第2話

「よう、おっちゃん」


 軽快な声で少年が話しかけてきた。私は視線をその少年に移す。


 おっちゃんと同様に肌は焼けていた。短髪の髪。体型は普通。身長は当時の私よりも高い。


「誰? おっちゃん」


 私はおっちゃんに尋ねた。


「ああ、こいつはしげる。最近こっちに引っ越してきたらしい」

「そういうお前は?」


 繁が私に尋ねてきた。


「ボクは智也だよ」


 私は素直に答えた。


「そうだ智也。繁と一緒に夏祭りを楽しんだらどうだ。あの子がいなくなっちまったんだ。お前、今日は独りなんだろ?」

「えー、おっちゃん。俺、今日は彼女とデートする予定なんだけど」

「おいおい繁。その歳でもう恋人がいんのかよ。まあでもそう言わずにさあ。智也も去年、失恋しちまったんだよ。慰めてやってくれよ」

「ちぇっ。仕方ねーなあ」


 と私抜きで話は進んでいき、繁がこちらに向いた。


「智也、どうせ年下だろ? 仕方がないから、面倒見てやるよ」

「う、うん。よろしく」


 私は内心、面倒な事になったと思っていた。当時の私は本当に子供で、年上である繁が果てしなく格上に感じていた。


「ねえ。恋人がいるって、本当?」


 繁の隣に立って歩いていた私が尋ねた。


「おう。もうすぐ、恋人になるんだ」

「もうすぐ? じゃあ、まだ恋人じゃないの?」

「うっせえな。細けえことは気にすんなよ」


 私は子供ながら、繁の片思いだということを察した。


「もうすぐってことは、告白するんだ」

「ま、まあな。告白するまで、秘密だぞ」


 照れながら言う繁。


 私たちは鳥居の方まで来ていた。私は先ほどの告白のこともあって、去年の夏祭りのことをまた思い出していた。


 そう、丁度この付近だった。私にはまた、幻影が見えていた。


「杏。あのさ……」


 祭りの帰り際。鳥居付近で私は杏を引き留めた。私は杏に片思いをしていた。そしてその想いを、告白しようとしていたのだ。


「実は、ボクは……」


 と、その時。私は閃いた。ただ想いを告げるよりも、プレゼントを渡した方が良いのではないか。


「ちょっと待ってて!」


 私は杏にそう告げると、残りのお小遣いを握りしめてプレゼントを買いに行った。お祭りの屋台で告白用のプレゼントなんて、中々手に入るものではない。結局私は、林檎飴りんごあめを一つ買って杏の所へ戻った。


 しかし、杏はいなくなっていた。


 杏は夏祭りが終わった後も家に帰って来なかった。あれ以来、杏は行方不明となってしまったのだ。


「お、いたいた。おーいっ!」


 繁が声を張り上げたので、私は我に返った。そして繁が手を振る先を見た。


「えっ……」


 私は思わず呟いた。


「繁っ、こんにちは!」


 快活に手を振るその少女は、花火の浴衣を着ていた。左手には林檎飴が握られている。


 間違いない。


 彼女は、私が片思いしていた、杏だった。

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