く。


「ま、そうだな。こんな事深く聞いても仕方ない。それで、話の続きは?」


「続きと言える続きは無いけど、私は嫌になったの。あんな親の元、これからずっとヒロインとしての道しか進めずに死んでいくのが堪らなく嫌になって__でもその時、私にとって奇跡が起きた」


 今度は小さく、まるで幸せな時を思い出すかのように芹香は笑った。


「サイレンがなって、教室に爆弾が降ってきて、噴水が赤くなって花火が上がって、そして最後にビラの雨。もう、私は居ても立っても居られなかった。ビラを探し回って、他のヒロインに情報を聞いたりして、やっと見つけたの。当たりのビラ。そして私は明ちゃんに連絡を取った」


 ここで、どうして明と知由乃がここに居たのかやっと理解が出来た。確かに、ここで一人で待たせるのも悪い気がする。


 臆人は明と知由乃がいる方を向いた。


「……何よ?」


「いや、悪かったな。何も聞かずに怒鳴ったりして……」


「……別に」


 明は拗ねたようにそっぽを向いた。


「私も全然気にしてませんよ!」


「いや、知由乃は別に関係ないだろ」


「ずがぴしゃん!」


「こらこら自分で効果音を出すんじゃないよ。まぁでも二人じゃ気まずかっただろうし、知由乃も居てくれて良かったのかな。ありがとな」


「キュン!」


「だから自分で効果音を出すんじゃない!」


 ここで臆人は気づく。少し明の態度が大人しい事に。けれど人間そんな時もあると臆人は軽く考えた。


 臆人は改めて芹香に向き直った。


「芹香。君の意欲は充分に伝わったよ。今日から君も自由ヒーロー党の一員だ」


「やったぁぁ! 嬉しいよリーダー!」


 こうして芹香が自由ヒーロー党のメンバー入りを果たした。


 この判断が吉と出るか凶と出るかは分からないが、もう教師すらメンバーに引き入れてしまっているので、何の問題も無い。


 それに、芹香の言葉に嘘偽りは無いように見えたのも、承諾した事の一つの要因でもある。


「それにしても……意外ね」


「うん?」


 急に芹香の目が据わった。そして、一瞬にして空気が変わった。


 その目は臆人には向けられていなかった。


 臆人はその視線の先を辿った。


「ねぇ? 明ちゃん?」


「…………」


 そこには明がいた。明は神妙な面持ちをしていた。


「明ちゃん教室ではいつも仏頂面の癖に、ここでは喜怒哀楽が激しいのね」


「余計なお世話よ」


 ふわりと軽やかに芹香は立ち上がると、俊敏に明に近づいて、顎の辺りを指でそっと撫でた。


「そんな事言わないでよ明ちゃん。それとも何? またいじ__」


「それ以上言ったら__殺すわよ?」


 その目は、獲物を捕らえた獣のようだった。一瞬、芹香はその殺気に気圧された。


「あら怖い怖い。本当に殺されそう」


「本当に殺す気よ」


 明の殺気はまるで炎のように燃えており、これ以上迂闊に近付くと本当に殺されると芹香は思った。


「まぁ、でも同じ仲間なんだし仲良くしましょ?」


「えぇ。そうね」


「お、おいおい二人共。何でそんないきなり険悪なムードなんだよ?」


 明と芹香を交互に見ながら、一触即発の空気に臆人は狼狽する。


 すると、芹香はすっと明から離れた。


「じゃあリーダー私は帰るね。もう夜遅いし。送って貰えたら嬉しいんだけど、明ちゃんに違う意味で殺されそうだからやめとくね。じゃあね」


「あ……あぁ分かった。気を付けてな」


「うん」


 こうして芹香は臆人の部屋から出て行った。


 暫しの沈黙の後、臆人はまだ残っている二人を見やった。


「んで、お前等はどうすんだ? まだ居るのか?」


「後少ししたら帰るわよ」


 明は仏頂面でそう言った。


「そうかよ。知由乃は?」


「私もそうします。明ちゃんと帰りたいので」


「分かった」


 それから、明は一言も喋らず、十分程してから知由乃を連れて帰って行った。


「一体どうしたんだ明の奴?」


 臆人は不思議そうに首を傾げた。


「もしかするとあれなのか……修羅場的な感じだったのかな? 女って色々ありそうだもんな」


 鈍感さここに極まれり。そんな事しか考えられない臆人だった。




 ***




「ま、待って下さい明ちゃん!」


 臆人の部屋から出て行った後、明は顔を曇らせながらすたすたと歩いて行った。


 呼び止めても反応がないので、知由乃は走って明の前に出た。


「明ちゃん、大丈夫ですか?」


「……大丈夫に見える?」


 明は吐き捨てるように言った。知由乃は言葉に詰まってしまった。


「何であの女、ここに来たのよ。ふざけんじゃないわよ。いい加減にしてって感じ」


「明ちゃん……」


「ヒロインの教室だけならまだ我慢出来たんだけどね。うざいけど、どうでも良かった。でも、あそこは違う」


 明にとって、臆人や知由乃、そして一応龍王や右凶と過ごす日々は大切な物だった。


 幾らヒロイン科で貶されようが、皆がいたからこそ我慢出来たこともある。


 でも、今回は違う。あの芹香という奴は、ずしずしと自分の牙城に土足で踏み込んで来たのだ。


 挙げ句の果てに、その城を壊そうとしているのだ。


 明は奥歯を噛み締めた。


「で、でも……臆人さんは気にしないと思いますよ? その……嫌がらせとかそういう……」


「別にそういう事じゃないのよ知由乃ちゃん。私はね、ただ気を遣われたくないだけなの。気を遣われるのだけは絶対に嫌なのよ」


「明ちゃん……」


 知由乃は臆人がこの事を知ったらどんな顔をするのか思い浮かべた。確かに、心配そうな顔をするのは確実だ。


 でも、だからといって懸命に気を遣うだろうかとも思う。その様子は想像は出来るが、現実味を帯びているかと言われると頷く事出来ない気がした。


 もしかすると明もそれに気付いてるのかもしれないし、気付いてないのかもしれない。


 けど、そんなのはどっちでも良かった。


 明の本心が不意に理解出来たからだ。


「嫌われたくないんですね、臆人さんに」


「__! 違うわよ! 別にそういう訳じゃない!」


 こんな事を話してる内に、女子寮には直ぐに到着した。


 知由乃と明は階が違う。知由乃の方が階は下だ。


 知由乃は自分の階で降りた。


「では明ちゃん。お休みなさい」


「えぇ。お休み」


 明はそう言って上へと上がって行った。


「ふぅ……」


 知由乃は一つ深呼吸をした。そして、そのままエレベーターで下のボタンを押した。


 そして下に降りると、男子寮へと向かった。もうかなり夜も更けている。


 知由乃は少し早足で男子寮へと入って行った。


 行き先は決まっている。臆人の部屋だ。


 何だか来た道を直ぐに逆戻りというのも変な気分だが、こればかりは仕方ない。


「臆人さん……寝ちゃったりしてないかな?」


 そんな不安を押し込めて、インターホンを鳴らした。


 すると、臆人は案外早く出て来た。


「あれ知由乃? 何だよ? 忘れ物か?」


「夜這いです」


「そんな堂々とした夜這いがあるか。まあ、取り敢えず入れよ。見られたら変な噂立つぞ」


「まぁ、構いませんけどね」


「俺が構うよ」


 そう言って臆人は知由乃を中に入れてくれた。


 リビングに案内され、依然同様お茶を出された。そのコップは初めて来た時と同じもので少し嬉しくなった。


「んで、出戻りみたいに戻ってきてどうしたんだ?」


「えっとですね、臆人さんに大切な話があって、またやって来ました」


「聞こうか」


「結婚して下さい」


「……聞こうか」


「駆け落ちしましょう」


「聞こうかぁ!?」


「それはですね__」


 最初に小ネタを挟むのを忘れない知由乃は、もうかなりのベテランである。


 それを今だに受け流し切れない臆人は、やはりツッコミの性なのか。


 知由乃は一通り自分が知ってる事を話した。


 臆人は話を聞いていく内にどんどん訝しげな表情になっていく。


「まぁ、私が知ってるのはこんな所ですね」


「そっか。明がそんな事に……」


 臆人は眉を潜めてこくこくと頷いていた。何か考え事をしているようだった。


「はい。詳しい事情は私も分からないのですが、明ちゃん苦しんでました」


 初めて打ち明けてくれた時の表情を思い浮かべて、知由乃の心はチクリと痛んだ。


 そんな知由乃の頭を、臆人はそっと撫でた。


「知由乃の言いたい事は分かった。ありがとな教えてくれて」


「……臆人さんってあれですか。皆にこんな事してるんですか?」


「いや、悪い。これが初めてだ」


「うきゃああああ! 臆人さんはあれですね! 悪魔ですね! もうどうしようもない位悪魔的な悪魔ですね!」


「何か貶されてない俺!? 何か悪い事したか!?」


「しましたよ! 謝るかまた撫でて下さい!」


「ごめん」


「そこは撫でて下さいよ! 鈍チンですか貴方は!」


「よしよし」


「では、話を元に戻しましょうか」


「だな」


 一件落着である。


「なぁ、知由乃はそこまで詳しい事は分からないんだよな?」


「はい……私はただ話を聞くだけなので」


「なるほどな。なら聞いてみるか」


 そう呟いた臆人の言葉に知由乃は耳を疑った。


「え!? 明ちゃんに聞くんですか!?」


「あぁ違う違う。俺が聞くのは__」


 そう言って臆人は徐に携帯を取り出して、どこかに電話を掛けた。


「どうしたチキン? 珍しいな電話を掛けてくるなんてよ」


 相手は右凶だった。


「いや、明の事で少し調べて欲しいんだけど?」


「いじめのことか?」


 右凶は整然とそんな言葉を返して来た。


「知ってたのか?」


「まあな」


「なら話が早い。詳しい事を教えてくれないか?」


 その質問に、右凶は少し唸った。


「いや、ダメだな」


「え? な、何でだよ?」


 臆人は右凶からこんな言葉が返ってくるとは想像してなかったので慌てた。


「なぁチキン。これを深く知ってどうすんだ?」


「そ、それは……注意を促すとか……」


「アホか。そんなんで虐めが治ったらもうとっくに虐めは無くなってる。こういう話はデリケートなんだ」


 右凶にデリケートだなんだと言われたくはないが、確かに的を得た発言だった。


「でも明が困ってるみたいなんだ。力になってやりたいんだけど……」


「なら、本人に直接言えばいい。それが最善の療法だ」


「で、でもどうやって……」


「なぁチキン。お前が今やるべき事はなんだ? 明が困ってる時にやる事が、本当に情報を集める事なのか?」


「それは……」


「明のケツをぶっ叩けるのはお前しかいない。そういう事だ。じゃあな」


 そう言って一方的に電話はぷつりと切れた。


「俺が今やるべきこと……か」


「どうしたんですか?」


「あぁいや。つくづく俺もアホだなと思ってさ」


「まぁ、そうですね」


「いやそこは否定しろよ」


 臆人は電話を握り締めた。そして、知由乃に向き直った。


 そして同時にある事を考えた。


「明日、また皆を呼びあつめる。知由乃も明に声を掛けてくれ。そんで後芹香もな」


「分かりました」


 こうしてこの日の夜は終わった。








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