現在1(城北高校にて_教師と刑事)

「思ったより、みんな頑張ってきたな。」



採点し終わった定期テストの束をトントンと机で揃えて、物理教師の八雲直毅やくもなおきは、授業に向おうと、立ち上がった。


その時、職員室の扉が開き、教頭が、見覚えのある大男を連れて入ってきた。




「八雲!この高校だったのか。お前、女子高生に手を出していないだろうな!」




職員室に、響き渡る大声に、教員全員が、大男と八雲を交互に見る。


大声の主は、濱野龍太郎はまのりゅうたろうだった。


一瞬、何が起きたか分からず、目を丸くしていた八雲は、声をうわずりながら






「ばか!龍太郎!お前は俺をクビにする気か!」






龍太郎の無神経さに、高校時代から何度も振り回されている。彼は高校の時の同級生だった。




「刑事さん、こちらが校長室です。」




龍太郎と、その背後から入ってきた若い男性を、教頭は校長室に案内した。




「八雲!今夜、電話するからな。」




また、耳が痛いほどの大声で告げ、校長室に二人は入って行った。


なぜ、龍太郎が、この高校に来たのか見当も付かなかったが、八雲は狼狽しながら思った。

ああ、これは、何か面倒な事になりそうだ。




八雲が授業を終え、校舎間の渡り廊下を、歩いていると、龍太郎に同行していたスーツの男性が立っている。


男性は、八雲に気づき、会釈をした。八雲も会釈を返して



「龍太郎・・いや、濱野は、帰ったんですか?」



「いえ、あそこで校長先生と一緒にいます。」



運動場の角端にある、先日完成したばかりのクラブハウスを指差すと、校長と龍太郎が何か話をしているようだった。


男性は、胸ポケットから名刺入れを取り出し、名刺を八雲に渡した。



「千葉県警察本部、刑事課の、佐分利さぶりと申します。確か・・・八雲さんでしたよね。濱野さんとは、御知り合いですか?」



「はい、高校の時の同窓生です。」




「濱野さんは、高校の時から、ああいう性格なんですか?」



佐分利は、眉間に皺を寄せて、ハァとため息をついた。




「佐分利さんも、龍太郎に振り回されているんですね。私も、高校時代は、そうでした。」


八雲は心の底から、佐分利という刑事に同情した。


仕事上で龍太郎とパートナーを組むなんて、ストレスで寝込んでしまうかもしれない。


「佐分利さん。龍太郎は、本当に刑事なんですか?ちょっと信じ難いんですけど・・・」




佐分利は、フッと真顔に戻り、八雲を見ると






「優秀な刑事ですよ。正直な事を言うと、私は尊敬しているし、多分、周りの若手も同じ事を思っているはずです。」






その後、八雲も覚えている様な、幾つかの事件を挙げて、龍太郎が、ほぼ解決したようなものだと語った。


「ただ、捜査方法が、グレーゾーンなものが多いんですが・・・」と語った所で、八雲は、腕時計を見て、次の授業準備があるのでと、佐分利に頭を下げて職員室に戻ることにした。





その日の夜、話があるから週末に、串松くしまつで会おうと龍太郎から電話が掛かってきた。


串松は、高校の同窓生である松木英嗣まつきえいじが、経営している居酒屋で、二人の行きつけの店であった。


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相関図


八雲 直毅(城北高校の物理教師)


濱野 龍太郎(千葉県警の刑事)


佐分利 孝(千葉県警の刑事)

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