第101話 ダリア編2

「ん……ん……ふぁぁ」


 どうやら眠ってしまったようだ。

 目を開けるとユーナの寝顔が凄く近くにある。

 そっか、肩を寄せ合ってそのまま寝ちゃったのか。

 ふふ、ユーナの寝顔はいつも通りね。

 起きたら少しは気が晴れていると良いんだけど。

 ユーナを起こさないようにベッドから起き上がり部屋を出る。


「あっ、ダリアさん。おはようございます」

「うん、おはよ……あれ? ユーナのおじ様は?」

「それがどこにもいらっしゃらないみたいで……」


 そういえば、早朝に帰宅したときもいなかったわね。

 別の場所にも畑とかあるのかしら?

 それとも、ずっと戻らないから心配になって探しに行ったのかな?

 どちらにしても居場所がわからない以上、どうしようもないわね。

 

「ダリアさん、簡単なものですがサンドウィッチを作ったのでどうぞ」

「ありがとう、いただくわ」

 

 食べ物を見たときに凄くお腹が減っていることに気が付いた。

 カレンダーの日付を見ると勇者軍に攫われてから、かなりの時が過ぎていることに気が付く。

 その間の記憶は……。

 あれ……はっきりしない、頭に靄がかかったような……どういうことなんだろう?


「ニーニャ、聞きたいことがあるんだけど……」

「はい、何ですか?」

「私たちが攫われてからの記憶が無いんだけど……何か知ってる?」

「そうですね、それに関しては無事に解決したのでお伝えいたします」


 無事に解決?

 私の意識が無い間に何があったの?


「まずはダリアさんは白衣の女性に連れていかれたところまでは覚えていますよね?」

「ああ、あの生意気そうなおばさんね。彼女の部下が凄く薬品臭かったから覚えているわ」

「あ、あはは……薬品ですか。そのあとダリアさんは呪術をかけられて目覚めることの無い眠りについてしまったんです」


 えっ……なにそれ?

 怖いんですけど……呪術って呪いよね?


「じゅっ……呪術!? 何よ……それ? 私の身体は無事なのよね?」

「ええ、呪術は精神を侵す魔法ですので、身体に異変は無いはずです」


 精神を侵すって……それも十分、怖いでしょ。

 私って今は普通よね?

 なにかおかしいことしていないわよね?


「そ……そう。それで私が目覚めたのってユーナたちが助けてくれたってところかしら?」

「ええ、ユーナさんがリュージさんと愛輝さんを半ば無理矢理連れて……あっ、すみません……愛輝さんはもう……」

「そうね、愛輝はもうどうにもならないのよね? 私が起きたときには血を流して倒れていたし……」

「はい……ダリアさんが目覚めたのも愛輝さんが存在を消してまで救ってくださったのですよ」

「存在を消した? どういうこと?」

「そのままの意味です。霊体となった彼がダリアさんにかかった呪術を魂魄に取り込んで消滅してしまいました」


 愛輝が?

 そうなんだ……この世界に来てからずっと応援していてくれたのは嬉しかったけど、まさか命を捨ててまで助けてくれたなんて……本当にありがとう。

 彼の分も頑張って生きないとね。

 

「そう……愛輝のおかげで私は助かったってわけなのね。それがわかっただけでも嬉しいわ」

「い、いえ……呪術を解く前にあの神が現れて」


 神……あれが?

 確かに背中には翼が生えていたけど、あの女って神様だったの?

 ドラゴンに変身したんだけど……神様ってドラゴンになるのが普通なのかしら? 

 さて……ご飯も食べたし……ニーニャに今朝の続きを聞かないとね。

 

「ごちそうさま……で、ニーニャのお母様は?」

「そうでしたね……ダリアさん、こちらへ」


 ルーシィのいる部屋へ案内された。

 

「あら……あんたは?」

「はじめまして、ルーシィさん。結城ダリアって言います」

「えっ……ええ――! あの超人気アイドルじゃん! なんで、どうして!? ここにいるわけ? ニーニャ、いつ知り合いになったわけ!?」


 あ……あはは、知ってくれていて嬉しいわね。

 でも、本当に喋りかたまで今どきって言うか……とても、ニーニャの母親なんて……若ママにしか見えないんだけど。


「お母さん、ユーナさんには後で話そうと思うの。私とダリアさんにまずは話を聞かせて貰える?」

「そう……リュー君たちの件は聞いたわけ。でも、神龍が相手ではね……あんたたちが無事なだけでも奇跡ってわけよ」


 ルーシィか……超長生きでいろいろと知っているというのは本当らしいわね。


「単刀直入にお聞きしたいのですけど……欽治君や雪ちゃん、リュージはなんとかできるのですか? ニーニャからルーシィさんなら何か知っているかもって聞いて気になっていたのですけど……」

「何とか……か。ニーニャ、この世界の理はしっているわけ?」

「ええ……死んだ者は生き返らない。蘇生術なんて、そんな都合の良い話は存在しない。それだけは神でも変えることのできない事実」


 それはどこの世界でも同じなのね。

 ファンタジーっぽいから、少しは期待していたけど都合の良い話……か。

 確かにそうよね。

 能力がレベル7になったころから、地球とは別の世界があることに気付いた。

 感じることができたって言ったほうがいいのかしら?

 地図も場所もわからないのに、こんな感じの世界があったらいいなって思う場所に適当に能力を使ったのがきっかけだった。

 私の世界以外にもいくつかの異世界がある。

 その中でも、ここは簡単に来れる場所だった。

 他にも跳べた異世界はあるが私の世界へ戻ってから、また行こうとするとなぜか跳べない世界ばかりだった。

 おそらく、私が部外者だからその世界たちは私が再び来ることを否定したのだろうと能力研究員も言っていたわね。

 この世界はそれが無いのか規制が緩いのかわからないけど、何度も足を運ぶことができた私の第二の世界だ。

 ルーシィの顔が険しい、なにか考え込んでいるようね。

 

「う――ん……だりっちって呼んでいいわけ? あとタメでいいから……敬語は苦手なわけ」


 いきなり何を言い出したかと思えば……。

 まさか、険しい顔をしてたのは私の呼びかたを考えていたの?


「ダリアさん、ごめんなさいね。お母さん、今は真面目な話をしているのよ」

「あはは、お通夜モードには慣れていないわけ! だりっち、本題に入るわけ」


 まったく、この人は。

 でも、明るい性格は嫌いじゃないわ。

 

「うん、教えて」

「可能性は0だけど……不可能でもないかもしれないってわけ」

「えっ、そんな……お母さん、それって世界の理は!?」

「だから、可能性は0」

「でも、不可能でもないかもって?」


 凄く厳しい試練を受けるとかかしら?

 でも、不可能じゃないかもっていうのが気になる。

 

「教えて、ユーナのあんなに悲しい姿は見たくないの! それに……」

「あらぁ? もしかして、だりっちもリュー君にホの字なわけ? だめよ、ニーニャにあげてちょうだい。この子もいい加減、結婚してほしいわけでさ」

「ちょ、ちょっと……お母さん! 私は!」


 あはは、顔を真っ赤にしちゃって……リュージ、良かったわね。

 あんたの頑張り次第でニーニャはゲットできるかもよ。

 ユーナは私がもらうけど文句はないわよね?


「話を戻すわよ。ルーシィさん、教えて!」

「この世界の東にある大陸ガンデリオン……」

「神族の治める大陸じゃない!?」

「その大陸のさらに東に島国があるわけ。ニーニャ、地図持ってきて」

「ええ」


 ニーニャが地図を持ってくる。

 今いるのは北西側のアルス大陸、南は魔界と呼ばれるグランディール大陸だ。

 そして北東部、この世界で最も広い大陸……神族が統治するガンデリオン大陸だ。

 そのさらに東には小さな島々があるようだ。

 

「この島々はね、大昔に神族間で起こった戦争によって残ったガンデリオン大陸の残骸なわけ」


 大陸を削ってしまうほどの争いがあったなんて、まるでアニメの世界ね。

 でも、あのドラゴンのブレスを見たらそれが本当のことなんだと納得できるわね。


「えっと、確かこの島だったかな? ミャク島って言ってね太古の森が存在する島」


 ルーシィが指で示した島はかなり小さい。

 その島の北部に日本に似た島々があるけど、そこじゃないんだ?

 屋久島じゃなくて、ミャク島……縄文杉とかあるんじゃないでしょうね?

 でも、森か……モンスターがたくさんいそうで怖いわ。


 

 



 


 

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