第8話 最後の始まり
実際にブレスレットを使ったサツジンの現場を目撃するのはこれが初めてだった。
確かに、奴は人殺しだった。だが、何故殺す必要があった?
それは、俺たちがやるべきことなのか?
「殺すか?なら、今がその時だ。ちと数が足りんが、いいだろう。」
何を言っている?もう俺は、お前の言葉を聞かん。
装甲が完全に割れるのを感じる。さっきの闇じゃない。これが今の、俺の、真の姿だ。もう俺は、バケモノになってでもこいつをコロす。
俺は男に右腕の長く、鋭い爪で斬りかかった。
「待ってください!」
この言葉が、俺を止めた。その声には聞き覚えがある。あの時の、少年。
「あなたが奪う側に行くんじゃないですよ!でなきゃ、僕が戦ってきたのはなんなんです⁉」
少年が、戦ってきた?どういうことだ。
「やれやれ、ここで役者が揃ってしまったか。しかし、少年?よくオレの計画を邪魔してくれたな?ここに正義が3つ……しかしそれでは彼女が完全にここに来ない。」
「来ますよ。僕が呼びましたから。この街の事件を終わらせるために。僕はそのあとで、あなたを倒させてもらいます。執行人。」
彼らは一体何を話しているんだ?
「おっと、君は全く知らないもんな?気持ちよく自己満足で今まで何も考えずにやってきたんだからさ。」
「そういう言い方は無いでしょう?彼に救われた人だっているんですから。」
少年が庇ってくれているが男の言っていることは事実だと思う。俺は今まで何をしてきたのだ?結局、人殺しから力を奪っただけで野放しにしたんだ。彼らはブレスレットが無かろうと凶器がそこにある限り、いや、拳でさえ人を殺すかもしれないんだ。
「まあ、いい。今はそれよりも、早く来いよ、この街の亡霊、いや、ゴーストと言った方が正しいか。」
男がそう言うと、純白の少女、ブレスレットを配っていた少女がどこからともなく現れた。
「あなたは一番最低な使い方をした。死人に自分のブレスレットにため込んだ怨念をぶつけて、無理やり動かすなんて。」
少女は怒っているようだ。それ以上に今は死人を動かした、というのが気になる。
「あー、あれか。お前にも関係があるぜ?初陣の時に、お前が見逃してやったアイツな、アイツに殺されたやつを動かして殺してやったんだよ。」
「なに……?」
俺は愕いた。まさか、あの時の彼を殺したのが死人だったとは。
「執行人として、そこまで自分が高潔でありたいですか?バケモノの見た目ではないということに拘って!」
少年もまた、怒っているようだ。そして彼の発言から察するに、ブレスレットには何かしらの感情がため込まれるようだ。
「まあ、今となってはそんなことはどうでもいい。ところで、貴方?自分の矛盾に気づけた?」
少女に指さされた。俺はブレスレットを得てからのことを思い返した。確かに俺は、矛盾している。俺は、もっと行動するべきだったのだ。ヒーローごっこと大差のない自己満足で終わっていたから、救えるものも救えなかった。このブレスレットのことももっと調べられたハズだったし、この街で起こっていることにもっと能動的に動けばよかったのだ。
「どうやら、今まで考えたことすらなかったみたい。あなたのような人は大嫌い。」
少女は純白の騎士となり、俺に剣を向けて駆けてくる。
とっさに俺もブレスレットを起動する。今回は、何故か安定しているようだ、メカニカルな装甲に包まれた。
刀と剣がぶつかる音が響く。何度も、何度も。
「あんた、なんでブレスレットを配ったのか、それだけがわからない。なんのためなんだ⁉」
「そういうの、想像できないなら!」
まずい、彼女の剣に刀が飛ばされた。銃を出す隙もない。どうすれば……
「一人じゃないですからね!」
少年が銃で彼女を撃った。その衝撃で、彼女の体勢は一瞬揺らぐ。
俺はその隙に刀を取り、銃を持つ。二つの武器を彼女相手にどれだけ使えるかは疑問だが、これが初めてではないのだから、やれるはずだ。
俺は彼女に向かい、攻撃を再開した。
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