第3話 堕天使

「……町で15人死亡、警察は連続殺人事件として捜査しています。凶器は見つかっておらず……」


 朝のニュース番組でアナウンサーが読み上げる。被害者の写真には、あの青年のものがあった。おそらく他の14人は彼が殺したのだろう。俺は力を持っていながら、止められなかった。

 俺は何のために力を得たんだろうか。何のために……

“ヒーロー”という文字が頭に浮かぶ。ガキみたいな夢だ。ヒーローなんて、いない。いても役に立たない。心から思う。


(そんなことはどうでもいい。今すぐ家から出て戦って。)


 頭の中に誰かの、女性の声が響く。ブレスレットは光っている。家を知られたのか、他の保持者に。


(早く出ろ。)


 仕方ない、ここにいても危険だろう。

 俺は家から出た。

 そこには女性の姿があった。


「あなた、ですか。」

「そう、あなたは楽しませてくれる?」


 いったい何が目的だ?


「こんなにも面白いものがあるのに、楽しまないなんてことはあり得ないんじゃない?あなたもそうでしょう。前回の戦いも見てたけど、そこそこ強いじゃない。」


 俺の心を読んでるな……


「悪いが、俺は戦闘狂じゃないんでね。極力、戦いたくないんだ。」

「あら、そう。なら、無理やりにでも戦ってもらいましょう。」


 彼女のブレスレットが光る。この場所では、まずい。今までは夜で人も少なかったからパニックが起こらなかった。しかし、このような時間帯では……


「待て。」

「場所変更ですね、いいでしょう。そちらの方が本気で戦えるというのなら。」

「感謝する。」


 俺たちは人気の少ない所に移動した。


「さて、始めましょうか。」


 彼女は、美しくも恐ろしい白い天使のような姿に変わった。弓矢を所持している。

 対する俺は、相変わらず幼い見た目だ。


「参ります。」


 彼女は背中の翼を展開し、空高く舞い上がった。そして、無数の矢を射ってくる。

 俺はそれらを避けつつ銃で応戦するが、こちらは苦戦を強いられる。

 高い機動力をもつ彼女には弾丸が当たることはまずない。そのうえ、こちらに対して正確に狙ってくる。正直、こちらが負ける確率の方が高い。


「あら、意外と弱いのね。面白みがないわ。さっさと終わらせてしまいましょうか。」


 放たれた矢は、無数に分裂し、俺をめがけて飛んでくる。何か手があるはずだ。これを切り抜けられる……


 抜刀。


 ほとんど無意識だった。無数の矢を刀で落とす。漫画みたいなことを、やってのけれた。


「なんですか、その力は!」


 わからない、が、あんたのその動揺が敗因だぜ。

 構え、狙い、撃つ。

 天使の翼は折れ、地に堕ちた。

 俺も彼女も、元の姿に戻った。


「あんた、なんで戦いを?」

「私は、大勢の男に裏切られた。だから、復讐しているのよ。あなたのような人を殺してね。」


 また、殺しか。力を得た人間は、負の感情を暴走させてしまうのか。


「裏切られた、か。それは辛かったな。」

「慰めのつもり?そうやってあなたも私を騙すのでしょう!」

「違うよ。だましたりしない。わかるだろう、その力があれば。」


 心の底からの言葉だ。


「ええ、そうね。」

「わかったなら、その力を手放して、罪を償ってくれないか。」


 彼女は無言でブレスレットを渡してくれた。すぐに、俺はそれを破壊した。

 それを見た彼女は、やはり無言で、立ち去った。


 ――――


 全く、償うったって証拠が出てくるはずもないし、彼女が嘘をついていると疑われるだけだ。警察や、裁判でも裁けないよ。ブレスレットの事件は。

 僕以外に正義の執行者がいると思って期待したんだけど、残念だ。

 おっと、彼女に声をかけなきゃな。


「堕ちた天使のあなた、もう終わりにしましょう。」

「だれよ、あなた。」

「先ほどの戦い、そしてあなたの悪行を見た者です。死を持って償ってください。」


 僕は彼女が殺した人間の数だけ、刺して殺した。


 ――――


「……町で刺殺された女性の遺体が発見されました。」


 ニュース番組には天使となって俺と戦った女性の顔写真が映っている。何故だ。彼女は罪を償うはずだった。彼女はそれができる人だった。だから美しい天使になれたんだと思っていた。なぜ、殺された……

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