最終話 背負うモノ

 少年と俺はただひたすらに戦い続けた。何のためか、誰のためか、そんなことは全く見失いつつあった。ただ目の前の少女の猛攻から身を守るのが精いっぱいだった。そう、ただそれだけだったのだ。だから、隙も生まれる。大義名分でもいい、戦う意味というものが無いから、そうなった。


「くっ……!」


 少年が人間の姿に戻されてしまった。少女はまずは少年を始末しようと動き出した。


「頃合い、か。清算の刻だ。」


 執行人と呼ばれた男が間に入り、少女の剣を受けた。そして、生身に戻った彼の身体は、貫かれたが、奴はそれを手で止めて放さない。


「なんで庇ったんです!?」


「最初からこのつもりだったんでね……お前、俺ごと、こいつを葬れるか?」


 息が絶えかけている奴は俺を指差してそう言った。


「そんなこと……」


「お前は、やらなきゃならない。身勝手だったんだよ、お前は……中途半端なスーパーヒーローさんよお……今俺がこいつを止めてるうちに、やれ!!」


 中途半端なスーパーヒーローでも、それが正しいと思っていた。人を殺さないことが。でも、それだけじゃ駄目だったんだ……具体的な解決ができないままでは、俺と戦った奴はまた、人を殺していたんだ……その罪は、代わりにこいつが背負ってくれていたのか?いや、おそらくそんな意識は無いだろう。では、俺はどうだ?俺だってわかっていたはずなんだ。頭のどこかで。ブレスレットを破壊するだけでは、駄目だと。だが俺は正当化のためにブレスレットを破壊すれば殺さないだろうと勝手に思い込んだ。それで被害者が増えなかったのはこいつの……


「ゴタゴタ、考えてんじゃねえよ……早くしろ……もう、俺も抑えきれ……」


「覚悟するよ。あんたを殺した罪を、背負う。」


 俺は銃で二人を撃った。最初の一発で執行人と名乗る男は死に、少女は元の姿に戻った。


「私も殺すんだろう?」


「そのつもりだ。」


 銃声が鳴り響く。その刻、俺はその場から離れたようだった。


 気がつくと俺は見知らぬ部屋で少女を見ていた。傷だらけの彼女は泣いていた。一人で泣いていた。


 刻は流れる。


 今度は別の場所、少女が通っている学校のようだ。


「汚ねえな!ゴミ!」


「早く死ねよクズ!」


 彼女はいじめられている。俺はそれを止めたいと思ったが、身体が動かない。そんなとき、ふと視界にひとりの男子生徒が見えた。そいつは、なにもせず、ただそれを見ているだけらしい。


 刻は流れる。


 今度は彼が、いじめっ子たちを説得しているところを見た。


「あの、やめた方がいいですよ。そういうの……」


「ああ、わかったよ。やめるわ。」


 いじめっ子たちはどうやら説得に応じたようだった。


 一体何を見ているんだ、俺は……


 今度はまた学校だ。そこに彼はいない。


「あいついねえから思う存分遊んであげるよ!」


 また少女がいじめられる。これって……


「あなたのような人。彼は死んだ。私が死んだ後で。」


 少女の声が聞こえた。


「だから俺にブレスレットを……」


「言ったでしょう?あなたのような人は大嫌いだと。でも、これからのあなたはどうだろう。それが見たい。あなたがヒーロー気取りなのか、それとも全てを背負っていくのか。」


「背負う覚悟だ。」


「じゃあ、一つ教えてあげる。ブレスレットの事件は続く。私が消えても、他の人が配る。ブレスレットは死者の怨念でできているからね 。」


「だったら、俺は死ぬまでそれと戦う。」


「そういうのなら、本当にやってもらいましょう。」


 気がつくと俺は元の場所にいた。


「……執行人とはいえ、殺してしまったんですね。」


 少年は悲しそうな目をしている。


「そうだ。おれはその罪を償うために、戦い続けるよ。」


「やはり、これで終わりじゃないんですね。だったら、僕もやりますよ。首を突っ込んでしまいましたから。」


 そうか、この子も関わってしまった以上、そうなるのか。

 そう思うとやけに悲しいものだ。子どもさえ、このような不幸に巻き込まれたのだから。


 俺は無言でその場を去り、家に戻った。飾ってある一枚の絵に、俺は謝罪した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

心と力、狂いだす街 ゼータフロント @Maeda24kGN

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ