第103話 ダリア編4

 欽治や雪が生き返る?

 いや、冷静になろう。

 ルーシィの話したミャク島とは限らないし、それに東の島国?

 国名なんて地図に書いてあったかしら?


「さぁ……ニーニャんはどこ? ニーニャん!」


 ユーナが勢いよく部屋から飛び出し階段を下りていく。

 まったく、あの子は……何かにのめり込むと周りが見えなくなるんだから。

 私もユーナの後を追う。

 

「ニーニャん! 早く行くわよ!」

「ん……ゆ、ユーナさん! もう、大丈夫なんですか? それに行くってどこへ?」

「あら、ユーナちゃん。元気になって良かったわけ。その様子は何か見えたわけね?」


 ルーシィはユーナの予知夢のことをよく知っているみたい。

 後でこっそりと、どういうときに見るのか聞いてみてもいいかもね。


「そうなのよ……ルーシィさん、ガンデリオン大陸のさらに東の島国に早く行く方法って何か無い?」

「あら……それは……さっきの話も真実味を帯びてきたわけね」


 ルーシィが考え込んでいる。

 やっぱり、そこに繋がっちゃうのね。

 でも、ルーシィからもらった情報は数千年前の観光パンフレットからなのよね。

 信じるにはとても値しないのだけれど……。

 ユーナが期待を胸に膨らませているし……ここは付き合うべき?

 でも、もしそれが本当でなかったら……ユーナはまた悲しみに包まれる。

 

「あっしもガンデリオン大陸はヨトゥンヘイムくらいしか行ったこと無いわけ。ニーニャは?」

「私もヨトゥンヘイムとアルフヘイムだけですね。当時はどこも入国するのさえ難しかったので……」


 北欧神話の国名が次々と……まさか9つあるんじゃないでしょうね?

 あれ、でも……この前のドラゴン、じゃなくて神族だっけ。

 ゼウスの子孫って聞いたけど、ゼウスってギリシャ神話よね?

 北欧神話の国名とギリシャ神話の神様の名前が混同してるの?

 ……異世界だから気にしちゃいけないのかな?

 そうだ、地図に国名が書いていないから聞かないといけないわね。


「ミャク島を含む、この東端の島国はなんていう国名なの?」

「あそこは確かミズガルズ領だったはずです。水の国、シィーさんの生まれ故郷ですね」

「えっ、じゃぁ……ママに会えるの?」


 ユーナのお母様の故郷か……それなら、行ってみてもいいかも。

 他のことで少しでも悲しみを埋められたら、何もなかったときのショックも少しは少なくて済むもの。


「ユーナ、リュージは異世界から来たんでしょ? それならユーナのお母様って……」

「以前、リュー君に見せてもらった写真じゃ確かに別の世界にいるわけ」

「お母さんは詳しく知らないのですか? ディーテっていう悪神はシィーさんのことを大罪人って言っていたのだけれど……」


 そうだ、確かに言っていた。

 そのことも詳しく聞きたいわね。


「大罪人ねぇ……シィーのしたことを考えれば、そう言われても仕方ないわけね。失敗したのだけれど」

「ユーナのお母様が過去に何をしたの?」

「シィーがしたこと……それは世界の分割なわけ」

「世界の分割?」

「神族の世界、神界とあっしらがいる人間界、そして神族の遊びで人間界の敵対国にされた魔界、この3つをそれぞれの別の世界に分けようとしたわけ」

「なんでそんなことを?」

「永遠に終わらない争いを終わらせるため……って、シィーは言ってたわけ」

「それって、お母さんがいつも言ってる勇者と魔王の戦いのこと?」

「そそ、それを一種の娯楽として見てる神族が一番の元凶なわけなんだけど……」


 別の世界にわけるって私の世界のように神様や悪魔が見えない存在になるってことなのかな?

 それとも、異世界のように完全に別の世界とすること?

 そんなことができるの?

 いや、できたとしてもそれって……この世界の終焉を意味するのでは?


「悪い言いかたをすると……世界を滅ぼそうとした?」

「えっ……ママがそんなことするはずないじゃない!」

「まぁ、だりっちの言う通りに神族は受け止めているわけね。あっしから見れば、お気に入りのおもちゃを壊されかけて集団リンチにかけようとしているお子様の集団にしか思えないけどね」

「そんなことがあったなんて……まったく知りませんでした」

「ニーニャ、あんたの勇者が負けたのも神族が関わっているのは覚えているわけ?」

「ええ、お母さんに聞いたとき受け入れられなかったですけど、ガンデリオン大陸に行って思い知らされました。神族のかなり上位の存在が賭博に操作をした……」


 賭博に操作……どういうこと?


「あっしは人族と魔族が仲良しになれば、神族も諦めるかと思っていたわけなんだけどぉ……どうやら、神族の経済界にかなり浸透しちゃってるようなわけでどうしようもないわけね」

「それってどういうこと?」

「だりっちとユーナちゃんも知っておくわけ。勇者と魔王の戦争は神族が始めた賭博の対象なわけ。人族も魔族も神族からしたらただの駒なわけよ」


 酷い……戦争が別の国の遊びになっているなんて。

 私の世界では考えもつかない外道なことだ。

 いや、戦争のおかげで別国が特需景気になったりするのも似たようなものか?

 こっちの世界のほうが外道の度合いが過ぎるだけだ。


「ま……そんなのを一般神いっぱんじんが口で言っても、お偉方は聞くはずもなくシィーは思い切った行動に出たわけね」

「それで大罪人……」

「神族に怒りを買うとしつこいわけで、追手から逃れるため、どうやってか知らないけどリュー君と別の世界に渡ったみたいなわけ」


 そんな経緯が……。

 でも、それならユーナはなんで連れて行ってあげなかったのだろう?


「なんで、ユーナは置いてけぼりに……」

「突然の襲撃があったのでしょうね」

「あっしも突然いなくなったから驚いたわけ。たぶん、ニーニャの言ったようにリュー君と二人で散歩していたときとかね……」


 その頃はユーナはまだ産まれたばかりで、この家でお父様が面倒を見ていたとかかしら?


「私は特に気にしていないわよ。ママが生きているって知ったときは凄い嬉しかったし、この家で育ったおかげでダーリンにも会えたんだからね」

「ユーナ……うん、そうよね」

「ずいぶん、脱線しちゃったわけね。えっと、どこから話せばいいわけ?」

「えっと……東端の国がミズガルズってわかったから、そこへの行きかたかな」

「ミズガルズは西のアルフヘイムとヨトゥンヘイムからほぼ真逆の方角ですね」

「テレポートで跳んでいけるのは行ったことのあるこの二国なわけで……でも、ニーニャはテレポート使えないわけね。あっしもこの傷だし……」


 テレポートの魔法は自身が行った場所じゃ無いと行けないし、私も行ったことのない初めての場所は地図と写真がないと跳べない。

 アルス大陸の最東端から目で見ながら跳んでいくって方法はできるけど……途中に海を挟むから限界が来ると海に落ちてしまう。

 私、泳げないのよね……。

 研究員が私をさらにレベルアップさせるために考えてくれた方法もできなくはないと思うけど……大陸なら溺れることはないか。


「ユーナ、ガンデリオン大陸のどこに出るかわからないけど、それでもいいなら私が跳んであげるわ」

「ダーリン、ほんと……大好き!」


 ユーナが私に抱きつく。

 もう、ユーナったら……直情的過ぎて食べちゃいたいくらい可愛いわね。


「ダリアさん、それってどういう方法なんですか?」

「後で説明するわ。もう行く方向で決まっているなら、先に準備しましょ。あまり考えたくないけど戦闘が無いとも限らないし」

「ま、頑張って行ってらっさい。あ……そだ。だりっち、連絡先交換しとくわけ」

「そうね、何かあったら連絡するわ」


 この世界でもスマホがあると本当に楽で助かるわ。

 魔界の写真は検索で比較的簡単に見つけて、跳ぶことはできたんだけど神界はいくら探しても出なかったのよね。

 情報統制の厳しい国なのかしら?

 

「ニーニャもついて行ってあげるわけ」

「ええ、そのつもりです。お母さん、一人で大丈夫?」

「そのうち、ジョンも帰ってくるだろうし、あいつに面倒見て貰うわけよ」

「わかりました」

「それじゃ、ダーリン、ニーニャ! レッツゴ――!」


 



 


 

 

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