配役 12
ヒーローとは自己犠牲であると、誰かは言った。
己を賭し、他者を救うのがヒーローの務めだと。
かのテレビアニメの主人公は、己の体を捧げて、人々に幸福を与えた。
そのテレビアニメの主人公の名は、アンパンマンと呼ばれている。
アンパンマンは愛と勇気だけが友達である、なんて言葉をかれこれ何度耳にした事だろう。
あれは曲の歌詞であって、アンパンマンの正義では無いのだが、そこは幼少期の思い違いで片を付ければ良い。
あの国民的人気アニメはの主人公は、頭が濡れると弱くなるという弱点があるが、頭を取り替えれば何度でも蘇るスーパーマンだ。
風邪を引いた時でも、たんこぶが出来た時でも、はたまた脳腫瘍や蜘蛛膜下出血になった時__アンパンマンに脳があるのか、血管が通ってるのかはさておき__頭を取り替えれば治る。
また、顔が汚れず何年か経っても、新しいのに取り替えれば齢0歳からまたやり直す事が出来る画期的な身体(?)の持ち主である。
まあ、そんな事はさておき、そのアンパンマンをいつも邪魔するのがバイキンマンという黒の触角を二対持った悪い奴である。
バイキンマンはメカを操りながらアンパンマンを死へと追いやっていく。
だが、最後はアンパンマンの正義の鉄拳でメカごと吹っ飛ばされるのだ。
そう、アンパンマンは正義の鉄拳でヒールを倒すヒーローなのだ。
そして、必ずピンチの時には助けが来る強運の持ち主でもある。
臆人は、それをテレビで発見した時、思わず飛び跳ねそうになった。
こんな所に、世の常識を覆しているヒーローアニメがあったなんて気付きもしなかった。
臆人達は第一回戦を観客の欲しいものを無視して、拳で片をつけた。
それは殆どの観客への当てつけと見なされても仕方のない所業だ。
剣を使わずして勝つなんて、観客を侮辱していると誰かが声を荒げていた。
けれど、臆人は続く第二回戦も剣を使わず拳を使った。ブーイングが雨のようにリングに流れ込んだ。
罵倒され、非難の嵐が臆人を襲いながらも、臆人は顔を下げず、しっかりと前を見つめた。自分は間違ってない。間違った事はしていないと心にそう言い聞かせて。
でも、臆人以外の三人には申し訳なく思った。彼らは臆人の自己犠牲に巻き込まれているだけなのだから。
胸が締め付けられるような二回戦は終わりを告げて、四人は黒の部屋へとやって来た。
「随分と悪評を受けてるね臆人。僕としてはがっかりだよ」
そこでいきなり声を掛けてきたのは、殺伐 崇だった。ウェデイングドレスのような真っ白な髪は、相変わらずそこに存在していた。
少し髪が伸びているように見えるので、カツラでは無いらしい。
「そんな小手先の芸当を見せびらかしても、僕には勝てないよ?」
クスクスと崇は笑った。
「言ってろ。もしお前と当たっても俺は絶対に勝つ。勝って、お前の存在を否定してやる」
崇は、一、二回戦共無傷の勝利をリング上で飾っていた。観客は、唖然としながらその試合を目の当たりにしていたという。だから、崇は今目立つ存在になっていた。
臆人も試合を見に行きたかったのだが、二戦とも被っていたため見ることは出来なかった。だから、崇の戦い方はまだ知れないでいる。
「楽しみだね。こんなに胸が高鳴るのは久しぶりだよ。君が負けて地面に突っ伏した時の光景が目に浮かぶよ」
「俺だってお前がわんわん泣きわめく姿を想像して腹の中で笑ってるよ! ちびったら大爆笑だね!」
「じゃあ君は糞を漏らすといいよ」
「ならお前はゲロ吐け」
「いい加減にしなさいよ! 小学生の口喧嘩でももうちょっとマシよ!」
明に耳を引っ張られて、臆人は引きずられるようにしてその場を去ろうとした。
だが、その時三回戦の相手が決定したというアナウンスが流れた。
そして、様々な部屋のモニターとなっていた画面は対戦者を表示する画面に切り替わった。
このシステムは今まで無かったが、恐らく参加人数が減少したために一覧で表示出来るようになったのだろう。
そこの白の部屋の対戦者表示の所に、金条チーム VS 殺伐チームの文字が掲載されていた。しかも今度はトリの逆のハナである。
「おぉ……」
「これはまたとない巡り合わせだね」
この奇跡とも呼べそうなタイミングに感動したが、崇が平然としていたので、顔には出さないことにした。
「顔に出さないようにしようって顔に出てるわよ?」
「声に出すなよ! 文字になったらばれちゃうじゃん!」
「そんなの文脈的に分かるわよ」
臆人の強がりが露呈した所で、取り敢えず崇から距離を置くことにした。
ここで仲良くお喋りしている場合ではない。
そしてこの時、右凶はじっと見つめていた。崇の後ろに控えているチームメンバーを。
彼等は一言も発さずに、後ろで控えていた。右凶は彼等の瞳を見た。そこには生気というものが宿っていなかった。
「なぁ、少しいいか?」
取り敢えずその場を離れた時、右凶が声のトーンを低くさせて三人にそう言った。
「どうしたんですか? そんな急に真面目ぶって?」
「な、なんか知由乃ちゃんまで当たりが強くなってる気がするなぁ」
「気のせいですよ。さ、さっさと言って下さい」
「……まぁいいか。ちょっと気になってることがあるんだよ」
「気になってる事? トイレの場所か?」
「それはな、あの崇のチームメンバーの事なんだ」
臆人の問いかけは全面的に無視された事はさておき、右凶はどうやら先程の崇のチームメンバーを気にしているらしい。
「惚れたのか?」
「それがよ、あの三人のデータがどこ探しても見つからないんだ」
また無視された事もさておき、右凶が相手の事を調べていたことに臆人は一瞬驚いたが、右凶はスパイである。その責務は当然かもしれなかった。
「もしかして一、二回戦の相手の情報も調べてたのか?」
「俺の手を使っても一つもデータが見つからないなんてのは異常なんだよ。ぶっちゃけ、人ってのは絶えず情報を流してるようなもんだからな。それが無いってのは、少し怪しい」
「いや今の質問は返してくれてもいいだろ!」
「ちょっと静かにしてくれないか? 今喋ってんだよ」
「正論だけどすげぇムカつくな」
だが、確かに重要な話なのでここは大人しく聞いておくしかない。臆人は黙って話を聞くことにした。
「ま、話は終わりだけどな」
「俺の意思を返せや!」
「冗談だ。まぁ俺なりにあの三人の事はこれからも調べていくけど、足が付かないってのは頭の片隅に置いておいてくれ」
「足が付かないって事は、もしかするとこの学校の生徒じゃないって考えてもいいってことなの?」
明が素朴な疑問を呈した。
「いや、これは他校だからとかそういう話じゃない。さっきも言ったけど、人間生きてりゃ情報なんて筒抜けなんだよ。でも、それが無いってのは余程の神経質か、俺みたいなスパイか、裏の人間。或いは__」
そこで右凶は一つ区切りを入れて言った。
「人じゃないかだ」
***
観客席はごった返していた。
座る席が無くなった生徒は立ち見をしながら、この対決を見守っている。
いや、そんな優しいものではない。彼等はただ高みから見物してるだけなのだ。
小細工で勝ってる名の知れたヒーローと、未だかすり傷すら与えられていないヒールとの対決をこれ見よがしに見に来てるだけである。
臆人は、ぼんやりと会場を見つめた。
見渡せば見渡すほど嫌な圧迫感が襲ってくる。彼等の目は、ギラついた獣のそれだ。
けれど、その中に一つだけ、臆人を惹きつける目が存在している事に気がついた。
臆人は不思議と笑ってしまう。
「あんた、ニヤニヤしてどうしたの?」
明が引きつった笑みで此方を見ていた。
「いや、何でもねーよ」
臆人は視線を正面に向けた。いつでもニヤけている崇の表情では何も窺えないし、その背後に潜むメンバーの連中も然りだ。
リング上に計八人が揃った時、審判が試合開始の合図をするべくリングに近付いた。
「作戦とかあったりするのかしら?」
「んなもんは無い。適当にぶっ潰せ。でも、崇の相手は俺がする」
崇も恐らくそう来るはずだと考えている。なので、真正面からぶつかるまでだ。
「それでは、試合開始!」
合図と共に、すかさず明と右凶は飛び出し、知由乃は魔法を発動し、サッカーボール大の火球を放出した。
火球は明と右凶を抜くと、手下目掛けて突っ込んでいく。
「あははは!」
「いひひひ!」
手下は声を揃えて笑うと、手を繋いだ。
「「せーの!」」
彼等は一瞬翻ったかと思うと、一気に跳躍し、火球を足蹴にした。
すると火球は跳ね返ったように軌道を曲げて、明と右凶に襲いかかる。
「何じゃそりゃ!」
「小賢しいわね!」
明はその火球を剣でぶった切った。火球は半分に割れて背後の地面に落ちて行く。
「またつまらぬ物を斬って__」
「んな事言ってる場合か! 前見ろ前!」
明が格好を付けてると、目の前に急に手下が手を繋いだまま現れ、拳を引きつけてる所だった。
「「この馬鹿女!」」
肉体強化の魔法が掛かっているのか、馬鹿にならないスピードで、明は腹と顔を同時にぶん殴られ、滑るように地面を転がった。
「何してんだこのゲイ野郎!」
右凶は一丁の銃を構えて発射する。だが、軌道を読んでいるのか、反射神経で避けてるのか、間一髪でそれ等を躱していく__否、反撥してる。
「何だこいつ!?」
その時だった。
「「きゃはははは!」」
人形のように笑った手下二人は、カパッと口を開けた。
「は? 嘘だろ?」
ギュウウウンという収縮音が鳴り響くと、彼等の口の目の前に火の玉と雷の玉が出現した。
「避けて下さいうさきちさん! 食らったら死にます!」
「は、はぁ!?!?」
ピュンと、それは発射された。
円柱型に放射されたそれは、正にレーザーだった。
赤色のレーザーと黄色のレーザーが、右凶の頰を掠めて観客席へと飛んで行った。
観客席は防護壁が張られているので観客に怪我は無いが、生徒全員度肝を抜かれたようだった。
「うさきちさん大丈夫ですか!?」
「いや、頰を掠めただけだから怪我という怪我はねーけど……」
右凶は頰を摩ったまま、手下を見つめる。
火のレーザーを撃ったのが赤髪、雷のレーザーを撃ったのが金髪の男だ。
改めて二人を見ると、何て生気のない顔をしているのだろう。
ずっと見開かれたままの二人の髪色と同じ色の瞳には、人の生気が感じられない。
どうして気付かなかったのかと不思議になるほど、二人はある意味人間離れしていた。
「俺の予感はどうやらビンゴだったみたいだな」
頰の傷を拭って、右凶は手下を睨み付けた。あんな事が出来るのは、人間じゃない何かだけだ。
「大丈夫ですか右凶さん!」
ふわりと知由乃の手から薄い緑色の光が湧き出る。それは右凶の頰に触れると、たちまち傷は治った。
「私も回復してくれる? 口の中が切れて血まみれだわ」
「分かりました」
治癒をしてる間、手下と幹部は全く動かなかった。まるで回復してるのを待ってるようだった。
明はその様子を感じ取ったのか、手下を睨み付けた。
「私は手加減されるのが一番嫌いなのよ」
傷を治して貰った明は、剣を持ち直すと手下に向き直った。
「後悔した方が良いわよ! あんた達纏めて地獄送りにしてやるわ! 閻魔大王に殺されて死ね!」
「いや、地獄送りにされてる時点で死んでるよ! ていうか発言がもうヒロインじゃない!」
だが、手下、幹部共に無言だった。何かを返して来る様子もない。
それに相当応えたのか、明は「うがぁぁぁぁ!!」と火を噴いた(と感じた)。
手下の様相は、先程説明した通りである。そこに付け加えるなら髪は少しパーマがかかったように乱れている。
服装は髪色と同じ色の無地の服を着ている。赤づくしと黄づくし、これが手下の姿である。
一方、幹部の方は目が無い(ように見える)。幹部の顔を書けと言われたら目は一本線になるほどの細さである。
多分、覚醒すると目が開くパターンだろう。
色黒で杖を持ちながら、大仏の如くそこから動いていない。
「私の名前は太目 正(ふとめ ただし)だ」
「僕の名前はピノ!」
「僕の名前もピノ!」
「いや、お前はキオだよ?」
「いや、お前がキオだよ?」
「どっちが正解?」
「どっちも正解!」
「「あはははは!」」
ピノとキオは、そう言ってケラケラと笑った。その様子は、人間のそれじゃない。
「ここまでバレないようにしてきたからね。ここでお披露目出来るのはとても嬉しいよ」
クスクスと崇が笑いながら前に出た。
「これが僕のチームメンバーだよ。この三人に命は無い。只の人形。でも、強いよ?」
これには観客が騒ついた。臆人達は事前に右凶からの情報があったのでそこまで驚かなかったが、観客にとっては寝耳に水だろう。
「あれ? そこまで驚かないんだね?」
「こっちには良く出来た諜報部員がいるからな。そっちの情報は筒抜けだ」
「情報は隠したつもりなんだけど、もしかして隠し過ぎて逆に怪しまれちゃったかな?」
崇は楽しそうに笑った。もしかするとこうなる所までお見通しだったのかもしれない。本当に底が知れない奴だ。
「お前にはお似合いのチームだな。世界もチームも人形だなんて、お子様にも程がある」
「これでも大事なチームメンバーなんだ。ま、代用は効くけどね。造るの大変なんだよ」
崇の悪びれない様子が、臆人の癪に障る。酷く馬鹿にされてる気分だ。
「なら一生造れないようにしてやるよ。そんで、もっと大切なもんを見つけるといい」
「僕に大切な物は無いし、見つける気もない。この命も、身体も、別に大切だと思わない。いつ死んだっていい。それが僕だ」
「俺には大切な物があるし、これからも見つけ続ける。この命も、体も、大切にし続ける。死ぬのが怖い。それが俺だ」
「君は僕の写し鏡のような存在だね」
「そうだな。俺とお前は相容れない」
「まるで正義と悪みたいだね」
「その名の通りじゃねぇか。俺がヒーローで、お前はヒールだ」
「勝つのはヒールだ」
「言ってろ」
***
ピカッと天井が無数に光る。
そこから瞬き程のスピードでリングに落雷が降り注ぐ。キオはそこで落雷を避けながら踊っていた。
その間、ピノは十本の指の第一関節を外して、そこから火球を銃弾のように無数に放出していた。
明、右凶、知由乃の三人は、その間髪入れない攻撃に防戦一方になっていた。というか、あのピノとキオの人形がおぞましい程に強すぎるのだ。
魔法は何故か反発するし、格闘に関しては明に引けを取らない。最早化け物と呼ばざるを得ない。
「どうすんのよ! これじゃあ埒が開かないわ!」
知由乃の結界に隠れながら、明はイライラをぶちまけた。その間にも、落雷と炎弾は結界を襲う。
「まずはあのピノさんキオさんを止めなきゃいけませんね。この結界も長くは持ちませんし」
「そうね。でもあいつ魔法は効かないし格闘もまあまあやるし、本当にめんどくさいわ」
「その事なんだけどよ。少し分かったことがあるんだ」
「分かったこと?」
「あぁ。これであのヒール共をぶちのめせるぜ?」
悪巧みを覚えた少年のような顔をして、右凶は話し始めた。
「成程ね。要はあの太目正だっけ? あいつを倒せば魔法の反発を抑えられるって訳ね?」
「そゆこと。しかもあの細目野郎は身体強化も恐らくあのピノとキオに使ってる。だから、先ず叩くとしたらあいつだ」
「分かった。そういう事なら任せなさい。あの大仏細目野郎をぶっ殺してやるわ」
方針は決まったので、後はタイミングだけだ。
落雷と炎弾が最も手薄になる時、そこがスタートだ。
「来た! 知由乃ちゃん!」
「はい!」
知由乃が結界を消し去った途端、明は敵陣に向けて突っ込んだ。
それに気づいたピノとキオは明に狙いを絞って攻撃を再開する。
天井が明滅し、落雷が明目掛けて降り注ぐ。
だが、明は鞘に納めていた剣を取り出し、空に放り投げた。
すると剣は避雷針となり、剣に落雷が集中する。その一瞬怯んだキオを、明は見逃さなかった。キオの懐に潜り込み、背負い投げるようにしてピノに投げつけた。
ピノは動くこともせずにキオとぶつかり、絡まるようにしてリングの上を転がった。
「痛い! 痛い!」
「酷い! 酷い!」
「「ムカ着火サンダーファイヤー!!」」
ピノとキオは絡まりながらも起き上ると、口をパカッと開けてエネルギーを溜めた。また、レーザーを放つようだ。
明は一気に駆け出した。
ピノとキオの頭が回転し、明に狙いを定め続ける。
「「死ね!!」」
ピュンと二つのレーザーが明目掛けて飛んだ。目で負えない速さなので、明は逃げる事も出来ずに被弾した。
肩口と横腹を抉られるようにして貫かれたレーザーの勢いは止まらなかった。
「ぐあぁぁぁ!!」
悲痛な叫びが聞こえた。明が後ろを振り向くと、そこには太目正が頭を抱えて蹲っていた。
「うさきち! 知由乃ちゃん!」
その声と同時に、右凶が四発の銃弾を撃った。その弾は弾かれることなくピノとキオの目に当たった。
「「ぎゃあぁぁ!!」」
「これで終わりです!」
知由乃は炎と雷の合成魔法を放った。雷の槍に歩頬が渦巻き、それは熱風を噴き荒らしピノとキオを貫いた。
「無」
「念」
カタカタと顎を震わせて、二つの人形は地面に落ちた。
「おのれ我が手下をこうも破壊しよって……許さん!」
すると、先程まで蹲っていた太目正が起き上り、顔を血に染めて此方を睨みつけていた。
ここで何より驚いたのが、彼の体が変化していた事だ。
まず、目が三つに増えていた。三つ目の目は額に存在していた。それら全ては見開かれ、充血していた。
そして腕が六本に増えていた。正しくその姿は阿修羅の如くだった。
おまけに付け加えるなら、それぞれの手には剣が握り締められていた。要は六刀流である。
「俺を恐れたか人間。今から地獄を見せてやるから覚悟しろ」
「それは私のセリフよ。あんたが阿修羅の物真似したって誰得って感じなの。分かる?」
「うるさい小娘だ! 俺がどんな格好をしようと構わない筈だ! それにその残された片腕で何が出来るというんだ! 俺には六本の腕がある! お前との差は六倍だ!」
「あらあらそのセリフ良いわね。やっぱヒールはそうでなくっちゃいけないわ。でも、額の第三の目はもうありがちよ。頬にでも移したらどう?」
「生意気なぁぁ!」
太目正阿修羅バージョンは頭に血を上らせて吠えた。
「治しますか?」
その時知由乃がそっと聞いた。明は首を振った。
「逆境でこそ正義は輝くのよ」
明は投げ捨てた剣を拾って相手に剣先を向ける。
そして駆けた。
「八つ裂きにしてくれる!」
文字通り阿修羅の如く、六本の剣が踊り狂った。縦横右斜め左斜め横横縦右斜め横縦縦__。
明はそれを踊るようにして避けた。しかも避けるだけではない。彼女は一歩ずつ近づいた。
「おのれ小癪なぁぁぁ!!」
怒号が響く。刃が乱れ飛ぶ。リングが瓦解していく。
なのに当たらない。掠りもしない。彼女は__本物の化け物だ。
「死の恐怖を味わいなさい」
明の刃が舞った。花のように美しく、水のように滑らかに、それはまるで儚い生き物のように降り注いだ。
「花の舞 幻影時雨!」
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