第7話 DEAD

 怪物は、笑っていた。大勢の人を殺して、笑っていた。

 このままでは正気を保っていられなくなりそうだ。怒りが俺を支配し始める。

 こいつは、絶対に、倒す。

 俺はブレスレットを起動した。身体が異様に熱い。ふと自分の手を見ると、装甲にヒビが入っている。そうか、怒りか。だが、この光景をみて怒らずにいられるものか!


 俺は刀を振るい、トリガーを引き、様々な攻撃を続けるが、どうやら効いていないらしい。一体何がこいつを強くさせる?


「ぼくも負けてられませんね。」


 俺をここに連れてきた男もメカニカルな外装に身を包み、戦闘に参加する。

 男が斬り、そのタイミングで彼が撃つ。連携は初めてだが彼が俺に合わせてくれているおかげでうまくいっている。しかし、攻撃はほとんど効いていないらしい。


「お前ら、もういいだろう。死にたいなら楽にしてやる。」


 奴は飽きたような口調で告げた。楽にしてやる?殺すというのか?そんなにも簡単にそれを口にするのか!お前は、絶対に……


「落ち着け、今はまだその時じゃない!」


 男の声が聞こえるが、それはただの音だ。意味のない音だと感じる。

 負の感情に支配される。ひび割れた装甲から闇が溢れ、この場を包み込む。

 このたった数秒、俺が冷静さを取り戻すまでのその数秒は、あまりにも長かった。

 力に支配されるままに武器を使った。斬る、撃つ、殴る、蹴る、どれも威力がそれまでとは桁違いだった。奴が人間に戻るには充分だが、それだけで俺は止まれなかったかもしれない。誰かが、俺の手を止めてくれなければ。その手は白い、女性の、暖かな手だった。


「お前、なぜこんなことをした。」


 男が、さっきの怪物だった者に話しかけた。


「楽しくってねえ、やめられないんだよなあ!」

「お前、死ねよ。」


 彼はその怪物だったモノを、殺した。


 ――――


 ブレスレットによる事件、その終章、か。敵の強さが想定外だったが、そのおかげで予定が早まった。この男が解放した破壊したブレスレットの数だけの怨念、闇、それに反応してそろそろ彼女が帰ってくる、いや、もう帰ってきているのか。

 だがあともう一人、少年のブレスレット。あれの闇も解放させなければならないが、それは無理だろうな。この男は、俺を殺す。ほぼ確実に。それでもいい、俺に代わって正義の執行人を俺以上に全うできるだろうからな。


 ――――


 ここ、最低でも二つのブレスレットがある。しかも一つはあの時の……

 もうひとつは、この感じは、噂の執行人か……?このままだと、あの人がどうなるか、その保証がない。あの人に助けられた僕が、いまやるべきことは……

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