第6話 高揚
スマホを見ると、メッセージが入っていた。知奈美からだった。
朝には満タンだった電池残量は、放課後の時点で残り一〇パーセントしか残っていなかった。これまでは半分くらいは残っていたのに、今日はほぼすべてが知奈美とのやりとりに消費されていた。
休み時間になる度にスマホを見るのが楽しみだったし、昼休みはリアルタイムでやりとりをしていた。授業中も気になって、机の中でこっそり見たり、過去のやりとりを読み返したりした。
中には由佳からのメッセージもあった。由佳と知奈美の名前が並んでいるのを見て、いたたまれない気分になった。
「今日バイト休みでしょ? 一緒にご飯食べない?」
由佳からの誘いは、五時限目が終わったあたりに入っていた。まだ返事は出していなかった。
俺は私服に着替えるとベッドに寝転がった。
「今、付き合ってる人はいるんですか?」
知奈美からのそのメッセージは唐突だった。
「いないよ。どうしてそんなこと聞くんだ?」
「もしいたら、彼女さんに悪いじゃないですか。好きな人が他の女の子と一緒に遊んでたら、わたしだったらつらいです」
返事は二、三分で届いた。どうやらすぐに返せる状況にあるらしい。
「そっちはどうなの? 彼氏とか、好きな人とか」
今度はすぐには返ってこなかった。いろいろと勘繰られているのかもしれない。送ったメッセージの内容に後悔した。返事が来るまでに一〇分ほどかかった。
「彼氏さんはいないんですよ。三浦さんには好きな子いるんですか?」
画面を見つめたまま、しばらく考え込んだ。
ふとした瞬間、由佳のことを考えることはある。たとえば風呂に入っているとき、今頃なにをやっているんだろうとか、うまいものを食べて、由佳にも食べさせてやりたい、とか。でもそれが、異性的なものなのか家族的なものなのかはわからなかった。ただ、少なくとも、夜、なんとなく悶々としたときに、由佳の裸を想像することはしないようにしたけれども……。
いきなり着信音が響いて、スマホを落としそうになった。由佳からだった。
出づらかったが、無視するのも気が引けた。電話に出ると、メッセージを送ってきた件に関してだった。返事がなかったのでしびれを切らしたらしい。
「悪い、今日はやめとく。あんま調子よくなくてさ」
「えっ、どうかしたの? 風邪?」
「別にそういうわけじゃねえけど」
「ふぅん……そっか。わかった。体に気を付けてね」
やっぱりどこか子供に言い聞かすみたいな口調だった。「面倒かけないでね」という伯母さんの言いかたとは温度が違った。
腹の底からため息が漏れた。ひどい罪悪感だった。しばく由佳とは距離を置きたかった。
知奈美からのメッセージを再度開く。
「三浦さんには好きな子いるんですか?」
俺がそれに対して「わからない」という主旨のレスを返すと、またすぐに知奈美からの返事があった。
「よかったら、今度の日曜日に映画を観に行きませんか?」
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