第104話 ダリア編5

 「あ、そうそう。みんな、神族は基本的には友好的だけど、だからって男神には気をつけなさいよ。大変なことになるから」

「何かあるの?」

「えっと……あはは。相手に気を許すと、その……赤ちゃんが……」

「え……何?」


 ニーニャが顔を真っ赤にして、ルーシィはニヤニヤしている。

 男神っていっても、所詮は男でしょ?

 男なんて私は眼中に無いわよ。

 私が惚れているのはユーナだけなんだから。


「ダーリン、ちょっと良い?」


 準備をするため自室に戻ったユーナが階段上から声をかけてきた。


「ん、どうしたの?」

「回復薬を買いに行かないとダメみたいなの。いつも、リュージに任せてたから」

「それじゃ、どこかの町で買わないといけないわね」


 ドリアドの町は勇者一派によって荒らされたから、道具屋もやっていないでしょうし……ホスピリパも跡形もなくなってしまったわね。

 あとはどこがあるかしら?


「ドリアドの町に住人は戻っていないのかな? シスターに魔法壁のことで相談したいことがあるのだけど……」

「たぶん、まだだと思うわよ。連れ去られた後のことを私はあまり覚えていないし」

「ゼファー岳でうまく離れることができたのが私とユーナさんだけでしたからね。その後の住人のことは……」


 忘れ去られるモブたち……どこの世界でも同じなのね。

 ニーニャともあろう人が、少数を生かして多数を殺したままにしないと思っていたけど……いろいろあったみたいだし単純に忘れていたのだろう。

 うん……モブってそういう運命なのね。

 でも、助けれるなら助けてあげたいのだけど……。


「でも、なんで勇者は女の人ばっかり連れ去るんだろうね? 男嫌いなのかな?」

「何か理由があると思いたいけどね。いやらしい理由じゃなくまともな理由が」

「そうだ、ギルドの隠し倉庫に行ってみますか? 勇者軍に無理矢理、開けられてなければ無事だと思いますよ」

「そうね、男の人たちはアンデッド化してどこかへ行ってそうだし、戻ってくる前に壁も作っておきたいわ。ダーリン、ドリアドの町に行こ」


 え……遺体を放置したままにするとゾンビになるの?

 やだ……怖い!


「それじゃ、案内しますね。お母さん、そのままガンデリオン大陸に向かいます」

「気を付けて行ってくるわけ。ニーニャはリュー君のために処女は守るのよ――」

「ちょっ! お、お母さん!」


 もうとっくに脈アリはわかってんだから、リュージが生き返ったら協力してあげようかしら?

 リュージとニーニャがくっつけば……むふふ、ユーナは私が独り占めできるわ!

 ドリアドの町のギルドにあるという隠し倉庫、建物の中に入ったときはすでに荒らされていて、もしかしてと思ったが……。


「隠し倉庫ってこれよね?」

「ええ……」


 本棚の後ろにある空間を有効利用しただけの簡素な作りだった。

 こんなのハイエナのように鼻の利くならず者にとっては、なんてことの無いただの物置同然だ。

 すでにもぬけの殻ですべて奪われてしまっていた。


「ダーリン、どうしよう?」


 あと必要なのは回復アイテムくらいなのよね。

 ゲームってほとんどしないから、回復アイテムの重要性が正直ピンとこない。

 ステータスのポイント振りも、深く考えず平均的に振ったらバカにされたし。

 どこでも売ってるものなら緊急性もそれほどないわよね?

 

「ユーナ、大丈夫よ。ニーニャ、向こうの大陸でもアイテム屋ってあるんでしょ?」

「え……ええ。あるにはありますが……」

「どうしたの?  歯切れが悪いわね」

「どこに跳ぶのかわからない以上、最低限のアイテムは持っていくべきかと」


 それはそうなんだろうけど。

 危ない目に遭ったら跳べば良いというのが私のやり方なんだよね。

 私の能力は初めから持っているものだから、MPなんていう煩わしい枷なんか無いし。

 魔法だってライブの演出に使えそうなものを取得したけど、詠唱のせいでライブ中に使えないのよね。

 無詠唱も練習すればできるらしいけど、そこまで重要性があるわけじゃないし後回しにしたままだ。

 

「何とかなるわよ。ユーナもニーニャも私が守ってあげるから」

「ダーリン……もう、大好き!」


 ユーナが私に抱きつく。

 うんうん、まったく可愛いわね。


「あ、あはは……わかりました。それでは、行きましょうか?」

「そうね、ニーニャも私に掴まって」


 東にある大陸、ここではない大陸。

 写真があればその景色を頭に入れて念じるだけで確実にその場所に跳べる。

 その方法が正道だとすれば、こっちの跳びかたは邪道だ。

 レベルアップのために能力研究の先生が考えてくれた次のステップに進むための方法……凄く単純だ、写真を見ずにこんな場所だろうなと想像した場所に跳ぶ。

 何度か練習をして跳べた場所が地図と一致しているのは60%くらいかな。

 違う場所だったら、また試せば良いだけだし簡単だ。

 神族の住む大陸か……それぞれの国名も北欧神話だし映画で見たことのあるような神殿を想像してみる……そして跳ぶ。


 ヒュン


「こ……ここは?」

「ニーニャ、どこかわかる?」

「ここは……どこかの神殿のようですね」


 それくらいは見ればわかるわよ。

 ニーニャも知らない神殿か。

 でも、想像した通りの場所ね。

 我ながら大した能力だわ。

 それにしても誰もいない。

 辺りのものはすべて綺麗に維持されているから、誰かが手入れをしているのはわかるけど……もしかして立ち入り禁止の場所とかかな?

 

「とりあえず神殿から出てみましょ」

「うん」

「ダリアさん、気を付けて行きましょう」

「ええ、わかっているわよ」


 神殿から出ると周辺は深い霧に覆われている。

 それと……光る木?

 何本か生えているけど、あんなの見たことが無いわね。

 光る木が一直線に綺麗に立ち並んでいる。


「この木はホーリーウッドですね。ガンデリオン大陸にしか生息していない珍しい木です。これがあるということは……」

「さすがね、ダーリン!」


 ほっ……良かった。

 いちおう、目的の大陸には来れたわけだ。

 次はこの場所がどこか知ることと、ミズガルズの写真を手に入れることだけど。


「おそらく、ホーリーウッドの光に沿って歩けばどこかの町に着くと思いますよ」


 なるほど、街灯のようなものか。


「そうなの? それじゃ行こっか、ユーナ」

「うん、最東端の島国に向かってレッツゴ――!」


 それにしても霧が深いわね。

 まぁ、幻想的な感じは十分に出ているけどね。

 

「この光る木っていわゆる街灯みたいなものかしら?」

「そうですね、こっちの大陸はアルス大陸より魔素濃度が高いので珍しい植物や動物もたくさん見られますよ」

「へ――。ね、ニーニャん。私の魔法もこっちじゃ威力が上がるのかしら?」

「環境依存魔法なら上がるでしょうね。例えば川の近くで水属性魔法を使うとかですね」


 へぇ、そういうものなんだ。

 火がないところで火を起こすのは苦労するけど、焚き火の側で新しい焚き火を作ろうとするのは簡単なことと同じ原理なのかな?

 まぁ、モンスターに遭遇したときはニーニャに任せればいいわよね。

 ユーナは言わなくても突撃しちゃいそうだから、そっちに気を使わないと。


「あっ! ダーリン、光る蝶よ! 凄く綺麗ね」

「ほんとだ……あれも魔力で光ってるの?」

「ええ、あれはホーリーバタフライの一種ですね」


 それにしても、珍しいものばかりでユーナも気を取られて良い感じじゃない。

 うんうん、やっぱりユーナはこうでなくちゃ。


「あれ? あそこにふわふわ浮いている黒いもやは何なの?」

「あれはモンスターの一種でしょうか? 見たことがありませんね」


 モンスターにしては姿形が無いというか……単なる靄よね?

 でも、黒いし近付かないほうが良さそうだ。

 ユーナは何も考えずに近付きそうだし、先に注意しておかないと……。

 

「ユーナ、気を付けて……はれれ?」

「ニーニャん! これは何なの――!」

「ユーナさん! それに触ってはいけません!」


 はれれれ――!?

 もう近付いちゃってる――!?

 


 


 

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